【Chapter/35 電撃作戦!】その1
ダブリス級の艦橋では軍議が行われていた。ソウスケはモニターをずっと見つめている。もう三十分も経っているのだ。ヴァルキリー級の艦橋内のミウにも、疲れが見え始めている。
「山脈に……近くの湖……敵は今のところアテナを発進させていない……」
「何かいい案は浮かんだか? ソウスケ?」
「ヘーデ艦長……この戦い、勝たなくても良いんですよね?」
「どういう意味?」
ミウが聞くとソウスケは、間を置いて口を開いた。
「逃げても良いというわけか、ってということです」
「しかし、君がよく使うダミーバルーンは無いぞ?」
「なら、逃げる素振りは見せられますよね?」
「素振り……か」
「ハンガーに置いてあるクシャトリア、使えますか?」
「使える状態にはある。しかし……パイロットが……」
「俺はここにいるぜ。クロノ・アージュ、蒼穹のクシャトリアのパイロットに復帰する」
「クロノさん!」とアリューン。
ヴァルキリー級の艦橋に入ってきたのはクロノだった。アリューンも付き添いだ。
「あなた……死んだはずじゃなかったの?」
「ミウさん、あれはちょっとした小細工で死んだように見せかけたんですよ」
クロノは自信ありげに、そう答えた。
「ここのアリューン以外の面々には挨拶がまだだでしたね……俺はクロノ・アージュ、中枢帝国ではクシャトリアのパイロットを務めていたんですよ」
「クロノ……やっと戦う気になってくれたか」
「ああ、これじゃあ、大切な女も守れやしない。そうだろ、ソウスケ?」
「久しぶりに見たけど……元気そうで安心したよ」
「俺は基本的には何時でも元気だぜ? さて、軍議を再会しようか、俺を含めてさ」
久々に見たその姿に俺は圧倒された。蒼く輝くそのボディー、追加装備として背中に粒子砲二基と脚部にミサイルポッド。ここのハンガーでは翼を折りたたんで収容されている。早く、それを広げさせてあげたいな。
クロノはクシャトリアのコックピットの中に入った。まさか、再びクシャトリアのコックピットの入れるなど、本人は予期していなかったであろう。握りなれた操縦桿ではないものの、雰囲気が前と同じであった為、操縦には不自由がなさそうだ。
「おーい。前と少し、コックピットのデザインが違うんだけどーっ」
「それはねー。少し前にクシャトリアをぶっ壊したやつがいてねー。それで修理したら、こうなったのですわぁ」
エミルの陽気な受け答えにクロノは少々、戸惑いを感じたがすぐに慣れたようだ。
「君、歳は?」
「ぴっちぴちの十四歳だよぉーっ!」
「どう? これが終わったら食事でもしない?」
「私は女の子にしか、興味はないよぅ……。クロノって、カッコいいから無理だよーっ。可愛くないとねー」
「ふ、初めてそんな子に会ったよ。なんだか、良いことが起きそうな感じがする」
「頑張ってねぇーッ!」
「あぁッ! 了解! アリューンにもよろしくな」
そう言うとクロノは回線をダブリス級の方へ繋いだ。
「作戦は……俺がオトリになりゃいいってわけだろ、ソウスケ?」
「少しの間だけ……な。大丈夫だ、クシャトリアの機動性とクロノの操縦テクニックであれば、それぐらい簡単だろ?」
「簡単に言ってくれるな……。ま、やってやるけどよ」
「地形は両サイドが山脈、それが抜けたところに湖がある。クロノは敵の目を湖から離してくれればいい」
「合点承知ッ!」
「ご武運を……」
クシャトリアの足元が降下し、外に出る。そして、両サイドを固定していたアームが外れて、クシャトリアは投下される。
「蒼穹のクシャトリア、クロノ・アージュ。発進するぜ!」
クシャトリアは翼を広げて、飛翔する。