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異世界派遣社員の渇望  作者: よぞら
雪の章
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樹海

 王道とは物事を進めるにあたり、正しいと思われる方法の事である。

 正攻法、定番、定石、典型ともいう。


 ハーレムとは一人の男性が複数の女性を周りに控えさせる、または侍らせることである。つまり男性一人に足しして多くの女性がいる、または複数の女性に好かれると言う概念を総称する言葉として用いられている。

 本来の意味からやや転じ、ごく少数の男性に対して女性の値が圧倒的に多いときにも使われる。

st 逆に1人の女性が多くの男性を侍らせたり、複数の男性が好意を寄せたりしているような状況は逆ハーレムなどと言われていた。


 さて、話は戻るが王道とは型に嵌った無難な事である。

 異世界転移において元の世界ではニートやフリーター、引き籠り、社会的地位はあっても特に異性にモテた事がない主人公が転移先ではヒロインまたはヒーロー含む様々な異性に無条件で好かれる事が一般的だ。

 色物を含むストーリーであれば多くの異性に囲われて言い寄られる描写があるだろう。

 つまりは主人公は容姿の優れた異性に好かれやすい事にに加え、手放しで賞賛される傾向が強い事が定石である。


「そこで質問です。仕事仲間には役立たずと貶され続けて、異性に好かれるどころか現地人と誰一人として接触せず、原始人みたいに原生林の大森林を歩いているのは何故でしょうか。オマケに植物の全てが巨大で気分は小人よ。」

≪答えはやっぱり君が物語の主人公ではなく地味なモブだからじゃない?≫


 何所までも続く古代のジャングルのような樹海を歩きながらぼやくと、先導する角板付樹枝と呼ばれる形を模した雪の結晶が透き通るテノールで辛口のコメントを返した。


「モブって言うなクソジジィ!」

≪口が悪いよ?ヨウちゃん。≫

「気持ち悪いからちゃん付けやめて!」


 クソジジィと言われた手のひらサイズの雪の結晶は何が楽しいのか笑い声をあげた。1000年も生きるとクソジジィと呼ばれたくらいでは気にならないようだ。


「だいたいさ、空飛べたり海泳げたりする大きめの生物が仲間になって楽に移動するのがテンプレじゃないの?なんで便利動物いないの?」

≪生き物を軽んじる発想は世界の支配種と勘違いする人間の悪い癖だね。≫


 言いながら雪の結晶は襲い来る超巨大サイズの昆虫を一瞬で凍らせた。取るに足らない事だか人間だった頃の雪の結晶は虫だろうが動物だろうが愛護したことはない。


「うるさいなぁ、楽に移動できる乗り物ないの?文明ヒャッホーな世界じゃん。」

≪あるにはあるけど才能のない君には使いこなせないよ。それにかわいい子には旅をさせよと言うしキリキリ歩こうか。≫

「私はブスだから引き籠るよ。」

≪君みたいな中途半端な容姿でブスを自称するのは真打のブスに失礼だよ。≫


 雪の結晶の言うとおり、美麗でも醜悪でもないヨウは紛うことなく普通の容姿だ。しかし、不快に感じたヨウはゴミを見るような視線を送った。


「本当に貴方って性悪だよね。陰険さだけなら黒幕にピッタリだと思うよ。ってゆーかさ悪役に喰われるって用語出てきたらイヤーンな展開がパターンじゃんさ。ガチの丸のみって何よ。突然すぎて動けなかったしちびるかと思ったよ。」

≪まず俺は黒幕でも悪役でもないし、君に猥褻行為なんて生理的に無理だよ。≫


 性的にみられても困るが、眼中にないどころか嫌悪感を覚えられるなど心外である。絶句するヨウに構わず雪の結晶は言葉を続ける。


≪本当なら一人でさっさと片づけるはずだったのに君がうるさいから体の主導権譲ったのに文句ばっかりだよね。こんなことなら君のことはギリギリまでユーレに押し付けておけばよかったよ。≫

「私の体好き勝手されてたまるもんですかっ。私だって優しくもない雪の結晶よりイケメンのライネさんと一緒に歩きたかったよ。」


 何とか正気を取り戻してヨウは反論する。

 雪の結晶に飲まれた後も意識は交わることも消えることもなく存在した。ヨウはもちろん抵抗に抵抗を重ね、暴れるヨウと無視する雪の結晶の我慢比べ状態となり数日。先に根を上げた雪の結晶が全面協力を条件に身体の主導権を一時的に渡したというわけだ。

 それでも自身の頭の中から声がする状況に耐えられないヨウの為に、一時的に意識を身体から剥離して雪の結晶の形を留めている。


≪なにさ、君の大好きな妄想通りに1億人に一人って言われる美少年と一つになれて良かったじゃん。≫

「私がそうなりたいんじゃなくて王道の展開の話だってば。」


 雪の結晶の言葉の選択に悪意を感じる。中学生のヨウにとっては興味はあっても複数の異性に言い寄られたり交わるなど体験したい話ではない。生理的に受け付けることができない。


≪話を聞く限り異性に好まれない人間が弾き出した妄想展開の話でしょ。何でもかんでも卑猥な展開へ移行する意味が解らないよ。日本の文学少女は欲求不満なの?助けた男に下着姿見てもらったり、攫われた男に添い寝したりしてもらったわけでしょ。≫


 雪の結晶の言うとおり、果敢なお年頃であるヨウは創作物の読み手として年相応のスケベだ。しかし、不快に感じたヨウはゴミを見るような視線を送った。


「見せたくて見られたわけじゃないし、後者に至っては人間扱いすらされてなかったんだから嬉しくないよっ。」

≪人間扱いされてたら嬉しかったの?≫

「だってライネさんってば顔だけなら海外のトップモデルかハリウッド俳優みたいじゃん。あの顔見ているだけでごはん三杯食べれるよ。」


 ライネは男らしくも整った顔をしていた。2次元から飛び出したかのように綺麗な男前な顔の男であった。しかしながら雪の結晶と同様に性格に難ありだ。そして500年程年上だ。どうやら人は長く生き過ぎると捻くれるらしい。


「ねぇヴィーって本当に美形だったの?思考回路腐敗したキモデブオタクじゃなくて?」

≪俺の容姿はどうでもいいけど勝手に愛称で呼ばないで。特別にヴィクトルって名前で呼ばせてあげるよ。思考回路腐敗した最弱勇者のヨウさん。≫


 雪の結晶改めヴィクトルの高飛車な態度にヨウは表情を歪ませた。転移して直ぐチルに見せられたこの世のものとは思えない美しい素顔が性格の悪さで埋没する。


「本当に貴方って残念なイケメンね。余計な事言わずに黙ってれば?」

≪君は俺と比べたら納得のおブスだね。余計な事考えないで走れば?≫


 発言を引用されて貶されたヨウは雪の結晶に足元の石を投げつける。しかし石は雪の結晶を通り抜けて地面へ落ちた。

 お返しにと雪の結晶はヨウの顔に目掛けてかき氷のような氷の粒を飛ばす。

 石と雪を投げつけながら、1人と1片は鬱蒼とした樹海へ消えて行った。

ヴィクターは超美形な美少年だけど男前ではないから恋愛対象から外れがち。

ライネさんはハリウッド俳優のような男前の美形なのでとてもモテる。

ウメは強面だから好みが分かれる面構え。肉章句系女子や男にモテる。

ヨウはその辺にいる平々凡々なお顔。少女漫画展開がない限りモテない。

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