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【Chapter/33 ロスト・アゲイン】その3

「はぁ……なんで、また私が捕虜の世話をしなきゃならないのよー」


 サユリはうんざりした顔をしながら、廊下を歩いていた。ヘーデに中枢帝国の捕虜に食事を持ってこいと言われたのだ。そういうのはアリューンさんに頼めばいいのに、とサユリは思ったが口には出さなかった。


「あのー食事を持ってきました……」


 サユリは恐る恐る、捕虜の入っている部屋のドアを開けた。捕虜とはいえ、敵だった人物と目を合わせることは、気が強いサユリでも結構キツイものなだ。サユリが想像していたのはヘーデのような、一生軍人であった。

 しかし……。


「わッ!」

「キャーッ!」

 そこにいたのは全裸でタンスの中を物色していた若者だった。顔は悪くない。しかし、全裸である為、顔よりも下の方に目が行ってしまう。そして、サユリは声を上げた。呆然とする若者。彼はソウスケだ。

「は、破廉恥な!」

「い、いや、ノックぐらいしてよッ!」

「そ、そうですね……。早く着替えてくれませんか?」

「あ、ご、ご、ごめんね。ドアを閉めて」

「は、はい!」


 そう言うとソウスケは急いで着替えた。着替え終わったとの事なので、サユリは部屋に入ることにした。さっきまで寝ていたようで、ベットの上は片付いていない。


「さっきはごめんね……」

「あ、あ、いえ。私もノックをするのを忘れてしまっただけで……」

「君の名前は?」

「私はサユリ・グラムスです。ここの船長の娘です」

「へー……僕はソウスケ・クサカ」


 捕虜とは到底思えない清清しさに、サユリは少々戸惑う。しかし、次の瞬間サユリは目的を思い出して、両手に持っていたレトルトの食事が入っている段ボール箱をソウスケに渡した。


「これは食事です。ご飯はこちらにあるようなので……」

「ありがとうね。カレーかな?」

「うどんですよ?」

「そうなんだ。じゃあね」

「あ、あのー。一つ聞きたいことがあるんですけど……」

「なんだい?」

「なんで、こんなに清清しくいられるのですか? 味方の人もたくさん死んだっていうのに」

「…………僕だって大切なものを失った。だけど、復習しようだなんて考えてはいない。ただ、大切なものを失って、道が見えなくなったんだよ。だから、今は何も考えないでおこうって……ね」

「大切なもの……ですか。では……」


 サユリはそう言うと部屋から出て行った。




「敵? どこにいるの?」


 艦橋に戻ってきたサユリ。艦橋は既に戦闘体勢に入っていた。鳴り響く電子音。そわそわとしているシュウスケ。


「あ、あ、敵が来たってよ!」

「そんなのは分かっているわ!」


 シュウスケの言ったことにサユリは言い返した。しゅんとするシュウスケ。


「距離は約三千キロ先。数は戦艦が三隻。アテナが二十機です」


 リョウは的確に答えたが、サユリは嫌な顔をする。ここ二週間、謎の部隊は中枢帝国の侵略を継続して行ってきたが、諸国連合内では目立った動きは見せていなかった。


「第一種戦闘配備!」


 ヘーデはそう言った。艦内に警報音が鳴り響く。そして、ダブリス級の目の前にオリンストが現れた。




「あのアテナ……」


 ショウは呟いた。オリンストは第二始人類の遺跡の上空を飛翔していた。目の前にいる敵はアヌヴィス十機にアグラヴァイだ。アグラヴァイと戦うのは久々だ。どうやら、アグラヴァイのパイロットの方も離反したようだ。


「ショウ、こちらの戦力とはかなり差があります」

「戦力差か……ナギサ、姿勢制御を頼む! 強化されたせいで、バーニアの出力がランダムなんだ」

「分かりました!」


 ナギサがそう言うとオリンストは光の剣を発生させて、アヌヴィスに切りかかった。アヌヴィスは回避行動をとろうとするが、間に合わず左手を切断されてしまう。次にオリンストに向かって、左手を失ったアヌヴィスは右手からビームブレイドを突き立ててくるが、オリンストは姿勢を低くして、それを避ける。


「グラディウスアローッ!」


 オリンストは左手にグラディウスアローを発生させて、アヌヴィスの右手を撃ち落して、本体を右足で蹴り飛ばした。後方からマシンガンを撃ってくるアヌヴィスに対して、オリンストはAフィールドを放ち、それを全て弾く。


「敵機、接近! これは……アグラヴァイです!」

「こいつ! またかよッ!」


 オリンストに急速接近してきたのはアグラヴァイだった。アグラヴァイの背中には灰色のバックパックが装備されていた。追加装備であろうか。

 アグラヴァイは両手に持っている大剣を、二つともオリンストに向けて振りかざす。オリンストはそれを回避するが、次に振りかざされたアグラヴァイの右手はAフィールドで受けるしかなかった。


「速い! だけどッ!」


 アグラヴァイに押されて、砂漠に足を落としたオリンストはなんとか姿勢を正して、左手のグラディスアローを粒子化し、代わりにラグナブレードを右手に発生させてアグラヴァイに向けて構える。

 アグラヴァイは脚部のバーニアを吹かして、オリンストに突貫してくる。それをオリンストはラグナブレードで受け止める。しかし、次から次へと繰り出される、アグラヴァイの攻撃にラグナブレードは耐え切れずに、折れてしまった。


「……こいつ!」

「甘いわね! このアグラヴァイに敵うとでもッ!」


 声が聞こえた。しかし、ショウはそれを無視して、戦いに集中する。オリンストは尚も押されている。周りには第二始人類の繁栄の証ともいえる、砂に埋もれたビルで溢れていた。傾いているものもあれば、そのまま天に聳え立つものもあった。

 アグラヴァイはオリンストをビルに押し倒した。ビルの鉄鋼部分は既に風化しており、そのビルは土煙とともに崩れだす。それが目くらましになったのか、アグラヴァイの動きは一瞬だけ止まった。


「まだまだ!」

「う……天然のアテナだからってぇ!」


 オリンストはその隙に左拳をアグラヴァイの腹に入れた。しかし、アグラヴァイは怯まない。


「調子に乗るなぁぁぁ!」


 イリヤがそう叫んだ途端、アグラヴァイの動きが速くなった。そして、オリンストを抱きしめて、脚部のバーニアを吹かして地面を引きずり回して、一番高いビルに叩きつけた。そのスピードは捕捉できないほどに速くなっている。土煙だけが二機の通った後に残る。

 そこはもう砂漠ではなく、山のふもとであった。森林地帯のような気がしたが、はっきりとした意識の無いショウには分からなかった。倒れかけのビル。あそこからもう何キロ先の場所だろうか? ショウは背中に激しい痛みを覚える。


 意識がぶっ飛びそうだ……。でも……こんなところで。


「だいぶ、遠くまで来ちゃったようだけど……この世界にあなたは必要ないのよ!」

「まだ……死ねるか……ッ!」


 しかし、ショウの意識は段々、消えてしまう。

【次回予告】

 其れは想い。

 其れは苦しみ。

 其れを断つことができるのであらば、人は……。

 其れを導くのは偽善者か?

 次回【Chapter/34 断てぬ、痛みよ】

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