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君のとなりを歩けたら  作者: 理陽
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1 ジャイアントインパクト

でも、ぶつかった衝撃以外は何ともなくて、代わりに女の子に腕を掴まれた。

「ちょっと、きみ。いきなり飛び出してきちゃだめでしょ。ここは病院で急に動けない人だっているんだから、まあ考え事していた私も悪かった。ごめんなさい。」

びっくりした。

「ぼくもごめんなさい」

女の子はぼくの事をじっと見つめると、おもむろに、

「きみ、病院の子じゃないね、外出ていいって言われているの」

げ、ばれた。

「え、っと、あの」

「ママとパパは?」

「えっと、あの、あっち…」

「ふーん、ねえきみ暇?」

いきなり女の子が話を変えてきた。

「とっても暇」

これは素直に返事ができた。

「そこは素直ね。今度読み聞かせをするんだけど、自信がないから練習に付き合ってほしいの。お願いします。ドラゴンと人間の男の子の冒険の話なんだけど、いい?」

ぼくは食い気味に頷く。

「おもしろそう!読んで読んで」

「ありがとう、じゃあ上の小児科の待合室で読んでもいい」

そうだった、戻らなければいけない。さっき春輝が一人で来た道を今度は二人でゆっくり戻る。

「きみ名前は」

「ぼく。たかはしはるき」

「春輝くんね、何歳」

「6歳」

「春輝くんは病院の子じゃないんだよね」

「うん、僕は元気、妹が入院しているの」

「ふーん、我慢している兄貴ってところか」

女の子はふっと笑って、私と一緒にと呟いた。

「ほんじゃあ、本とッてくるから私の鞄と一緒に先に待合室で待ってて。すぐに行くから。鞄大事なもの入っているからよろしくね。」

「うん!」

ほどなくして女の子はみどりいろの本を持ってきた。

「エイルとドラゴンって言うの、かばんありがとう。こっちおいで。」


エイルは町に住む10歳の男の子。伝説になっている遠い動物の島に龍のこどもが捕らわれていることを聞いたエイルは一人で両親に黙って冒険に行くところから始まるお話だった。


「…ようやくついた動物島の近くの大きな島、フルーツ島。僕はここから隣の動物島に行って龍の子供を救うんだ。」

「春輝?」

ちょうどお話に切りが付いたタイミングで名前を呼ばれた。パパだった。

「パパ、本を読んでもらった!エイルすごいんだよ!」

「こんにちは、すみません。春輝くんに読み聞かせの練習に付き合ってもらいました。」

「あ、すみません。こちらそこありがとうございます。春輝お礼を言いなさい。」

パパに促されて、ありがとうっとお礼をいう。気がついたらもう夕方だった。

「どういたしまして、こちらこそありがとう。じゃあ私行くね。」

「もう行っちゃうの。」

続きも読んでくれるものだと思っていた。女の子ぼくの目線までしゃがんで声を落として

「そーよ、よかったね。今日はお父さんわりと速く来てくれて。じゃーね、春輝くん。」

「春輝。お姉さんにありがとうして」

いやだ、せっかく見つけたぼくの事を構ってくれるお姉さん。絶対離しちゃだめだ。またずっと待っていることなんてできない。

「やだ」

そういって女の子にしがみつく。女の子は驚いた声でえっと一言。

「こら、春輝。お姉さん困っているだろう、やめなさい。」

「やだやだやだ。」

一人でまっていることなんてできない。やだ、ぼくだって退屈で暇で何よりも…女の子にしか聞こえない声でつぶやく。

「さみしいんだ」

「人様の迷惑になることはやめなさい、春輝!」

パパの聞いたことない声に首をすくめる。思わず女の子を掴む手を緩めた時、ふっとわたしと一緒じゃない、と呟いた声が聞こえたような気がした。

「え・・・?」

「ねえ春輝くん、明日もいる?」

「明日もいるよ」

どうせ、明日も次の明日もそう。ずっと待っているだけ。

「明日、続きを読んであげる!」

「やだ」

今回のゆうかちゃんの入院の始まりだって、明日公園行こうねっていってたらゆうかちゃんが朝急に高熱がでて緊急入院になったから。公園にはもちろん行けていない。

どうせ一緒だ。諦めて今度こそ完全に手を放そうとした。

「こら、春輝いいかげんに…

「そしたら、これ貸してあげる。」

そういって女の子が腕からとって差し出したものは、キラキラしたものが周りにたくさんついた小さな時計だった。

「なに、これ」

「魔法の時計よ。私の大切なものだけど貸してあげる。約束した時間の私と会える魔法の時計よ」

そういって、ぼくの手首に時計を巻く。

「魔法の時計」

「そう、明日この針が重なる特別な時間に会えるよ。だけどそのためにはやらなきゃいけないことがあります。」

「なに?!」

「ママとパパの言うことをよく聞くこと。それからお手伝いをすること。」

それならぼくにもできそう。こくんと頷くと女の子から離れて手を振る。

「わかった、じゃあ明日ね」

「うん、ばいばい」

女の子は病院の奥に入ってい行く。

不思議な魔法の時計と可愛い女の子。

僕たちの衝撃的な出会いはこんなことから始まった。


「さっそくー、パパなにかお手伝いできることはある?」

「え、ああ、そうだな。ママと交代してくるから少し待っていてくれ。」

そういうと、ぼくの腕に巻かれた魔法の時計をしげしげみて

「ブランドものとかではなさそうだな。」

なにやら女の子が怪しまれていること感じ慌てて

「女の子に本を読んでっていったのは、ぼくだよ!へんな人じゃないよ!」

「そうか、よかったな。優しいお姉さんが遊んでくれて。」

「うん、はやくママと交代してきてね。」

パパは手を振って小児病棟の奥に入っていく。

本当は、病院の外にでて悪い子になるところだった。

でも、可愛い女の子のおかげで退屈もまぎれたし、悪い子にならなくて済んだ。

ほどなくして、パパと交代したママがでてきた。

ママはなんだかいつも疲れた顔をしている。

「帰ろうか」

でも今日は魔法を使うために言わなければいけないことがある。ママを急かすように

「何かお手伝いすることある」

少し驚いた様子のママに魔法の女の子に会った話をする。

「だから今日はいい子にして、お手伝いするの。」

「そういうことね、ごめんね」

何を謝ったのかはよく分からなかったが、ぼくの興味の対象はお手伝いをすること。

確か、幼稚園の先生が言うみんなお手伝いをしてあげてねーというのは小さい子たちの事を助けてあげること。

それから、自分のできること事は自分でやること。先生が助かるらしい。

車のスライドをママにあけてもらうとチャイルドシートに座った。ママが反対側の後部座席に荷物を置いているときに、自分でシートベルトを止めてみた。

カチャンと音がする。いつもママが締めたあとするように引っ張ってみる。できた。

戻ってきたママは、シートベルトが締まっている事に気が付くと、自分で閉められるようになったのと少し喜んでくれた。


おうちに戻ると、皿を並べるお手伝いをした。今日読んでもらった話をする。女の子は練習と言っていたが、幼稚園の先生がみんなの前でする音読と同じぐらい上手だった。

魔法の時計の話もした。大切な時計なんだってとママに見せる。

「星とクローバーがモチーフの時計ね。とっても可愛い。」

星はぼくの幼稚園のシールと一緒。クローバーってなんだろう。ママに尋ねる。ママは時計の一部分を指す。ハートのような形が4つ。

「公園に生えている葉っぱでね。ふつうは葉っぱが3つしかないけれど、4つ葉っぱがある時は特別に四葉のクローバーって言うのよ。幸せを運んでくれるって言い伝えがあるよ。」

「どうやって幸せを運ぶの」

「うーん、葉っぱの上に4つ目の葉っぱに乗せて運ぶのかもね。」

くすっとママが笑うとごちそうさましよっかと促される。

お皿を流しに運ぶとありがとうと帰ってきた。いつもママがしているように自分でパジャマを持ってきて我儘を言わずに寝た。

本当のところは明日、魔法がちゃんとかかるかドキドキして寝付けなかったけれど。











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