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【Chapter/37 ショウ、其の心のままに】その4

 もうそろそろ、ヴァルキリー級のレーダーの有効範囲から消えるぐらいだろう。つまり、俺が死んだということも分からなくなる……。いや、分かってしまうか。でもいいさ、アリューンに俺が死ぬ所を見せなかっただけマシか? ああ、愛した女に死に様を見られるのは……嫌だし。

 残り十三機……一機のアテナじゃ無理な話だ。他の奴らは宇宙に上がった艦隊の追撃に向かっている。


 クシャトリアは緊急回避を繰り返して、アヌヴィス群のマシンガンを回避し続けていた。だが、次第に追い詰められていく。光化学迷彩の使用制限時間も切れた。

 マシンガン……ミサイル……マシンガン……ミサイル……ミサイル。


「ったく、やっぱり死ぬのかよ!」


 死ぬのが嫌なのは、誰もが同じだ。だが、自分が何もしないで逃げ出して、誇りを捨てるのはもっと嫌だ。それをクロノは分かっている。分かっているから、彼はこの道を選んだのだ。もう彼に悔いはない。


「右から? 後方? 目の前……ッ!」


 三機のアヌヴィスはそれぞれ、クシャトリアの死角に回り込みマシンガンを構えた。絶望的な状況だ。右にも左にも、上にも下にも逃げられない。クロノはバーニアを吹かすことをやめた。


「アリューン……俺は最後まで誇りを捨てなかったぜ。じゃあな」


 その時だった、ヴァルキリー級のレーダーが大爆発を捉えたのは。




 オリンストがマスドライバーに到着したときには、既にマスドライバーは朱色の鉄骨の塊となっていた。しかし、、まだ戦闘は続いている。


「あの機体は……ッ!」

「あれは……味方だ! あいつは量産型と戦っている!」

「分かりました! オリンスト戦闘モードに移行します!」

「マルチロックオン……」


 ショウはアヌヴィス三機に照準を定めた。その中心には……。


「間に合えよ……」


 オリンストの胸部と腰に備え付けられたレールガン(オリンストがスペックアップされたときに追加された装備)を展開し、一斉射した。


「あたれぇぇぇぇぇッ!」


 その緑色の光は二機のアヌヴィスの武装を貫き爆散させ、青色の無数の光は残り一機の四肢を完全に破壊する。そして、クシャトリアは……健在だった。アヌヴィスのパイロット達は突然の援軍にレーダーを疑った。だが、そこには確かにもう一機のアテナの反応がある。

 状況を飲み込めないまま、アヌヴィスのパイロットの一人はマシンガンのトリガーを引いた。密閉されたパイロットスーツの中には、このパイロットの汗の臭いで充満している。それにパイロットは気づいていない。いや、気づくことさえ忘れるほど、恐怖し錯乱していたのだ。

 初陣……このパイロットはアテナ戦はおろか、戦場にすらまともに立ったことのない人間であった。それゆえにちょっとした出来事でも、錯乱しやすくなってしまうのだ。

 そして、このパイロットのアヌヴィスはオリンストにマシンガンを乱射しながら、突貫してきた。しかし、ショウはそれを見切る。


「やめろッ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! くるなぁぁぁぁ!」


 その声はショウにも聞こえた。ショウは操縦桿を自分の方へ引く。オリンストはアヌヴィスのマシンガンをAフィールドで防ぎ、次の瞬間胸部を開きホーミングレーザーを放つ。その蒼い光はアヌヴィスの四肢を貫く。四肢切断されたアヌヴィスは、力なく地に落ちてゆく。


 残り九機……やれるか? いや、オリンストならやれるさッ!


「あのアテナ……クシャトリアですよね? 誰が操縦しているのですか?」

「分からない。通信でも入れたいところだが、今はこいつらを倒すことが先決だ!」

「はい! 敵、五機がこちらに向かってきます!」

「奇襲で四機撃墜した! 残り九機……いける!」


 オリンストは背中に装備されているラグナブレードを取り出して、それを右手で構える。白銀の刃が先行してきた一機のアヌヴィスに牙を剥く。アヌヴィスがラグナブレードの有効範囲リーチに入った刹那、アヌヴィスの両腕は軽やかなダンスを空中で踊り、そして膨張し爆発した。

 次に後方と右舷からアヌヴィスが同時攻撃してきた。両方、マシンガンの照準をオリンストに向けている。オリンストは空中で一回転し、それを回避すると腰のレールガンを放ち、二機のアテナの武装を全て破壊する。


「後方より、ミサイル多数!」

「避けてみせる!」


 後方の四機のアヌヴィス隊が一斉にミサイルを射出した。ミサイルは真っ白な煙の弾道と曲線を描き、オリンストに向かってくる。オリンストはバーニアの出力を最大にし、その隙間隙間を抜けてUターンしてくるミサイルに対し、レールガンで迎撃した。

 その隙に、オリンストに向かってくる先行の部隊のアヌヴィス二機は、ラグナブレードの刃に体を横に切断される。そして、後方の四機に狙いを定めた。


「もう……無駄死にをッ!」


 オリンストのレールガンとホーミングレーザーは三機のアヌヴィスを戦闘不能にする。しかし、残りの一機がその煙の中から現れて、オリンストにビーム刃で切りかかってくる。

 オリンストは両手に光の剣を発生させて、アヌヴィスの両肩を切り落とす。それでも尚、蹴りを入れてくるアヌヴィスにオリンストは蹴りかかり、二機の脚部がぶつかり合う。しかし、その出力の差は歴然。アヌヴィスの右足は蹴り落とされて、オリンストの左足で本体の方も蹴り落とされて地に落ちた。


「ふぅ……クシャトリアに通信を入れてくれ」

「は、はい。入れました!」

「こちらは白銀のオリンストのパイロット、ショウ・テンナだ。クシャトリアのパイロット、味方だったら返事してくれ」

「あーーー俺は蒼穹のクシャトリアのパイロット、クロノ・アージュだ。的確な援護、感謝する。おかげで三途の川を渡らずに済んだぜ……」

「クロノ・アージュ……? って死んでたんじゃなのか?」

「失敬な……俺は不死身のクロノだぞ?」


 クロノは顔を顰め、そう言った。そこにはある種の皮肉も込められていたのだった。ショウは一息を吐くと言った。


「分かった。事情はお互いゆっくり話そう。今は共同戦線だ……宇宙に上がった敵を蹴散らそう」

「オーケーッ! ……お前が誰だかは分かんねぇけどさ!」

【次回予告】

 再会の時……。

 懐かしい匂い……少年は戻ってきたのだ。

 そこには苦しみもある。

 しかし、少年はけっして少女の手を離さなかった。

 次回【Chapter/38 おかえりなさい】

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