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Solomon's gate (試作_6回目失敗)  作者: にしてつ
第一章 森の中の死体
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狩猟小屋にて

 アイルたちは一晩中川を下った。男たちが休んでいる間は女が交代して船を漕いだ。そのうちに夜は明けていった。

 やがてオルドの川幅は広くなり、さらなる大河であるラインベルクへ合流した。川の流れはより緩やかになった。水は濃い緑色になった。

 ローラント北部をを東から西へ走るラインベルクは、幾万もの支流に支えられ巨大な水量を保っていた。川幅は上流域のここでもすでに六百ヤードを越えていた。向こう岸も濃い森に覆われていた。

 アイルたちはしばらく進んだあと船の向きを変え支流の一つに入った。そして藪のなかに船を隠し一旦陸地に上がった。

「行ってくる」アイルはそう言い狩猟小屋に向かった。久しぶりに硬い地面の感触を確かめつつ山の斜面を登っていった。狩猟小屋はスホルト村の狩り場の西端に位置し、普通は今入っている支流より西側に出ることはなかった。狩猟小屋には食料や酒の備品が残っているはずだった。

 アイルは湿ったシダで生い茂る山の斜面を進んだ。太いアカマツの幹が背の高さまで緑に苔むしていた。やがて木々が開け、ぽつんと立つ狩猟小屋が見えた。しかし、アイルはすぐにその小屋の異変に気づいた。

 小屋の錠が壊されて地面に散らばっていたのだ。アイルは一旦森の中に戻り、迂回して小屋の側面から様子をうかがった。ついで足を忍ばせて小屋の壁に張り付き耳を立てた。


「これは全部持っていきましょう」低い女の声が響いた。

「え、全部持ってっちゃうの?」今度は甲高い娘の声が響いた。

「戦線はもうここを通り過ぎています。ここに残しておいても腐ってゆくだけですよ」

「まだ逃げ遅れた人がいるかも」

「いたとしても、スホルトの人間しかこの小屋を知らないはずですよ。スホルトは昨日包囲攻撃を受けてるのだから、もう全滅してるはずです」

「スホルトって?」

「ここから東にある村ですよ。あなたは下界に降りたことがないから知らないでしょうけど、スホルトの村長はかなり高名な魔術師だったのです。あなたのお父様も弟弟子としていくつか魔術を授かったそうですよ」

「へえ?そんなに高名な人が守ってるんなら、村はまだ残ってるかも」

「それはありえません。希望は捨てましょう。スホルトは全滅したと考えるべきです。さあ、この干し肉を全部詰めて」

「うん……あれ、これマッシュルーム?」

「乾燥マッシュルームみたいですね。全部持っていってください」

「かなり量あるけど……あれ、この魚は?」

「さあなんでしょうね。あなた分かる?」

「これはタラですね」今度は若い男の声が答えた。

「タラ?」

「海の魚ですよ」

「海の魚が、なんでここにあるの?」

「干物ですし、普通に船で運ばれてくるのでは?ネーヴェにもたくさん海産物は売っていますよ」

「へえ?でも船で滝はどうやって登るの?」

「滝の上と下に港があるのです。下流のリンデンシュタットという街もそうですよ。聞いたことありませんか」

「ぜんぜーん」

 中で三人が立ち上がる音がした。アイルは短剣を抜き扉の真横に背中を貼り付けて立った。

 アイルは若い方の娘を人質に取りたかった。おそらく三人のなかで最も地位が高く、最も知能が低い。

 扉が開け放たれ、女が出てきた。マリーゴールドの長髪が木漏れ日の朝日を浴びて一瞬まぶしく輝いた。

 アイルはその白い細首に腕を伸ばすと、一気に扉から引き放しナイフを突き立てた。

 女は甲高い悲鳴を上げた。

 「動くな」アイルは小屋から距離を取りながら言った。

 男はすでに腰の細剣を抜き放ち大股でアイルとの距離を詰めようとしていた。

 「おまえ達は何者だ」アイルは言った。そしてアイルは男の顔を見て驚いた。側頭部から長く尖った耳が突き出ていた。

 エルフだ。

 「小屋から出ろ。もう一人の女もだ!」アイルは叫んだ。「返事をしろ!」

 アイルが中の様子を覗き見ると、小屋の中にはすでに誰もいなかった。窓から脱出したのだろうか。だとしたら、森を回り込んで襲ってくるか?

 アイルは男からも周りの木々からもさらに距離を取った。

「お前たちはどこから来た」

「言えない」

 アイルは女の細首にナイフを突き立てた。一筋の血が滴り落ちた。

「リッテンブルクだ」男が答えた。

「聞いたことがないな。お前の名前は」

「アベル」

「ここで何をしている?」

「……ブリスコーへ向かう途中だ。今食料の調達をしていたんだ」

「なぜブリスコーへ向かう」

「そこが集合場所だと言われてる」

「スホルトを知っているようだな。村と何か関係があるのか」

「俺たちはスホルトの人間と情報交換をしている」

「なんの情報交換だ?」

「魔物の活動場所。その年の赤竜の飛翔範囲」

「そんな話は聞いたことがないな」

「北部連隊の一部とあんたの村の上役しか知らないんじゃないか」

「なぜ隠す」

「俺たちは隠れて住んでる」

「なぜ」

「村の存在を知られていなければ、襲撃されることなどない」

「今の話の証拠は?」

「あんたのダマスカスナイフが証拠だ」

「ほう?」

「エルフがダマスカスの刀剣を北部連隊の一部に渡したんだ。この地域全体の治安維持のためにね。柄の持ち手の装飾を見ろ」

 アイルは男の細剣の柄をと自分のナイフの柄を見比べた。たしかに2つの金細工は同じ美術様式のようだった。

 アイルは娘を離した。娘は変わった表情でアイルに振り向いた。そこにあったのは怒りなどではなく、むしろ好奇心と呼ぶような表情だった。そしてなぜかアイルに一歩近づいた。

 娘は美しかった。ターコイズブルーの大きな瞳がアイルを見つめていた。

 無防備すぎる。

 アベルがエルザの胸に手をかけ、抱き寄せた。そして抜身の刀身をゆらゆらとまたたかせ、アイルを睨みつけた。

 アイルはため息を付き、両手を掲げて言った。

「悪かった。今の話は全部信じる。ところで俺たちもブリスコーへ向かっている。一緒に来るか?」

「行く」娘が即答した。「私はエルザ。もうひとりの女の子はテオよ。よろしくね」

「ああ。俺はアイルだ」

 アイルはそう言い、二人とすれ違って再び小屋に入った。そして床板の境目に指を引っ掛けて引っ剥がした。床の下には4つの荷袋があり、アイルは全て取り出してエルフ達に持たせた。そして自分は棚から薬壺と竹の釣り竿を取り出した。

 三人は山の斜面を降りていった。川岸の藪を漕ぐと、葦の隙間から小舟が見えた。

 小舟の縁に長剣を抜いた女が立っていた。女は明るい金髪をサイドテールにしてまとめていた。女はずっとアイルを睨んでいた。

 女は剣をアマンダの首元に当てていた。エルザが手を振ってやめろと言った。

 女は剣を鞘に収めた。

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