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【Chapter/37 ショウ、其の心のままに】その3

「アリューン? 今は戦闘配備中だぞ……」


 クロノがクシャトリアに乗り込もうとした時、アリューンはコックピットの中に半分体を乗り出して、クロノに話しかけた。下の方の整備班の人々は迷惑そうにこちらを見上げている。


「あの……《おまじない》してもいいですか?」

「どんなおまじないだ?」

「戦場で絶対に死なないおまじないです! 自信はあります!」

「じゃあ……頼むよ」

「分かりました! オレコノタタカイガオワッタラ、ケッコンスルンダゼ……柿崎ィィィ! 終わりましたッ!」

「いや……なんか逆に死にそうな気がしてきた」


 俺この戦いが終わったら、結婚するんだぜ。と出撃する前に言う兵士は大概死ぬのだ。アリューンはどうやら解釈をどこかで間違っているようだ。そういう天然さも、クロノの《出撃時の緊張》をほぐしてくれる。


 まぁ、おまじないにはなっていないが……。(逆に嫌な方向に行ってしまいそうだ)


「頑張ってください! 私、とびっきりおいしいステーキを用意して待ってますからッ!」

「ああ、ヴァルキリー級とダブリス級は俺が守るさ!」


 アリューンはそう言うと、ヴァルキリー級の艦橋に戻った。クロノは目の前のキーボードを素早く叩き、クシャトリアのシステムを起動させる。それと同時にクシャトリアの動力部が急激に発熱。クシャトリアのバーニアは十分、暖まった。


「蒼穹のクシャトリア、クロノ・アージュ出るッ!」




「リョウ、クシャトリアは今どこだ?」

「現在、敵量産型アテナの部隊と交戦中です」

「父さん! こんな数の敵……倒せるの?」

「今、マスドライバーで戦艦を緊急離陸させている最中だ。ダブリス級とヴァルキリー級は最後だ。それまで、マスドライバーを守り抜くぞ!」

「分かったわ。ソウスケさん、参謀よろしくね」

「ああ、分かった!」


 ダブリス級の艦橋は騒がしく動いていた。ダブリス級から無数のミサイル群が射出される。向かってきたアヌヴィスのうち、一機をミサイルで撃ち落した。だが、残りの三機がこちらへ向かってくる。

 敵の数は約百二十機のアヌヴィスと十三隻のベリクス級だ。それも、この基地を囲むような円形で、徐々に部隊を中央部に進めるという作戦だ。ソウスケ曰く、もっともいやらしい戦法だとか。

 なんにせよ二十分間、この朱色の鉄骨レールを守りきらなければならないのだ。これが最後の希望なのだ。


「ヘーデさん、何隻離陸させられましたか?」

「十隻……こちらも含めて残り十一隻だ」


 ソウスケの問いにヘーデは瞬時に答えた。残り十一隻……残りの六隻はすでに撃墜されたのだ。攻撃が開始されてから十分も経たないというのに。

 クシャトリアもアリューンのおまじないのおかげか、かなり善戦している。この状態で十七分間、マスドライバーを守りきったのは奇跡に等しいものだったのだ。しかし……。


「もう少し粘れ! ダブリス級を射出レールの上に乗せておけ!」

「はい! 角度良好、誤差0コンマ3……フェイズ2に移行、射出準備を続行します。ヴァルキリー級、射出準備を開始しました」

「よ―し、残り二隻……それまで!」


 その時、サユリが叫んだ。マスドライバーの右側に、アヌヴィスのマシンガンが複数発被弾。えぐれた鉄骨は傾き、レールそのものも傾きそうになってしまう。その時、えぐり取られた鉄骨と鉄骨の間にクシャトリアが入る。

 クシャリアが支えとなり、マスドライバー自体が傾くようなことはなくなった。しかし、クシャトリアは身動きが取れない上にクシャトリア自体が撃墜されたならマスドライバーは再び傾くことになるだろう。


「クロノさんが支えになっています!」

「クロノがッ!?」


 ソウスケは叫んだ。その時、クロノからダブリス級とヴァルキリー級に通信が入った。その声は苦しそうだった。


「俺が支えになった! 早くダブリス級とヴァルキリー級を射出させろよ! 俺は大丈夫だ! アリューン、お前のおまじない、信じてるぞ……」

「そんなッ! 私達がマスドライバーから射出されたら……クロノさんはここに置いてきぼりになってしまって!」


 クシャトリアは単独で大気圏を突破できない。それを承知の上でクロノは言ったのだ。アリューンの瞳から自然と涙が流れてくる。もう会えないという寂しさ故に。


「アリューン、俺はお前を愛してる。だから、信じてくれ……いや、数百機のアテナだろーが構わないさ。だが、俺が死んだって思うな。俺は生きてやる……俺は……お前のことを愛してる!」

「数百機ものアテナにクシャトリアが敵うわけないです! 死んじゃいます! やめてください! 愛してるとか言って、逃げないでくださ……」

「ダブリス級、射出する……クロノ元少尉、感謝する」

「少佐ですよーって!」


 ヘーデは鈍い声で号令した。それをクロノは軽く返す。ダブリス級のエンジン部は発熱し、マスドライバーから射出され宇宙そらに上がった。もの凄い速さで……。


「早く! クロノさんッ!」

「ヴァルキリー級……射出! クロノ元少佐、あなたの勇気ある行動には感謝します。どうか、ご無事で」

「射出……するよ」

「ミウさん、エミルッ! そんなんじゃクロノさんが!」

「みんな死んじゃうよ……お姉ちゃんはクロノちんの気持ちが分かってないよ! 私達は希望なんだよ? それをクロノちんは守ろうとしているのをー分かってあげてよッ!」

「エミル……でも……」

「生きてるって……生きてるって思いなよ。クロノだって前向きなんだよ」

「ま、そういうこった。アリューン、愛してる。絶対に生き残ってやるよ……。だからさ、もし再会できたら……推定Fカップの胸でも揉ませてくれよ? な……」

「そんなこと……もういいですからッ! 早く帰ってきてください!」

「ステーキ……楽しみにしてるよ。だから、心配すんな。俺は帰ってくる。じゃあな」


 そして、ヴァルキリー級はマスドライバーから射出された。その時、ふとクシャトリアの中のクロノをアリューンは目が合った気がした。いや、アリューン自身がそう思いたかっただけなのだろう。

 大切な人が消える悲しみ。最後まで笑顔で笑ってくれたクロノ。その顔を思い出すたびに、涙が零れ落ちてくる。


「クロノさんッ! クロノさんッ! 私、頑張っておいしいステーキ作ってあげたんですよ? 食べてくださいよ……ねぇ? クロノさん……クロノさん―――………ッ!」


 アリューンの慟哭は宇宙そらに響く。五分後、ヴァルキリー級のレーダーは一つの大きな爆発を捉えた。そして、カルサニコフ基地はレーダーの有効範囲から出たのだった。

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