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海底

 王道とは物事を進めるにあたり、正しいと思われる方法の事である。

 正攻法、定番、定石、典型ともいう。


 異世界転移とは1人から数人の人間が現代の地球とは異なる世界へ行くことである。転移の方法としては大まかに分けて三つの原因が上げられる。

 一つ、異世界から何らかの方法を用いて人為的に半強制的に召喚される。

 一つ、偶発的に地球と異世界を結ぶ道の様なものが出来、事故的または自主的に転移する。

 一つ、神のような超常的な存在による、超常的な能力によって半強制的に送られる。

 尚、ほとんどの転移時に本人の意見が尊重されることはない。


 さて、話は戻るが王道とは型に嵌った無難な事である。


 異世界転移としては現代の地球で平凡または平均より不幸な生活をしている現代人が何かの拍子にファンタジーの強い世界へ飛ばされて異世界を冒険することが王道パターンだろう。

 転移する過程で特殊な能力を入手、または身に着けていた地球の道具や知識で英雄伝説級の大活躍をするという事も補足しておく。

 主人公は劇的な成長を経て活路を開き、ハッピーエンドへ辿り着く。例え冒頭では弱者であってもライバルや悪役を蹴散らし英雄伝説のような反則級の能力や実績と身分も顔面偏差値も高い伴侶をちゃっかり手に入れて幸せに暮らすことが定石だ。


「そこで質問です。2013年の地球で平凡に生活していた何の特技も知識もない14歳の普通の、ごく普通の女の子が異世界に飛ばされて与えられたはずの能力は使えず、会話可能の溶けない手のひらサイズの雪の結晶と何か月も樹海やら雪原やら砂漠やらを永遠に歩くだけの生活をしているのは何故でしょうか。」

≪答えは君が物語の主人公ではなく地味なモブだからじゃないの?村人A的な。≫


 赤い海中で揺れる自身の白い髪を眺めながら200メートルほどの海底を歩きつつぼやくと、先導する角板付樹枝と呼ばれる形を模した雪の結晶が透き通るテノールで辛口のコメントを返した。


「モブって言うなクソジジィ!」

≪口が悪いよ?ヨウちゃん。≫

「気持ち悪いからちゃん付けやめて!」


 クソジジィと呼ばれた雪の結晶、元は15歳の少年である。色々とあって人間を止めて異世界の時間軸にて1000年程生きていた。純粋に14年と1年数か月しか生きていないヨウと呼ばれた少女からすればクソジジィ通り越して博物館のミイラ程の年の差がある。妖怪や化け物などの人であることを否定する呼び名でなくクソジジィと言われるだけ優しいのかもしれない。


「せっかくの異世界で魔王討伐する勇者とか自由気ままな冒険者とかじゃなくて800年の引き籠りの更生と存在するかわからない裏ボスの殲滅ってどんなクソゲーだよ。異世界に必ずいる空想生物はいないし、イケメンとの恋愛イベントもないし、魔法が使えないし、ファンタジーの片隅にも置けない最低ジャンルの異世界転移じゃん。」

≪魔王討伐って君の戦闘力なんて羽虫も殺せないゴミじゃんか。サバイバル耐性皆無なのに冒険って人生舐めてるよね。それに国宝級のイケメンと二人きりなのに不満なわけだ。≫


 言いながら雪の結晶は大口を開けながら襲ってきた大型の海洋生物を一瞬で凍らせる。取るに足らない事だか人間だった頃の雪の結晶は1億人に1人と言われる程の美少年だった。


「イケメンでも人外は論外だし。」

≪ヨウだって今はそこそこ人外じゃないか。俺達お似合いだね。≫


 雪の結晶の言うとおり、200メートルの海中を苦も無く歩く今のヨウは紛うことなく人外だ。しかし、不快に感じたヨウはゴミを見るような視線を送った。


≪あーあ、何でこんなことになっちゃったのかしら。そう思いながらヨウは1年と数か月前、この世界へ来た時の事を思い浮かべた。≫

「ナレーション擬きやめろクソジジィ!脳内再生されるじゃん!」


 思い通りになるまいと頭を振るが古くない過去の記憶はヨウの脳内で再生されはじめる。頭皮を掻き毟って抵抗するが14歳といえども体のつくりは女。

 男が論理の生き物ならば女は感情の生き物と言われるほど女性は男性に比べて感情の記憶が豊かであり、脳内にさまざまな感情が格納され感情にはそれをもたらした記憶が付随しているという。それは男性がフォルダ一つ分だとしたら、女性は本棚一列全部という程の差があるらしい。

 更に感情を伴う記憶へのアクセス速度は速く、瞬時に過去の感情を伴った記憶と連結する。

 理不尽な扱いを受けた負の感情がヨウの記憶フォルダーへ直結し、思い出したくない記憶まで本人の感情を無視して芋づる式に蘇るのだ。


≪ヨウの歩行スピードが無脊椎動物より遅くて退屈だなぁ。≫

「走ればいいんでしょ?くそったれ!」


 湧き上がる忌々しい記憶と怒りに苛まれるヨウは中学生女子の一般的な歩行スピードから一般的な走行スピードへ速めた。水の抵抗や浮力を無視して陸上のように走る。


≪これで目的地まで時間短縮だね。夕日に向かってゴーゴゴ-♪≫

「海底に夕日があるわけないでしょ。四方八方上下左右過去も未来も現在も真っ暗闇だっつーの。」

≪前世と来世は明るいといいね。≫


 コントのような言い合いを続けながら、1人と1片は暗い海底へ消えて行った。

◆ヨウ…200メートルの海底を生身で歩き続ける少女

◆雪の結晶…200メートル海底でも解けない会話可能な元人間。


王道って何なんでしょうね?

御覧いただきましてありがとうございます。

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