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【Chapter/37 ショウ、其の心のままに】その2

 その頃、ダブリス級はマスドライバーのある北小大陸方面最大級の基地『カルサニコフ基地』に到着していた。カルサニコフ基地はユーラリア基地よりも広大な土地を持っており、戦艦用のマスドライバーを持つのもアフリカ基地とここだけだ。

そのこともあってか、カルサニコフ基地にはダブリス級やヴァルキリー級と同じように地球に駐留する艦隊が続々と集結していた。だが、カルサニコフ基地に向かう途中で、エルヴィスの量産型アテナの強襲を受けて全滅した艦隊も少なくはない。

 しかし、現在のヴァルキリー級の艦橋内は安堵の空気に包まれていた。無事にカルサニコフ基地に到着した喜び故だ。オリンストの不在という不安要素もありながら、今は皆それを忘れようと思っていた。


「クロノ~っ! 遊ぼぉうーッ!」

「わっ! 忙しーんだよ、俺はぁ……」


 エミルはクロノに懐いたようだ。エミルが同姓以外に心を開くのは珍しいようで、姉のアリューンも微笑ましく見守っている。エミルはクロノの首を絞めて(エミル本人は抱きついているつもりである)、クロノを苦しめている。


「い……息がッ! やめろって!」

「ショ・ボーン! クロノぉ……そんなに冷てぇ人だったの? エミルちん、ショックだよ」

「あ、いや、そういうわけじゃなくてさ。なぁ、アリューン」

「え、え……そうですよ。エミル、クロノさんはいい人ですよ」


 アリューンはエミルの頭を撫でる。そうしてもらうとエミルは《にょーんとした顔》でクロノを見つめる。


「にょーん……」

「な、なんだよ」

「にょーん、にょーん、にょーん」

「うう、気味が悪いぜ……」

「がぁーん! 私はただ、クロノの顔色を伺っていただけなのにぃ。エミルちん、ダブルショックだよぅ……」

「……はぁ。エミルって不思議な子だよ。ホント……。アリューン、エミルを慰めておいてくれよ。俺はクシャトリアの様子でも見に行くわ」


 クロノはげっそりとした顔でハンガーへと向かっていった。




「ソウスケさん。コーヒーいかがですか?」

「あ……ありがと」


 基地に着いたソウスケは近くのベンチに腰掛けていた。サユリはそれを見て、ソウスケに缶コーヒーを渡した。いつもの、ヘーデからのお使いである。

 ソウスケの目の前ではダブリス級とヴァルキリー級、それにここへ集結した何十隻ものレウス級が整備されていた。壮大な光景だ。金属音が耳に鳴るが、風はダブリス級の中にいるよりも心地好いものとなっている。


「ソウスケさん、今回はありがとうございました……。見事な作戦でした」

「いいや、みんながいてくれたからだよ。それに、僕はこの戦いでたくさんの人々を殺してしまった。素直に喜べないよ」

「……心配ですね。オリンストのこと……いいえ、ソウスケさんには関係ないですよね」

「オリンストに乗っている子と話したことあるの?」

「ええ、ショウ・テンナって言って、高校が一緒だったんです。でも、戦いに巻き込まれてショウはオリンストのコアになってしまった。元々、なろうと思ってなったわけではないんです。それに……オリンストに乗ろうとした時、ショウのお兄さんが死んでしまって……」

「申し訳ないよな……元々、これは中枢帝国のエゴを押し通して始まった戦争だからさ」

「ソウスケさんのせいではありませんよ……」

「そう……かな? まぁ、今の敵は中枢帝国ではなく、エルヴィスだからな。僕たちも気を引き締めなきゃね。ショウっていう子、生きていたらいいね」

「大丈夫ですよ。前にもこんなことありましたから……」


 サユリはソウスケに微笑んだ。ソウスケはどこか懐かしい匂いを感じるが、それがどこからなのかは分からなかった。ただ、懐かしいという気持ちにはなれたことは確かだ。


「サユリ……って言ったよね。覚えとくよ……。ダブリス級で新しく参謀を務めることになった。よろしく」

「はい。ダブリス級の一オペレーターとしてあなたを歓迎しまします!」


 二人は固い握手を交わした。




「ふぅ……一仕事終わった後のコーヒーは最高だな、リョウ」

「はい、ヘーデ艦長。でも、私はまだ仕事が残っていますが」

「私がやろうか? 若いものには無理させたくないんだが……」

「それ逆でしょう?」

「老いぼれは、こういうことを逆に覚える癖があってな。こう何十時間もここに座っていると退屈になって、こんなことも考えてしまうものだ」

「そうですか……」


 リョウがそう言うとヘーデはマスドライバーの方を向いた。マスドライバーは、空に向かって朱色のレールが敷かれており、宇宙への玄関口だ。このレールを高速で移動することにより、加速しこんなにも大きな戦艦が宇宙へ上がれるようになるのだ。


「そういえばミナト……あなたと何か関係があるのですか? ……あ、いえ。言いたくないということなら、別にいいですけど。気になっているんです」

「ミナトか……彼女は私の娘だ。ただし……」

「ただし?」


 その時、警報音が鳴った。予想より早く敵が襲来してきたようだ。ヘーデはダブリス級を第一種戦闘配備に切り替えた。


「敵襲! 各員は速やかに持ち場につけ! 繰り返す……」

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