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【Chapter/34 断てぬ、痛みよ】その3

「……で、どうするにょ?」


 エミルは眠たそうな顔でミウに言った。徹夜は十四歳にとって、かなりハードなのだろう。ヴァルキリー級の艦橋の窓からは朝日が差し込んでいる。アリューンは貧血で席を外している。

 ショウとナギサのオリンストの反応が消えてから一日経った。司令部からは月に向かい、戦力を結集させてエルヴィスを撃つ、と返答はそればかりだ。今から二時間前、ユーラシア大陸がほぼ、エルヴィスに侵略されたとの報告が入った。それでも尚、諸国連合は地球での決戦をせずに、侵略を受けていない月にて、決戦を行おうとしているのだ。


 まったく、月へ行けない人たちは見殺しなの?


 ミウは深くため息をつく。右手に持った栄養クンを一気に飲み干す。最近は忙しくて、これぐらいしか食べていない。


「サユリ・グラムス、差し入れでーす」

「同じくーっ、シュウスケっす」


 サユリとシュウスケが差し入れを持ってきた。やはり全て栄養クンだが、量はかなりある。シュウスケは両腕に抱え込んだ、三つの段ボール箱(中には栄養クンが入っている)を「よいしょ」と置いて、一息ついた。サユリは手作りのクッキーを持ってきた。


「わぁぁぁぁぁぁッ! サユリちゃんの手作りだぁッ!」


 さっきまで生ける屍だったエミルの顔が潤い、サユリに飛びついてくる。


「わっ、エミルちゃん……。ミウさんもいかがですか?」

「え、ええ。ありがと」

「ショウとナギサちゃんのことで心配しているのですか?」

「そうね……今、どこにいるのかも分からないし……。あんなところでオリンストを見失った私の責任だわ」

「……ショウは……」

「ごめんね。でも、私たちはマスドライバーまで行かないといけないの、一刻も早く……ね」

「せめて、連絡が取れれば……」




 最近、アスナの夢をよく見る。


 自分ではだいぶ、落ち着いたように思ってた。しかし、僕はまだアスナのことを考えている。ここにはイフリートの残骸が収容されているらしい。その影響なのだろうか?


 その時、ソウスケの部屋のドアが開いた。


「あのーソウスケさんですか?」


 それはアリューンだった。右手には手紙を持っている。勿論、貧血なのは嘘だ。


「君……は?」

「アリューン・コムです。クロノさんから手紙を渡して欲しいと……」

「手紙? クロノから!」

「はい……渡しときますね」


 そう言うとアリューンは手紙を置いて、その場から去っていった。


「クロノさんが生きてたなんて……想像はしていたけれど」


 自然とその言葉は口から出た。クロノには戦う理由が無かったのか? 僕はあると思ってた。あの人はいつも、余裕があって軽やかな立ち回りで人とコミュニケーションが取れる人だ。悪く言えば八方美人だ。そういうことから考えれば、生きていることにも納得できた。


 ソウスケは手紙を開いた。


 ソウスケ、今の俺の状況を手短に書く。俺は今、アリューンという女に匿われている。何度も死にかけたがこうやって生きているんだ。今、俺が生きてこの艦にいると、周りにバレてしまっても、大して問題にはならないだろう。だが、俺は正直、迷っている。もう一度、クシャトリアに乗って戦うべきか、脱走して何処かで平和に暮らすべきか……。今の俺には戦う理由が無い。今までも、理由無く戦ってきたのかもしれない。それが普通だったのかもな。でも、次第に馬鹿馬鹿しくなってきたんだ。

つまり、俺がお前に問いたいのは戦う理由があるかどうかだ。あるならば、俺は全力でお前を助けよう。逃げるだけの人生はなんとなくカッコ悪いからな。それだけだ。アスナの気持ち……受け止めてやれよ。


「そうだ……アスナは俺に何を願っていたんだ?」


 それにアスナの気持ちって……。あの時、何でアスナが僕を守ってくれたってか? それは……僕を命がけで守るに等しい存在だったからなの……かな? でも、それだけじゃないのかもしれない。きっと、この争いの連鎖を断ち切って欲しいと、僕に願っていたからじゃないのか。

 アスナは確かに何もできない、ただのアテナのパイロットだった。だけど、僕は出世のレールに乗った(それがルーベリッヒの降格や、度重なる死を踏み台にしたものだとしても)一隻の艦長だ。未来があるのは明らかに僕だった。アスナはもう生きることができなかったのだ。

 もう、私のような子を生み出して欲しくないと。試作量産型アテナのパイロットを見て、そう思ったのかもしれない。そして、自分に未来がないと悟った時、その思いを僕に授けてくれたのかもしれない。


 その時、警報音が鳴った。敵が来たのだ。ソウスケはサユリ(ソウスケの管理担当)の部屋に回線を繋いだ。


「サユリさんか? 頼みがある、聞いてくれるか?」

「へ?」




「敵? いくつ?」

「戦艦が三隻です。まだこちらには気づいていないようで……」

「大丈夫なの、アリューン?」

「はい、貧血(嘘)は治りましたから、ミウさん」


 アリューンは笑ってみせた。ここは荒地で所々に小規模な山脈がある。それ以外に一キロ先には巨大な湖があった。湖とはいえ、かなりの深さがある。


「無理しないでね、アリューン。で……敵は戦艦三隻に例の量産型。一方、二隻の戦艦のみの私たちは……。流麗のダブリス一隻で守りきれるかどうか……不安だわ。ヘーデさん、どうします?」


 ミウはダブリス級に回線を開いた。


「マスドライバーまであと少しだ。回り道をしている余裕は無い。その間にマスドライバーがエルヴィスに破壊されたら、どうしょうもないのでな」

「しかし、戦力差がありすぎます。それに……」

「……ソヒィスティケイティッド・クラッシャーは一発が限界」


 ミナトは呟いた。流麗のダブリスであれど、数十機のアヌヴィスを相手にすることは無理なのだ。


「くそ……手も足も出せないということか」

「シュウスケくん、そのようです……?」

「いいや、手はあるかもしれない!」


 ダブリス級の艦橋に入ったのはソウスケだった。隣にはサユリがいる。ソウスケの両手首には手錠がはめられていた。


「ソウスケか?」

「ヘーデさん、僕も手伝いますよ」

「……分かった」とミナトは言う。ヘーデは黙って顔を縦に振った。


 ソウスケの目は既にモニター画面に向いていた。モニターには敵の戦力と配置、それに戦場の地形などの情報に溢れかえっていた。


「ヘーデ艦長! この人は!」

「リョウ、確かにソウスケは中枢帝国の軍人だった。しかし、過去、彼はアテナ無しに私たちを追い詰めた。そんなブレインを使わない手はないだろう? それに……今の敵は中枢帝国などではない」

「…………」

「それに僕の両手には手錠が掛けられている。いくら僕が戦闘能力で優れていたとしても、足技だけで何人も殺せません。信用してください!」

「分かった、ソウスケ元中尉」

「ヘーデさん……ありがとうございます!」

「そうときたら、まずは軍議を始めなくちゃな!」


 シュウスケは言った。そして、皆それに賛同した。


 これほどの戦力差……だけど、戦争の要は質でも量でもないさ。大切なのは何十にも重ねられた、重厚な作戦だと。クラウドさんは言っていた。そうだろ? アスナ……君に馬鹿にされないように僕は……負けない

【次回予告】

 圧倒的な戦力差。

 二隻の戦艦と一機のアテナが三隻の戦艦と数十機ものアテナに挑む。

 それは無謀なのか?

 答えは何処にある?

 次回【Chapter/35 電撃作戦!】

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