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13.小休止、あるいはただのお散歩

少し短めです。


 さて、現在地は街の外になる。南西に広がる草原に居た。

 モンスターと戦ってみようかと思い立ち繰り出してきた次第だ。


 鼻歌交じりに草を踏み、辺りに視線を巡らせながら歩く。


 見える範囲のプレイヤーの数はそこそこ、といったところ。

 まあ、街の近くだけで他に5つもフィールドがあるのだし、奥に進めばさらに選択肢が増えることを考えれば、この草原は多い部類だろう。


 モンスターが不意に襲いかかってくることもなく、悠々と歩くことが出来る。散歩と変わらぬね。


 見たところプレイヤーたちには初心者が多いようだ。

 おっかなびっくり武器を振るっているが腰は引けているし、魔法やら弓やらを外してしまっている。中々に微笑ましいものだ。


 彼らのほとんどは徒党(パーティ)を組んでいた。

 2人から3人、多いと6人が集まってウサギを袋叩きにしている光景を見ると、前言撤回、微笑ましさは無いな。


 そう言えば東の平原ではデカイウサギが大暴れしたと聞いたが、こちらではそんなことはないようで。平和とは言いがたいが、慌てるようなことはなく散策が出来た。



 掬い上げるようにメイスを振るう。

 飛びかかってきたウサギの顔面を打ち返して一発KO。青いポリゴンとなって爆散し、わずかだが経験値の足しになる。


「……強くないねえ」


 むしろ弱い。

 こんな程度ではコロッセオの連中と比べるまでもない。

 これを相手にしていて満足出来るのか不思議に思う。周囲のプレイヤーの様子を窺って見れば、彼らは皆余裕はあれど本気で戦っていた。




 数瞬考えて、疑問は氷解した。


 単純な話、コロッセオのレベルが高いだけのこと。比較対象が悪かったのだ。


 草原はレベルが1のモンスターが出る初心者向けのエリアだ。ソロでも攻略が出来るように調整されていることだろう。

 対してコロッセオはそんな調整など無い。負けるなら負けるで仕方ない。それで嫌気がさして辞めるならそこまで、と割り切られている、ように思う。


 ついでに言えばプレイヤーの層も違う。

 倦厭されがちな対人戦をわざわざやろうと集まって来ているのだ。そんな物好きは初心者よりも他ゲーからの経験者が多くなるに決まっている。そして全プレイヤーという母数に対して、それらはかなり少ない割合となる。



 要は、コロッセオは運営も結構好き勝手しているのだろう、ということだ。





 サクサクと草を踏んで、街から離れて行く。

 そこそこ歩いただろうか。


 また飛び出してきたウサギを迎え撃つ。

 タイミングを合わせて、メイスを一振り。「……ぎぃっ!」と鳴き声をあげて吹っ飛んでいった。


 やはり物足りない。

 ウサギたちは、一々姿を見せてから突進をしてくるのだ。

 一騎討ちで名乗りを挙げる侍でもあるまいし、とっとと来いと思うのだが……。

 このあたりも初心者向けの調整だろうね。


 街から離れるほどにモンスターは強くなるらしい。

 一直線に突き進んだら街が見えなくなった辺りで奇襲されて死に戻った、という掲示板の書き込みを数件見ていた。



 人だかりが見えてきた。

 草原の真っ只中に不思議なことだ。何をしているのか気になり、近付いていく。



「これは何の集まりだい?」


 人だかりの端の方に居たプレイヤーに声をかけてみる。

 おおよそ何の集まりかは推察できていたが、念のためだ。もし仮に違っていたら大変だからね。


「ん? 何だよ知らないのか。フィールドボスだよ、フィールドボス」


 挑むなら後ろに並びな。

 そう言われたが、人だかりから離れる。ソロで挑むのはさすがにまだ無理だ。

 いつかはやってみたいが、現状勝てるとは思えない。そこまで自惚れちゃいないのだ。


 フィールドボスに挑むには、石碑に触れれば良い。誰かが触れればインスタンスフィールドに飛ばされて、そこで戦闘開始だ。

 掲示板によると、この南西の草原にある石碑ではウサギの怪物と戦えるらしい。話題になっていたデカイウサギとは別物だ。


 『ラビンキー』と言うそいつは、スクリーンショットを見るに確かにウサギの怪物としか形容出来ない何かだった。

 全体的に丸みを帯びたフォルムに長い耳は正しくウサギなのだが前足が異様に長くサルのようで、顔も可愛らしさなど欠片もない醜悪なものとなっていた。そんな奇怪なモンスターの大きさが、プレイヤーと同じくらいとなれば全身が粟立ってくる。

 それまでに草原で出てくるバランスボール大のモコモコしたウサギからの落差がひどい。モンスターデザイン担当は、ウサギに何か恨みでもあるのだろうか。


 とにかくそんなモンスターと一対一はまだ無理である。挑んだパーティの半分程度しか勝てていないのなら尚更だ。




 ──街に向かって草原を戻る。

 本当にただの散歩になってしまった。


 まあ、収穫が無かったわけではない。

 モンスター相手でも、ウサギばかりだが、問題なく戦えそうであると分かった。可愛らしくてもぶっ叩けることを確認出来たのだ、良しとしよう。


 素材?


 残念ながら二束三文にしかならない。十分に供給されていて、かつ元々安値で性能も低いのだ。仕方ない。



 また飛びかかってきたウサギを盾で弾いて、転がったところを打ち据える。すぐにポリゴンとなった。



 やはり、しばらくコロッセオで良いな。

 あそこは相手に困らない上に、バリエーションに富んでいる。全て人型相手になるが。


 コロッセオ内での評価を上げていくように、クエストで指示もされている。

 稼ぎだって安定している。

 戻ったらまた試合組んでいこう。



 ……そう言えば、モンスターが死亡した時にポリゴンが爆散するのとNPCがコロッセオで敗れた時に消えるのでは演出が異なっている。


 歩きながらヘルプで確認をしてみる。



 コロッセオ内ではNPCでも死に戻りが出来るために演出が異なるのか。プレイヤーがデスした時と同じらしい。

 つまり、NPCはコロッセオ外で死亡するとポリゴンになるものと思って良さそうだ。

 だから何だよ、というトリビアを得た。

ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。


『ラビンキー』は足場の多い森の中を得意としているため、草原のような開けた場所では脅威が半減します。前足が半端に長いせいで四足歩行が苦手なのです。


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