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【Chapter/36 パラダイス・ロスト】その3

「こ、これは……淳朴さんッ!」


 荒れ果てた寺院を見たショウは、近くにいた淳朴に声をかけた。完全にとまでは行かないものの、庭園のある方はほぼ全壊している。ショウとナギサは合流し、その無残な姿を見つめていた。


「純教の者たちです……。おそらく、純教の者たちはエルヴィスを支持する見返りに、アテナを借りてガリア教を支配しようとしているのです。これはおそらく……脅迫というものでしょう」

「ひどい……」


 ナギサはうつむき。口を閉じる。


「昔から我々ガリア教と純教の間では争いがあり、多くの血が流れました。純教はグーレェムで絶大な支持を得ています。それから、我々は排除の対象となったのです。しかし、ガリア教も元々は純教から追い出された、裏切り者の考え方。排除しようとする気持ちも分かります」

「醜いですね……。俺も戦ってきて、人間のエゴというものを知っています。自分勝手なんですよね、人間って」


 ガリア教は自由を訴えている宗教だ。マナによる完全統制を目指しているエルヴィス側にとっては、厄介極まりない存在である。


「そういう生き物なんですよ……」

「で、純教の者たちは何時間後にこちらに来て回答を求めるのですか?」

「三十分後です……。貸し出す期間があるのでしょうね、多分」

「貸し出す期間……ですか。だったら、俺がオリンストに乗って……」

「乗ったらどうするのですか? それがあなたの本当の答えですか?」

「本当の答え?」

「……その後、あなたはどのような道を歩くのですか?」

「できるならば、人は殺したくない。でも、殺さなければいけない時っていうのもある。それに、コックピットを狙わなくっても、これはただの自己満足で……安っぽい正義感を振りかざしているだけなんです」

「つまり?」

「人を殺したくないっていうのは、ただ自分が人を殺したくないっていうだけで、相手のことを全然考えてないっていうことなんです。俺は……偽善者なんです」


 そうだ。俺は偽善者だ。大した決意もなく、なんとなく人を殺さずに不殺の戦い方をしている。これでいいのだろうか? 今でも俺は迷っている。ユウに言われた。

 それは優しさだ。しかし、そんな小さな優しさで撃たれたものはさぞ、無念だろうな。もし、エンジン部を外れたら? そういうなものは単なる自己満足マスターベーション以外何者でもない……と。

 確かにな。そうだ。でも、俺は戦わなくちゃならない。ナギサのためにも……守るって決めたんだ。しかし、それは自分が人を殺したくないっていう気持ちに矛盾する。それがどれほどのものであるか……。


「しかし、自己満足でもいいのではないでしょうか? 偽善者でも、いい事をしているのでしょう? だったら、偽善者でもいいのでは……」

「でも、俺にそんな資格はありません!」

「ショウはいい人です! だから、私はそれで良いと思います!」

「ナ、ナギサ……」


 口を閉じていたナギサがショウに向かって叫んだ。

「ナギサさんの言うとおりです。たとえ、あなたにそのような資格が無くとも、それはあなたが選んだ道です。それが本当に正しいことだと思うならば、他人の言うことは聞かず、突き進めばいいのです。しかし、オリンストという大いなる力を持つ者は、それ相応の責任が伴います」

「大いなる力……」とショウ。

「それ相応の責任……」とナギサ。


「だが、それもあなたとナギサさんのものです。自分が正しいと思った道に使わないと、あなた方は責任を果たしていないということにはなりませんか?」

「俺は……」

「私は……」


 ショウは空を見上げた。まだ、近くにはアヌヴィスが三機ある。回答を待っているようだ。だが、その光景はかえって、ショウを戦場へと引き戻してくれるものでもあった。それが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。


 だが、少年は確かな一歩を踏み出した。そして、走り出す。

 そして、少女も少年に手を引かれ、走り出したのだ。


―――答えは一つ……―――


「ナギサ、俺は自分の道を行く。付き合ってくれるか?」

「はい……ショウなら私は喜んで付いて行きます。それが私の道ですから」

「俺は大いなる代償を払ってまで、つまらない平和が欲しくない! だから、俺はエルヴィスと戦う。独りじゃない、宇宙に住む人間としてだ!」

「行きましょう」

「ああ、淳朴さん。色々とお世話になりました……。必ず、自分の道を走ります。迷いません、いいえ、彼女がいるから迷わないんだと思います」

「私も……ショウがいるから迷いません。私は自分の存在を知る義務があります。だから、ショウと同じように宇宙そらに上がります!」

「では、ガリアのご加護があらんことを」

「はい! 行こう、ナギサッ!」

「ええ、それが私たちの望んだ道ですから!」


 ナギサがそう言うと、ショウはナギサの手を優しく握り、空を向いて叫んだ。それは確かに空に響いたのだ。


「こい! 白銀の…………オリンストォォォォォォォッ!」

【次回予告】

 その道が正しいのか?

 それは誰にも分からない。

 ただ、少年は少女を守りたかった。そして、世界も……。

 彼は自分の道を翔ける。

 次回【Chapter/37 ショウ、其の心のままに】

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