表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/146

【Chapter/36 パラダイス・ロスト】 その1

 こんな日々が続いてくれたらなぁーって、思ってしまう。でも、これは刹那。そう、自分に言い聞かせているはずなのに……。なんでだろ?

 夜明け前だというのに私は……。こうやって、ショウと交わっている。可笑しい。少し前までは、嫌悪の対象だったのに。今は大切な人になってる。私って、変だよね。こんな身勝手な……うんん、今は違う。私の事を思ってくれている。誰よりも、ずっと。


「ショウ……」

「疲れた……そういえば、俺たちずっと眠っていなかったよ」

「あ、私もあんまり寝てませんでした……」


 そっか……。私たち、寝てなかったんだ。気づかなかった。冷静に考えると、相当嫌なことが溜まっていたのかもしれない。それを互いに舐めあっていた。自己満足なんだろだろうけど、それが気持ちよくてやめられない。

 普通じゃ考えられないこと。アブノーマルなこと。それが平気でできるってことは、私たちは戦場で感覚が麻痺していたのかも……。まるで獣。


「こうやって手を繋いでいると、世界なんてちっぽけなものに思えてくる。今の俺の中の世界はナギサだけだ。でも、オリンストに乗ると、世界の全てが見えてしまう。目を瞑りたいけど……無理なんだ」

「すぅ……すぅ……」

「はぁ……もう寝たかぁ」



―――これは正しいことなの?


―――戦いの無い世界……だから、正しいの。


―――こんなままでいいのかな?


―――もう、苦しまなくてもいいのよ。


―――でも……でも、みんなは苦しんでいる。


―――いい加減やめなさいよ、偽善者。


―――違う、私はみんなが死ぬのが嫌なの。


―――でも、自分が死ぬのが一番嫌よ?


―――でもさ……この世界は。


―――世界なんて関係ないわよ。私はショウと平和に暮らしたい。


―――それは戦いが終わってから……。


―――あんたはショウと気持ちいいことしていればいいんでしょ!


―――違う! 私はもう逃げていられない!


―――だったら何? また、偽善者の言い訳ですか?


―――私は……逃げない。


―――今は男の中に逃げ込んでいるのに?







……無言……







 変な夢……もう一人の私が夢に出てきた。いったい何なの? 私はどんな存在なの? ねぇ? 私って二人いるの? ねぇ……。




「ショウ……もう朝?」

「あぁ、朝飯だな。着替えるぞ、今日には出発する」

「は、はい……」


 ショウは服を着て障子を開ける。快晴の空。眩しいぐらいの光が部屋の中に入ってくる。閉鎖的な空間に吹く風は心地好かった。ナギサも服を着たので、ショウは食堂に向かった。


「おはようございます、淳朴さん」

「おはようございます、ショウさん。気分は?」

「悪くないッス。まぁ、良くもないですけど……」


 本当のことを言うと、気分が悪かった。ショウは気まずく思ってたのだ。確かにナギサも承諾していた。しかし、思いを告げて一日も経たないうちに、あんなことをやってよかったのかどうか、不安であったのだ。

 ナギサは苦しんでいて、誰でもいいから助けて欲しいと思っているのだと、ショウは考えていた。それに浸け込んだ様に自分は……。ショウは罪悪感を持たずにはいられなかった。


「ショウ、テレビ……見て」

「え……これは?」


 柱にくっついているテレビからはアルベガスの演説が聞こえた。皆、それに釘付けだ。


「皆さん。世界中で醜い争いが続いているのをご存知でしょうか? 知らない方はいないでしょう。私はこの争いを止めたいと……醜き争いの連鎖を断ち切るのです! 我々はエルヴィス。量産型アテナを所有する武装組織です」


 こいつが……アルベガスなのか?


「マナと呼ばれる物を皆さんはご存知でしょうか? マナと呼ばれるものは、アテナを動かしている力。それには何の原理もありません。宇宙に空気があるのも……」


 ショウは腕を組み、じっと見つめている。


「そのマナを使って、世界樹ユグドラシエルを復活させましょう」


 世界樹……。それは、マナを司る物。第一始人類滅亡後、地球の中心部に眠っている。それを使えば、宇宙に散ばっているマナの粒子を全て世界樹に集めること……つまり、地球で魔法が使えるようになると考えれば良いのだろう。

 しかし、地球以外に住んでいる人々は死んでしまう。人類はマナを失い。宇宙にて呼吸をすることができなくなるのだ。言い換えると、地球人以外の人類は全て死に至るというわけだ。

 既にアテナと呼ばれるわけの分からない、非現実的なものがこの世界に存在すること。それにエルヴィスが態々、回線をハッキングして《これ》を地球中に流すことを考えると、人々はそれを真に受けてしまうのも仕方がない。

 勿論、本気にしないものもいるだろう。ただし、それは極少数派だ。


「マナを復活させることにより、地球を一つの統一国家とし、人類を一つの集合体にするのです! 即ち、人類は決められた仕事をやり、決められた時に仕事を辞め、決められた範囲で余生を過ごす。そのバックグラウンドにマナを置いて、反抗する者の声を静める。それで十分なのです! それによって、戦争で傷つく子供たちも救われる。戦争で苦しむ者もいなくなる。私はこの地球と呼ばれる星に、一つの独立国家『シャングリラ』を建国する! これは世界の為でもあり、人類存続の為でもあります! 我々は武力を持って、現政権に反逆することをここに宣言す」


 ユウの言ってたことを同じだ……。争いの連鎖を断ち切る。聞こえは良いが……宇宙に住んでいる人たちはどうなるのだろうか?


「我々は争いを連鎖し続ける全ての者に宣戦布告をいたします!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ