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【Chapter/33 ロスト・アゲイン】その1

彼には彼なりの正義があったのだ。それが正しいのか、正しくなかったのかは分からない。しかし、これだけは確かだ。




―――俺はそれを踏みにじったんだ―――




 ショウは一人、廊下を歩いていた。まだ、体の震えが止まらない。目の前はぼやけてよく見えない。疲れているのか? 神経を使いすぎたようだ、ショウは。気づくとショウは無意識のうちにベットの上に横たわっていた。ショウは枕を頭の上にのせて、天井の照明の光を遮り目を閉じた。

 最初は眠れそうにもなかったが、次第に思考が停止していき気づくと夢の中にいた。ショウは照明も消さずに眠りについたのだ。




 あの騒動より二週間経った。ダブリス級とヴァルキリー級はシベリア方面から脱出し、再び宇宙そらに上がる為にマスドライバーのある北小大陸方面(現在の北米)の南部へと向かっていた。

 大気層が高い地球では、戦艦の推進力では大気圏外まで行くことができないので、マスドライバーと呼ばれる巨大なレールを使って上がるのだ。

 北小大陸の中部からは第二始人類の遺跡が多数見つかっているが、現在は砂漠と化しており、巨大なビル群は砂に埋もれて、頭だけ突き出ている感じだ。

ダブリス級の真下にもそのビルが残っている。ここの砂を掘っていけば地下鉄の遺跡や博物館などの遺跡も見られるが、今は発掘予算が削減されていて、殆ど進んでいない状況だ。

 そして、ここから少し距離を置いたところにガリア教と呼ばれる宗教の寺院があり、修行僧たちがそこで修行をしている。その反対側には純教と呼ばれる宗教を中心とした都市、グーレェムがある。そこに住んでいる九割の人間が純教の信者だ。


「すごいわね……こんなものがずっと昔にあったんだから」


 ミウは眼下に広がる、砂漠に埋もれたビル群を眺めてそう言った。エミルは仕事をそっちのけでそれを眺めている。十四歳の少女の反応としては普通であろう。このような光景は他の星では到底、見れるようなものではないからだ。ある意味、ファンタジックな光景でもあるが、これはファンタジーではなく現実だ。それがまた、十四歳の少女の好奇心を惹かせる要因でもあるのだが……。


「わーぉ、すごいよー。こんなの見たことがないよぅ」

「ホントよね……でも、こんなに栄えていたのに、何で滅んでしまったんだろう?」

「それは、更なる発展を求めようとして失敗でもしたからではないか?」

「へ、ヘーデさん! 回線を開いているなら言ってくださいよー」


 ミウは突然、聞こえたヘーデの鈍い声にビクつく。


「すまないな。まぁ、第二始人類が滅んだ一説としては宇宙生物の襲来……とされているがな」

「え? そうなんですか?」

「ま、あくまでも噂レベルの話に研究者が食いついて、いかにもリアリティのあるようなことを言っているだけなんだがな」

「うーん。夢がないですね……」

「本当に襲来していたならば、死骸の一つや二つ見つかっているはずだからな。そういう風なことでも、一人前の学説になるぐらい第二始人類の滅亡については、あまり分かっていないのが現状だよ」

「ゴウガンナーだよぅ! 宇宙生物の襲来と言えばゴウガンナーだよぅ!」


 エミルはゴウガンナーの超必殺技『ゴウガンナー・スーパー・ギガ・ドリル・炎皇斬』のマネをミウに向かってする。

 ゴウガンナーは宇宙から襲来した生物を倒すスーパーロボットアニメのことだ。宇宙生物の襲来と聞いて、マニアであるエミルが反応しないはずがない。無論、ミウも好きなのだが、そこはあえて反応しなかった。


「もしかして、そうだったのかもしれないわね。宇宙生物と戦った少年がいたのかも。そうだったら多分、その子もショウ君と同じように苦しんでいたのかもしれない。私たちには分かりっこない苦しみをね」

「そうだな……我々には分かりっこないのだろう」

「軍人でもなく英雄でもないただの少年が、世界について真剣に考えろっていうのが無茶よ。ただの肥大な妄想になるわ」

「でぇ……アリューンお姉ちゃんはぁ?」


 エミルはゴウガンナーの合体ポーズを取りながら、不思議そうに言った。さっきのヘーデとミウのやり取りがまったく理解できなかったのだ。


「あ……そういえばどうしているのかな? アリューンは」


 ミウはボソッと呟いた。




「クロノさん。お昼ご飯、作ってきましたー。初めてのお弁当ですからヘタですかね……」

「うんん、おいしいよ。本当に初心者?」

「よかったぁ。ビギナーズラックっていうやつですかね?」

「そうかもよ?」


 クロノとアリューンは自室にて仲良く昼飯を食べていた。アリューンの手作り弁当は初心者とは思えないほど上手くできており、味も一流とは言えないものの、普通よりはだいぶ上だ。


「ったく……ここ三週間、ここに閉じこもってばかりだ。どうするよ?」

「そうですね。クシャトリアは回収はできたものの、かなり傷ついていますから……今はダメだと思います。だから、もう少し待ってみてはいかがでしょうか? 前回の裏切りもあったことですし、こちらの神経も立っています」

「そうだな……俺を信用してくれるやつなんざ、この艦にはいないしな」

「ここにいますよ、クロノさんを信用している人」

「そうだったな。ありがとう」


 アリューンが微笑むと、クロノもそれを返した。

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