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【Chapter/38 おかえりなさい】その1

「これで一応は敵を巻くことができたわね……でも」


 ミウは申し訳なさそうにアリューンを見つめた。アリューンの涙は枯れ、その場でうつむいたまま跪いている。口を開かずに何かを考えているようにも見えた。

 マスドライバーで宇宙に上がれた戦艦は十五隻。残りの十二隻は撃墜された。現在、生き残った十五隻が編成する艦隊は、次の集結地である月のコペルニクス基地に向かっている。一刻も早く地球から遠ざからなければならないのだ。そうしないと、また量産型アテナの餌食になってしまう。

 既に地球を支配しているのはエルヴィスなのだ。地球に諸国連合や中枢帝国の勢力はほぼ残っていない。この艦隊のように宇宙に逃げ出し月を目指す者もいれば、エルヴィスに全滅された艦隊かどちらかだった。

 もう一つのマスドライバーも完全に破壊され、地球に残っている諸国連合の戦艦は檻の中に入れられたのだ。エルヴィスに食われるのを待ちながら……。それか、ひっそりと身を潜めるか、艦を乗り捨て静かに地球で暮らすことを選ぶかだ。


「お姉ちゃん……ごめんね。強く言ったりして……」


 エミルはアリューンに寄り添う。


「いいのよ、エミル。私がはっきり言わないといけなかったのにね……。クロノの気持ち、全然分かっていなかった」

「クロノちんは生きてる。ショウやナギサちゃんも生きてる。そう考えないといけないんだよ? 前向きにならなきゃ」

「エミルはいつもそうだね。私と違ってポジティブで」

「ポジティブだけが、取り得だからねーっ」

「そうね……泣いてちゃなんにもならない。前には進めない。もう、泣かないわ、エミル」

「無理しないでね。部屋で休んで」

「ありがと……じゃあ」


 そう言うとアリューンは自分の部屋に戻っていった。まだ傷は癒えていない。いや、こんなに早く癒えるような傷でもなかった。ミウは大きく息を吸い宇宙を見上げた。そして、そのまましばらく動こうとしなかった。


「嫌になるわね……戦争って」


 ミウはそう呟いた。その時、警報音が鳴った。地球にいた敵がこちらに来たのだ。そう、ベリクス級はマスドライバー無しでも宇宙に上がれるのだ。予想外の事態に艦隊は瞬く間にパニック状態に陥る。

 このままだと、全滅は時間の問題だ。ミウはヴァルキリー級を第一種戦闘配備にし、テンペストの発射準備を早めるよう指示した。敵はこの艦隊から目と鼻の先。このままだと、敵にミサイル一発当てることなく全滅してしまうかもしれない。


「敵よ! 総員、直ちに持ち場に付くように! ダブリス級と回線を繋いでッ!」

「うん! 分かったよーッ!」


 ヴァルキリー級はダブリス級に回線を開いた。


「ヘーデ艦長、まさか敵が単独で大気圏を突破できるなんて……予想外の事態です」

「月に援軍を要請してある。しかし、いつになるか……。今は逃げることだけを考えろ! それが最善の策だ。現時点で敵の量産型アテナに対抗できるだけの戦力をこちらは持ち合わせていない」

「そうですね……これよりヴァルキリー級は回避行動を取りながら、月からの援軍と合流を計ります! エンジンフルスロットルにして、回避行動プログラム193を採用、その後回避行動プログラムを89に切り替えよ!」


 しかし、逃げ場が無いことなど皆、知っていたのだ。敵は宇宙の方からも攻めてきている。量産型アテナの数合わせて、およそ七十機。


「私も戻ります!」

「アリューン! 大丈夫なの?」

「はい、ミウ艦長。悲しんでばっかじゃいけないでしょ?」

「そうね……席に着いて。でもね、かなり苦戦しそうよ」


 ミウは歯をグッと噛み締めた。




「で、どうやって宇宙に上がるんだよ? 屁でもして上がるか? いや、冗談はやめておこう、真面目に言う、方法はあるのか?」

「クロノと言ったな、方法はある。オリンストのAフィールドを最大まで展開し、空気抵抗を少なくすれば良い。クシャトリアもオリンストに寄り添う形で、宇宙に上がることができるんだ」

「そんな量のAフィールド……展開できるのか?」

「オリンストの性能ならやれる。こいつは普通のアテナじゃないんだからな」

「信じてみるよ。頼んだぞ?」


 クロノはそう言うと、コックピットの中に備え付けてあるタブレットの中から、ガムを一枚取り出し口に入れた。そして、操縦桿を握りなおす。

 オリンストはクシャトリアを抱きかかえ、背中からAフィールドを発生させた。そのAフィールドは半径一キロの範囲まで展開され、それはクシャトリアとオリンストの周りを球体状に囲む。スペックアップ前のオリンストでは、これほどの量のAフィールドを展開することなど不可能であった。

 しかし、スペックアップすることのよりAフィールドの展開領域および密度は、スペックアップ前の三の七乗倍されたのだ。そして、放出されるAフィールドの反動を受けて、二機は高速で大気圏を突破する、二機の進んだ跡には、Aフィールドを構成する緑色の粒子だけが残っていた。


「ふぅ……ナギサ、クロノ、大丈夫か?」

「え、ええ、大丈夫です」

「俺は健在だ。それより、向こう側がなにやら騒がしそうだぜ」


 宇宙空間に出たオリンストとクシャトリア。装甲には傷一つ無い。そんな中、オリンストの一キロ前方では諸国連合側の艦隊とエルヴィスが戦闘を行っていた。


「あれは……ダブリス級? そうだ、ダブリス級だ!」

「帰ってきたのですね……助けましょう! あれが私達の帰るべきところなんですから!」


 そう言うとオリンストはバーニアの出力を最大にし、ダブリス級の方へ向かった。続いて、クシャトリアもそちらに向かう。


「ったく、俺は置いてきぼりか?」


 クロノは軽く呆れた。


「当たれよ……」


 オリンストは背中からグラディウスアローを取り出し、ダブリス級を攻撃中のアヌヴィス一機に狙いを定める。そして、アヌヴィスがダブリス級の艦橋の前にてマシンガンを両手で構えた刹那……。


「狙い撃つ!」


 オリンストは矢を放つ。それはマシンガンを構えていたアヌヴィスの両腕を貫き爆散させる。ショウはダブリス級に回線を入れた。


「こちら、白銀のオリンストのコアのショウ・テンナ。ただいま帰還しました!」

「ショウ! 生きてたのね、やっぱり……」

「俺は信じてたぜ! お前がこうして帰ってくるってよ」

「心配かけてすまないな、サユリにシュウスケ……。ヘーデ艦長、これよりダブリス級および、この宙域にて戦闘中の諸国連合の戦艦を全て援護します!」


 ショウがそう言い終わると、オリンストはラグナブレードを構えた。その白銀の刃の先には、約七十機ものアヌヴィスと、十隻のベリクス級がある。しかし、その多さに怖気づきはしなかった。

 そして、オリンストの双眼が緑色に発光する。


「さぁ……やるぞ、ナギサ」

「はい、私はここで死ぬわけにはいかない。行きましょう、未来のためにも!」

「七十機の量産型に十隻の戦艦……負ける気がしねぇなッ!」

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