【Chapter/3 飛翔とソラ】その2
「ここは……?」
ショウは目覚めた。周りは真っ暗だ。しかし、無数に光る星空があった。酸素も薄く、寒い。
「ここは宇宙です」
ショウの隣にいたナギサが言った。
「宇宙? ここが?」
ショウは初めて無重力と呼ぶものを体験した。これが宇宙だ。
酸素が薄いのは確かだが普通に呼吸するのには適量な量。かなり寒いが死に至る程ではない。
「綺麗ですね……」
「ナギサさんはこれで何回目ですか? 宇宙空間を体験したの」
「初めてです……」
「俺と同じですね」
ショウがそう言うとナギサはにっこり微笑んだ。
「俺、ナギサさんに謝ろうと思ってたんです……」
「なにをですか?」
「その……顔を叩いてしまって……す、すみません」
「……ショウさんはなにも謝ること無いです。私がお兄さんをなくしたショウさんの気持ちを分からなかったんです。なのにショウさんの心に勝手に干渉してしまって!」
ナギサの瞳から流れ出した涙が無重力の宇宙空間を粒となって漂う。
「その……聞きたいことがあるんですけど」
「なんです……か?」
「ナギサさんの高校何年生ですか?」
「中学三年生で、歳は今日で十五歳になります……」
「ご、ごめん」
「ショウさんは?」
「高校一年生、歳は十六だよ」
「じゃあ、先輩って呼んでいいですか?」
「うん……」
ダブリス級が二人の近くに寄ってきた。皆、外に出て勝利の喜びを分かち合っている。中にはシュウスケやサユリもいる。
無重力の宇宙に歓声とざわめきがコダマする。
守ったのか? この人たちの命を……。
「兄貴、俺さぁ……俺さ。人の命を守ったんだよ!」
そして、ショウの初陣は終わった。
クラウドは船長室でくつろいでいた。今頃、目標は火を噴いて爆発しているだろう。しかし、司令部からの報告を聞いた途端、クラウドの表情は変わった。
「なんだと! それは本当か!」
クラウドの額から汗が流れる。クラウドの耳に入ったのは目標の破壊ではなく、グリムゾン級三隻が沈んだことだ。そして……。
灰色の巨人の出現だった。
「くっ……」
クラウドに初の黒星がついた。
中枢帝国の首都セフィラム。元老院は揺れていた。
「白銀のオリンストが目覚めただと……」
十三名の議員のうちの一人が言った。その一人はシリンダーの中に脳のみが浮いている。今年で歳は三三〇四だ。このなかでは一番歳をとっている。彼のみがこのような装置を使い寿命を延ばしているのだから。
「だが、ガブリエルよ……我らはまだ三体のアテナを保有しておる。そのうちの一体はすべてのアテナの『祖』となる存在……いざとなればその一体のみで『マナの再生』をおこな……」
「黙れ! 第二文明はその一体でマナの再生をおこなおうとして失敗したのだ! それが分からんのか!」
「ならば祖から生まれたオリンストを利用しない手は無いだろう?」
「その方が確実性はあるが……」
「しかし、受け皿は用意してある」
「渚か?」
「彼女の中にはマナの結晶がある。しかも、濃い密度の」
「彼女は『エルヴィス財団』に預けているはずでは?」
「そうだ……しかし、彼女を使えばオリンストがなくともマナの再生をおこなうことができる」
「ならば、オリンストは我々の計画を阻害する存在となる……祖のマナを中和できるのはオリンストだけしかない」
「破壊すればいい」
「ですがガブリエル……」
「我々の目的はマナの再生では?」
「はい、ガブリエル」
「『紅蓮のイフリート』と『蒼穹のクシャトリア』を出しましょう」
「ああ、すべてはマナの為に……」
「「「すべてはマナの為に……」」」
十二名の議員はそれを復唱した。
【次回予告】
戦いに勝った。
その勝利は人々の心から、恐怖と呼ばれるものを取り除く。
そして……
少年は初めて酒の味を知る。
次回【Chapter/4 祭の後の酒の味】