美人三姉妹
「ふぉ!」
と、変な声が出てしまった。
いや、わかっていた。そして覚悟もしていたことだがまさかこんなふおおおぉぉぉ!
……落ち着け俺よ。集中だ集中。そうだ、思い返せ。冷静にな……。
つい数十分前のこと。カーショップで俺はこの中古車に目をつけた。
黒のセダン。カスタムされているのはシートだけじゃないようで
金がかかっているのは間違いないのに低価格。走るのかと疑ったくらいだ。
無論、訊けば走ると店員は答えた。
でも……と、言い淀んだ後、店員は俺にこう告げた。
『事故車です』と。
幽霊や何やらが出るんだと。馬鹿馬鹿しい。俺は鼻で笑ってやった。
しかし現状、その鼻は匂いを嗅ごうと膨らむばかり。
そうとも、確かに幽霊は出た。
しかし、ふふん。
何という美女!
それも三人! 三姉妹か?
モテるためにまず車くらいはと思って購入したが
いやあ、これだけで満足してしまいそうだ。
無論、匂い同様実体はなく、触れはしないだろうが
む、胸の谷間が、これは立体映像と思えば中々実用的……。
おおっとそうか、こうしてよそ見するせいで事故を……。
それが彼女たちの、いや、コイツらの、いや、彼女たちの狙いか!
危ない危ない、まったく……ふぅぅぅともももふともももももも……。
「あら、お兄さん。もしかしてもう私たちが見えているの? 三人とも?」
「え、良い声。あ、いやうん。ふ、ふん、見えているぞ」
「そうなの……。ねぇ、追い出さないわよね? そうと言って?」
「うん? ああ、いいとも望むところさ。だがな、俺は事故なんて起こさないぞ。
君たちは地縛霊か何かだろう? 俺を今までの男たちと同じと思うなよ。
君たちの手口には乗らないし、恐れもしない。
それに優しいんだ。よく紳士だねって言われる。仕事だってなかなかできる方だし
三十代に突入したが腹周りも結構、引き締まっていてギャンブルもしない。
酒に溺れたりしないしと言っても強い方でそれもまた男らしいなんて言われるけど
まあ、自分ではそうは思っていないというか、まあ、それはいいとして
仕方がないから君たちが成仏するまでそばにいてあげるさ。
だからもう少しその薄手のセーターをちょっと捲るなり何なり――」
「あら? 地縛霊? 違うわよ。私たち、そんな低級なものじゃないわ」
「へ?」
「私は貧乏神」
「私は疫病神」
「そして私はだーれだ?」
「お、おい、手! 邪魔! 前が!」
「正解は、し・に・が・みっ」