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【Chapter/33 ロスト・アゲイン】その2

 ショウは一人、デッキに上がり寝そべって空をぼんやりと眺めていた。頭の後ろで組んでいた両手が痺れてきた。ここ最近、これといったこともせず、ここでぼんやりとすることが多い。砂漠地帯だが砂煙の隙間から見え隠れする太陽は眩しかったが、ショウにとってはあまり気にならなかった。


 世界のことを考えろと言われても俺にはどうしょうもないさ。傍観者であるはずの俺がこんなところにいること自体、ナンセンスなことなのかも知れない。ごく普通の高校生だった人間が戦うだなんて……笑える。いつの時代だよ。

 生半可な決意が世界を変えうる決意になってしまうのかよ、本当に。だったら重すぎるさ。それでなくとも、ナギサのオリンストの使い方によって世界は右にも左にも傾くだろう。アテナとしてもイレギュラーなんだろうな、オリンストって。


 ショウは手に持っていた栄養クンを一口飲んで立ち上がった。


「……ショウ? どうしたのですか?」


 そんなところにナギサが現れた。ナギサがこんなところに来るのは珍しい。


「うんん、ちょっと考え事をね」

「ショウは考えすぎなんです、いつもいつも。だったら私も考えます」

「ナギサ……確かにナギサも考えるべきことなのだと思う。でも、ナギサの視点から見ると悲しすぎるんだ」

「……確かにそうかもしれません。でも、現実から目を背けたくないんです。こんなにも変な存在である私が……私がどういうものなのか知りたいんです。たとえ、それが悲しいものであったとしても、私は逃げませんよ」

「強いな、ナギサは」

「だから、ショウも一人で悩まないでください。オリンストに乗っているのはショウだけではありませんよ。私も乗っていますから」


 ナギサはニコリと笑った。ショウは少しだけ癒された気がした。


 そうだな、俺は世界の為に戦っているんじゃない。目の前にいる大切な存在を守るためだけに戦っているんだったな、俺は。でも、それが世界を崩していくのかもしれない。


「最近、私気づいたんです。自分が十五のだった頃以前の記憶が無いって事を。断片的には覚えているんです。でも、大切な部分が欠けているみたいなです。そして、自分が歳をとっていないということも」

「何で気づかなかったの?」

「何ででしょう? 私、ずっと諸国連合の軍人でしたし周りの環境も変わってないからでしょうか。自分の中での時計は……ショウと契約したときから動き出した気がします」

「……たとえ、ナギサの運命が悲しいものであっても、俺はナギサの肩をもって、寄り添って歩いていくよ。で、断片的な記憶って?」

「とても愛おしく想っている人に抱かれていました。だけど、私はその人を知りません。ショウでもありません」

「元彼ってやつなの?」

「分かりません。今からずっとずっと昔の話のような気がします。でも、今でもその人はこの世界のどこかにいるような……。少なくとも、その人に恋心などは抱いてませんよ」

「よかった……」

「え?」

「いいや、いいや、何でもないよ。うん」



ショウは曖昧に誤魔化した。そろそろ、外が寒くなる頃だ。ショウとナギサは船内に戻っていった。




「ソウスケ? ソウスケ!」

「え? アスナ?」


 目が覚めるとソウスケの目の前にはアスナが笑って立っていた。髪をサラッと下ろしたその姿はソウスケをドキッとさせた。制服姿のアスナ。ソウスケの部屋は殺風景で、壁にGカップグラビアのポスターが一、二枚張ってあるのが唯一の華だった。テレビの上には戦艦の模型が数点……。


 そうか、さっきまで夢を見ていたのか、僕は。しかし、長い夢だった。アスナがロボットに乗って、敵と戦っていた。ああ、ゴウガンナーの見すぎだわ。しっかし……アスナが死ぬなんて不謹慎な夢だな、まったく。


「おい! せっかく起こしに来てやったんだから、早く着替えて仕事行きなさいよ! 一応、軍でも偉いほうなんでしょ!」

「まぁまぁ、こんな朝っぱらから大声で叫んだら近所迷惑だろ? ここはマンションだぞ」

「うるさい! 起きろォォォォォォォォォッ!」


 アスナはそう言うとソウスケをベットの上から引きずり下ろして、強引に寝室からリビングまで連れて行き、朝飯を食わせてマンションから出させた。その間、約十分。見事な早業だ。


「で……まだ、朝の五時だぞ。早すぎやしない?」

「う、うるさい。公園に行くぞ!」


 ソウスケは黙って近くの公園に行き、ベンチに座り鞄の中に入っている缶コーヒーを開けてゴクゴクと飲んだ。


 そういや、夢の中で僕とアスナは……。今から回想すると結構いい夢だったのかも。まぁ、アスナが死ぬっていうのは、気に食わなかったけど。ま、現実はそんなに上手くいかないんだよな……。


「ソウスケ……そのー目をつぶってくれない?」

「どうして?」

「べ、別にいいじゃん!」

「分かったよ」


 そう言うとアスナはソウスケに顔を近づけた。二人に唇の間隔は約五センチ。しかし、それにソウスケは気づいていない。秘めていた思いをアスナはぶつけた。そして、重なった。ぎこちなく動くアスナの唇。プルプルと震えている。


 あれ? デジャヴってやつなのかな?


 ソウスケはアスナを抱き寄せてそれを受け入れた。未だに重なっている二人の唇。甘い匂いがする。そして、ギュッと抱きしめあったその時……。


 アスナの体は勢いよく弾けた。そして、周りも真っ暗になる。ソウスケの鼻には鉄分の臭いが入ってきた。目の前には弾けたアスナの体。そこには内臓や骨なども見られた。ソウスケはその現実を受け入れられずに、足元にあるアスナの頭部を抱きしめて叫んだ。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! 俺は……僕はぁぁぁぁぁぁッ!」


 その時、ソウスケは気づいた。




―――これが夢だったんだな―――




「はぁ! はぁ! はぁ!」


 目が覚めたのはダブリス級にて与えられたソウスケの部屋だった。勿論、部屋には鍵が掛けられている。牢獄から普通の部屋になったのも、ヘーデの計らいのおかげだ。今まで戦ってきた戦友は皆、シベリア基地に残っている。ソウスケだけがこの艦にいる、中枢帝国軍人だ。とは言っても、このような事態では中枢帝国も諸国連合もあまり関係が無いのだが……。


「最近……多いな」


 ソウスケは上のシャツを脱ぎ、汗で濡れた背中を洗うために下も脱ぎ、シャワーを浴びた。それは汗を流し落とそうとしていたはずなのだが、次第にあるはずのない鉄分の臭いを落とそうとしたいた。それに気づいたソウスケは急いでシャワールームから出て行き、裸でベットに潜り込んだ。


「…………」


 無言。乾かしていないその髪の毛で枕は半分濡れている。服を着ようとソウスケはベットから出て、服を着ようとした。その時、ソウスケの部屋のドアがゆっくりと開いた。

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