支流の休息
アイルたちは崖沿いの斜面へ移動し、空から影になる場所を探した。しばらく進むと小さな洞窟があった。女を奥、男を手前にして穴の中に入り込んだ。
アイルは疲れて眠かった。荷袋から布を取り出すと、固く冷たい石の上に敷き横になった。
ルイが干し肉を皆に配った。アイルは口の端に咥えつつ言った。
「夜のうちに川を下りたい。みな今のうちに寝て体力温存してくれ」
アイルは肉を飲み込み体の横を開けた。そこに当然のようにルイが横に滑り込んできた。
アベルは怪訝な顔をして言った。「それは、どういう意味?……」
「体を冷やさないように一緒に寝るんだよ。お前も入れ」
「……気持ち悪ぃから無理だわ……」
「アベル、言う通りにして」テオが穴の奥から命じた。
アイルは顔を上げてテオを見た。このエルフ三人は一体どういう関係なのだろうか。いつの間にかテオは敬語を使わなくなっていた。おそらくエルザの身分を隠したいのだろう。想像だが、エルザが上級貴族でこの二人はお付きの護衛か何かだろう。
アベルは嫌々アイルの隣に寝た。アイルはアベルに上から毛布を掛けた。
「この布温かいな」アベルが言った。
「石綿っていうんだよ。繊維みたいにほぐれる石があって、それをフェルトにしてあるんだ」
「へぇ」アベルは生返事した後、顔を上げていった。「船だ」
アイルは体を起こした。ラインベルクの中腹には高い帆を掲げた巨大な船が悠然とその船体を滑らせ走っていた。
「あれはガレオン船だ」アベルが言った。
「ガレオン船?」アイルが尋ねた。
「遠洋航海用の船だよ。なんでこんな川の上流に…」
「あんなでかい船初めてみたな」ルイが言った。
「リンデンシュタットは超えられないんだから、上流の何処かであの船を造ったってことだよな」アイルは言った。
「あの船の舷側には大砲が備え付けられてるんだよ。やつらラインベルクをまるごと支配下に置くつもりじゃないかな」アベルが答えた。
たしかにそれが事実なら脅威だろう。しかしアイルには何もできることはない。強烈な眠気に襲われてアイルは思考を放棄し目を閉じた。やがて彼は眠りへと落ちていった。
アイルは夜中に目を覚ました。外では雨が降っていた。洞窟の庇には水が小さな滝となって流れ落ちていた。気温が低くなり肌寒さを感じた。
アイルは気配を感じて顔を上げた。テオがひとり体を起こしてアイルを見つめていた。
アイルは皆を起こして言った。
「今すぐ川を下ろう。この雨脚と暗さなら、かなりの距離を進めるはずだ。」
こうして八人は船に戻り、また川を下り始めた。




