【Chapter/37 ショウ、其の心のままに】その1
「これは……なるほど。全ては神名翔によって仕組まれていたのか!」
キョウジは一人、ユーラシア大陸の南東に位置する旧日本と呼ばれる遺跡群にてある調査を行っていた。ここはかつて東京呼ばれ、人々がたくさん住んでいた所だったのだ。しかし、ある事件を機に地球に住んでいる生物は死に絶えた。唯一、月に移住していた極少数の人間のみが生き残り、第三始人類となり発展していったのだ。
ここの大学跡地には神名翔の日記があった。神名翔は天才少年として僅か十五歳でいくつもの科学賞を手にしていたのだ。日記は厳重に保管されていた為、風化はしていない。ただ、市販のノートなので、パリパリになっている。そこには彼の狂気の野望が綴られていた。
それを初めて見た時、キョウジ自身信じられなかった。しかし、それは今アルベガスがやろうとしていることをほぼ同じことであった。ただ、人類を滅亡させるということに関しては別だが。
僕は何年も先にすごいことをしてやる。人類の誰一人、成し得なかった偉業だ。それは人類を滅亡させること……。大丈夫、やってやる。月に人々が上がる前にな……と書いてある。
しかし、もしそれが失敗した時のために保険をかけておこう。渚だって女だ。いつ、他のやつに取られるか……いや、僕のやろうとしたことに反対するかもしれない。その時のため渚を従順な犬にしておく必要がある。
ただ、何らかの理由で僕の計算が間違っており、成功しなかったときのために渚を、マキナヴの中で眠らせておこう。一人だと、不安だ。二人に分割してやろう。そうすれば、ナギサが千五百年後に目覚めて僕を復活させる確率が二倍になる。つまり、僕は二度チャンスを与えられるんだ。
それもこれも、渚が僕に付いてきてくれたおかげだ……。アイツもただの女として活用する以外に使い道があったということだ。
これで、退屈は凌げるさ。
と日記には書いてあった。なんとも恐ろしい子だ。これほどまでに狂気じみてかつ、子供じみた考えの子供が知恵と力を手に入れれば……。
キョウジは研究室を飛び出し、マスティマに乗った。本当の敵はアルベガスではない。神名翔だ。そして、それの鍵となる渚を一刻も早く消さなければならない。とキョウジは決意を固めてマスティマのバーニアを吹かして、月へと向かった。
ここでダブリス級と合流できるはずだ。このことはまだ、誰も知らない。俺と渚以外はな……。
「ショウ、後方からアヌヴィスが二機!」
「大丈夫、殺しはしない。ただ、武装を攻撃してやれば逃げていくはずだ!」
ガリア教の寺院を出ようとしたオリンストに、見張りのアヌヴィス三機が突貫してきた。純教の者たちで動きもぎこちない。おそらく、大雑把な操作方法のみを教えてもらっただけなのだろう。
オリンストの形に若干の変化が見られていた。第一にラグナブレードとグラディウスアローが背中に標準装備されていることだ。これにより、武装を発生させる時間を抑えることができる。その反面、粒子化できなくなってしまいトリッキーな動きが難しくなってしまったのだ。
そして、ボディーに引かれたラインも黒から銀色に変わった。バーニアの出力も安定している。その為、速さは前のオリンストよりも少し上がっているのだ。だが、操作しやすさに関しては、ハードルが高くなっている……それがショウの感想だった。
「慣れるまで時間がかかりそうだな……。バックアップ、頼むよナギサ」
「はい! 任してください! 私だってオリンストのコアですから!」
「行くぞッ!」
オリンストに向かってバーニアを吹かして突貫してくる一機のアヌヴィスに対し、オリンストはアヌヴィスの左腕をラグナブレードで流し切りする。そのアヌヴィスが振り返る瞬間にはもう、アヌヴィスの四肢は切断されていた。背中に残されたバーニアのみでは到底、その大きな図体を動かすことなどできるわけもなく、落ちていく。
「残り二機ッ! ナギサ、姿勢制御を頼む!」
「分かりました! 慣れてないけど……やってみます!」
その時、二機のアヌヴィスが同時にオリンストに向かって突貫してきた。二機とも動きは素人同然。オリンストはそれを回避して、胸部を開きホーミングレーザーを撃った。ホーミングレーザーは一機のアヌヴィスの四肢を的確に狙い撃ち吹き飛ばす。
そして、残りの一機が自暴自棄になったのか、オリンストに向かってマシンガンを乱射してくる。オリンストはグラディウスアローを取り出し、的確にアヌヴィスの両腕に矢を貫通させる。それでも、アヌヴィスは諦めずにオリンストに特攻してくる。
「諦めが……悪いッ!」
オリンストはそれを縦にジャンプし、回避。そして、アヌヴィスの背中のバーニアをグラディスアローで粉砕する。落ちていくアヌヴィスの両足をグラディウスアローで吹き飛ばす。地上には再起不能なアヌヴィスの残骸が転がっている。
「……どうするのかな、淳朴さんたち」
「ナギサ、あの人は逃げるってさ。この戦いが終わるまで。俺達は平和を望んでいた。だけど、それは贅沢なことだったのかもしれない。この時代、平和な所なんて何処にもないのにさ」
おそらく、エルヴィスはここのアテナの残骸を回収しに来るだろう。その時まで彼らはここを出なければならない。けっして、放浪とまではいかなくとも、エルヴィスに見つかれば殺されるかもしれない。
彼らもまた、平和を求めているのだ。
「だったら、作ればいいですよ。私達と……ね?」
「そうだな。付き合ってくれよ、ナギサ」
「ええ、そのつもりです。それに、私の中には新しい希望が生まれているそんな気がします……」
「新しい……希望か。今考えても仕方がない。まずはダブリス級と合流することだ。マスドライバーまでの道は分かるか?」
「はい。ダブリス級の場所は分かるので……今、ダブリス級はマスドライバーに到着したようです」
「だとしたら、後三時間で合流できるな……。よし、行こう!」
ショウはナギサの手を優しく握った。そして、操縦桿を握りなおす。