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【Chapter/34 断てぬ、痛みよ】その1

「ったく……追加装備の出番も無かったって事ォ? ま、このままオリンストを逃しておくわけにも……ナシよね!」


 意識の無いショウ。アグラヴァイは動こうとしないオリンストに向かって鉄の大剣を突き立てる。しかし、その鉄の大剣はピンク色に光るビームに貫かれて、折れてしまった。


「何よ! って……あなたは!」

「イリヤさん、事情は後で説明するわ。だから待って!」


 アグラヴァイの上空に現れたのは渚のマキナヴだった。




 ここはどこだろうか? 少なくとも、ダブリス級の医務室ではないだろう。


 目が覚めた時、ショウは青臭い匂いを感じた。草木の匂いだろうか? 鹿脅しがエコーを鳴らしている。畳独特の柔らかさと、その芳醇な香りはショウを癒す。ここはどこなのかは分からないが、死んでいるわけではないのだろう。ショウはそう確信した。

 隣には誰かが寝ていたのか、布団が敷いてあった。こちらには布団は無い。この部屋は畳十畳ほどではあるが、何故か狭く感じてしまう。滝の絵が書いた屏風や生け花が数点あるからだろうか。

 しばらくすると、障子が開いてそこから黒装束を着た、若い僧が現れた。ショウより五、六上のように見える。頭を丸めているところを見ると、ガリア教の信者であることが伺える(純教は頭を丸めない習慣がある)。


「お目覚めのようですか……」


 彼の声は角が取れていた。丸くて柔らかい感じだった。


「は、はぁ……」

「私はここの寺院にて修行をしている、淳朴じゅんぼくと申します」

「お、俺はショウ・テンナです。ナギサはどこですか?」

「あーあなたと一緒におられた、少女のことですね……。彼女はこの部屋の奥にて、お食事を取っておられます」

「そうですか。俺たちは何でこんな所にいるのですか? というか、助けてくださったのですよね?」

「いえいえ、当然のことをしたまでです。道に餓えておられる者がいらっしゃたならば、お食事をさせてあげる。病にて苦しむ者がいらっしゃったならば、よろこんで看病をさせていただく。其れがガリアの教えでございます」

「俺は……」

「修行中の僧が倒れているあなた方を、こちらまで運んできたのでございます。ここは山奥にある、ガリア教の総本山『見願寺』と呼ばれる場所です」


 見願寺……って、確か……。まさか、こんな遠くまで来てしまったのかよ!


 ショウはそれを聞いて驚いた。


「今は何時ですか? 俺は何時間、寝ていましたか?」

「半日ほど……今は夕方の六時です」




 イリヤとマキナヴはベリクス級に帰還した。ハンガーに戻ってきたイリヤは整備班が飲もうとした、コーラを右手で奪い取った。


「失礼……」

「おい! これは俺のだぞ?」

「失礼と言った!」


 イリヤは整備班の男の顔を睨みつけた。その形相に整備班はビクリとして、作業に戻る。それを見た渚は手を口に添えて、少し笑った。


「あなたも半分いる?」

「私はいいよ。それより……遅くなちゃったね」

「いいのよ、私がなんとかする。あなたの彼氏によろしくね」

「ありがと。じゃあ、マキナヴの整備に行ってくるわ」

「着換えなよ」

「実はパイロットスーツも結構、スベスベしていて気持ちいいのよ?」

「変わってるわね」

「どう致しましてね」


 そう言うと渚はマキナヴのある、第七ハンガーに向かった。第七ハンガーの前では数十名の整備班が作業を続けている。人工のアテナに対して天然のアテナは性能も高く、それと同時に整備の難易度も高くなっているのだ。それ故に、こんなにも整備班が多いのだ。


「ちょっと! もう少し丁寧にしなさいよッ! あなたたち、プロフェッショナルでしょうから、もっと上手くできるはず」


 渚はそれを見て、整備班に向かって叫んだ。別に下手だということはないが、自分の大切なものの魂が入っているマシンを他人に整備されているのが、なんとなくイラついたのだ。それに対して、整備班長が大きく口を開けて。


「ガキが偉そうなこと言うなや! こちとら、整備も大変なんじゃ!」

「ふざけないで! 神名くんが可愛そうでしょ! もう少し、いたわりっていう言葉を勉強したら、どうなのっての!」

「三十七年、マシンを整備してき……」


 痴話喧嘩は続く。整備班の若者二人が、ヒソヒソ声で話し合う。


「あの娘、自分のアテナに名前つけてるんだってよ」

「そこまで、感情移入するってアテナでもないっしょ?」

「うーん。噂ではコックピットの中で寝泊りしてるってさ」

「へぇー変わった奴だなぁ」

「仲間の話だと、その『神名くん』っていう名前を叫んでいたらしいぞ?」

「淫乱ってやつか?」

「なに想像してんだよ……」

「こら! そこ! 聞こえてるんだから」


 その二人の話を聞いていた渚は、叫んだ。ビクッとして物陰に隠れる二人。


「いくら、容姿があれでも俺は無理だな」

「いいなぁ……淫乱か。俺はオールオッケーだ」

「お前には一生できねーっての」


 まだ、渚と整備班長は喧嘩をしている。そんな中にイリヤが現れた。


「何? 渚……また喧嘩?」

「うんん、なんでもないのよ。いこっか」

「ええ、分かった」


 そう言うと渚とイリヤは隣り合ってベンチに座った。


「で、あの話、本当なの?」

「うん。あのオリンストに乗っているのは私と同じ存在なの。でさ……殺してしまったら、私も消えてしまうの」

「……なんで? まぁ、同じ存在っていうのは知っていたけど」

「説明するのは難しいけど……聞いてくれる?」

「うん。渚の言うことは全部、聞いてあげるよ」

「じゃあぁ……【宇宙のハザマ】って知っている?」

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