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異世界派遣社員の渇望  作者: よぞら
雪の章
33/41

雪原

 王道とは物事を進めるにあたり、正しいと思われる方法の事である。

 正攻法、定番、定石、典型ともいう。


 異世界転移における特殊能力とは儀式による召喚や神っぽいものの力で転移させられる過程で付与される超常的な力の事である。

 水・風・火・雷などを操る魔法系や剣術や槍術などの武術系と超能力系など種類はさまざまである。

 大抵は良スキル・良ステータスが与えられるが、反対に不遇スキル・弱ステータスの場合もある。しかし修行または機転を活かして最終的には良スキル・良ステータスを手に入れることが多いだろう。


 さて、話は戻るが王道とは型に嵌った無難な事である。

 主人公は最強または能力値が最良であることが一般的だ。

 理不尽としか思えない最強スキル・最強ステータスを序盤から使える最初から最強であるパターン、何らかの修行を得て地道に徐々に最高になるパターン、とある分野にて博識な知見者やもともと何かの達人で無自覚に最強になるパターン、特殊なスキルを上手に使い頭脳戦にて最強になるパターン、現地の最強生物が仲間となり使役することで最強となる5パターンが定石である。


「そこで質問です。大義任された特殊な転移者と新人類なんて言われた世界の理すらぶっ壊したチートの最強転移者が二人揃っているのに真っ赤な雪山をちまちま地道に歩いているのは何故でしょうか。」

≪答えはどう考えても君が物語の主人公ではなく地味なモブだからじゃない?≫


 何所までも続く四方八方真っ赤な雪原を歩きながらぼやくと先導する角板付樹枝と呼ばれる形を模した雪の結晶、ヴィクトルが透き通るテノールで辛口のコメントを返した。


「モブって言うなクソジジィ!」

≪口が悪いよ?ヨウちゃん。≫

「気持ち悪いからちゃん付けやめて!」


 クソジジィと言われたヴィクトルは大きな舌打ちをした。いつもは軽く流すが本日は虫の居所が悪いようだ。


「だいたいさ、魔法陣と特殊能力とか使って一瞬で目的地に行けないの?アルドからジュビアには一瞬だったじゃんか。」

≪あれは気の利いた調律師ちゃんが命がけでα元素汎用術の転移術を施してくれたんだよ。文明が発達すると直ぐに楽な方へいこうとするのは人間の悪い癖だね。≫


 言いながらヴィクトルは襲い来る四足歩行で転がるように襲ってきた毛むくじゃらの何かを一瞬で凍らせる。取るに足らない事だか人間だった頃のヴィクトルは徒歩10分の距離でも乗り物を利用していた。


「うるさいなぁ、凍らせるところしか見てないけど他に何かできないの?」

≪自分は何の能力もない癖に他力本願なんて悲しくならない?≫


 ヴィクトルの言うとおり、能力は開花しておらず今のヨウは紛うことなき人外の役立たずだ。しかし、不快に感じたヨウはゴミを見るような視線を送った。


「人が気にしている事を……。」

≪本当に飛ばない豚はただの豚だね。≫

「飛んだところで豚は豚でしょうが!女の子に豚っていうな!」

≪豚が気に喰わない?世間の印象と違って実際は清潔だし可愛いじゃないか。それに臓器の大きさ、繁殖力、臓器の解剖学的類似性からドナー用の内臓牧場の生物として抜擢されているんだからヨウよりも豚様のほうが人類に貢献しているよ。≫


 貶してくるヴィクトルにヨウは雪玉を投げつけた。目があるのか定かではないがヴィクトルは軽々しく避ける。


「避けるな!馬鹿っ。」

≪馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ。ヨウちゃんのお馬鹿さーん。仮に君の望む能力が使えたとして人や生物に向かって使えるの?チキンちゃん。≫


 言われてヨウは一瞬考える。想像していた異世界の魔法が使えたとして先程の様な毛むくじゃらの獣が襲ってきたとき躊躇なく放てるか。答えは秒ではじき出された。


「無理に決まってるでしょっ。台所の黒い悪魔だってお母さんに駆逐してもらうのにっ。」

≪思想からして小者でモブだよね。クイーンオブモブだね。≫

「モブって言うなっ。畜生、魔法で燃やしてやりたい。」


 視覚的に生き物の形をしている存在は無理でも雪の結晶という自然の造形物をしたヴィクトルならば火球くらい投げつけられるかもしれない。相手が無傷であるという前提があっての行動だが。


≪君って二言目には魔法だの魔術がどうのだの夢物語を語っているよね。相変わらず痛いもの患ってるねぇ。≫

「言っておくけど魔法と魔術と魔道は別物だからね。魔法は不思議な現象や力、魔術は知識や技術、魔道は学問や研究のことだから。ついでに魔道士は魔の道を歩む職業で魔道師は魔の道を歩む高位技術者で魔導士は魔を誘導する職業で魔導師は魔を誘導する高位技術者で魔術士は定められた魔の術式を用いて魔術を再現する職業で魔術師は定められた魔の術式を用いて魔術を再現する高位技術者のことだから。」


 ヨウの長々と語られたどうでもよい講座にヴィクトルはわざとらしくため息を吐いた。


≪……君のその患った知識がここにも反映されているといいね。≫

「何よその言い方はっ。」

≪そもそも魔術の始まりは文字も言語もない時代の中で不作に飢えた人間の祈りだよ。≫


 何一つ科学技術を持っておらず祈る事しかできなかった人々は、どうすれば祈りは叶えられるのかと考えるようになった。

 何故、雨は降るのか。何故、食物は育つのか。何故、動物は生きているのか。それを追求し自然の法則に則った生きるための知恵と力が魔術と呼ばたことが起源だ。そして魔術は占星術や錬金術となり、時代を経て医学や科学へと姿を変えたのだ。


≪君の不可思議で謎の力がある魔法なんて存在しない妄想物なんだよ。≫

「夢も希望も血も涙もない。α元素汎用術はどうなったのさ。」

≪α元素は実現可能な現象を具現化する物質なんだよ。例えば、炎を灯すα元素汎用術を使うとすれば空気中に含まれる元素をα元素が強制的に結合させて炎を発生させるんだ。使用者が化学式を理解してα元素に正確に伝達して化学現象を発生させなきゃいけないから天才ですら使えない高難易度の技術だから。≫


 ヴィクトルの説明にヨウは首を90度に捻る。説明の半分も理解できなかった。


「よくわからないけどさ、調律師も始祖も不可思議で謎の力使ってるじゃん。」

≪君に理解できないだろうけど、俺たち稀人の力は科学的に解明されて科学の発展に大いに利用されていたから。R-0009の科学技術は数十年で数千年分の発展を遂げたよ。調律師の力もレイモンドが付与したものなら過去に解明された力だね。≫

「こんなバケモノめいた力が解明されているとかファンタジーって何?異世界って何?」

≪だからさ、ファンタジーじゃなくていい加減に現実を自覚しなよ。≫

「無理、こんな状況受け入れたら脳がバグる。」


 片方は現実を突きつけ片方は現実を跳ね飛ばしとくだらない言い合いを続けながら、1人と1片は真っ赤な雪原のかなたへ消えて行った。

◆台所の黒い悪魔…2億5千万年前には存在していたといわれる最古の有翅昆虫。Gとも呼ばれ正式名称を口に出すことすら憚られる嫌われ者。

◆α元素…実現可能な現象を具現化する物質。R-0009の現地では魔力や神聖力などと呼ばれている。

◆α元素汎用術…α元素を用いて化学現象を強制的に発生させる術。R-0009の現地では魔術や神聖術などと呼ばれている。


Gの処理の仕方、ビニール袋を手に嵌めます。摑み取りします。袋を縛ってガムテープで巻きゴミ箱にポイ。

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