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【Chapter/32 変革する世界の中で】その3

「戦争……か」


 ソウスケは一人、ダブリス級の牢獄にて呟いた。戦闘時なのか誰もいない。外からは轟音が聞こえる。一週間、ろく動いていない。体がなまっているのか、とソウスケは思ったが次の瞬間には、どうでもいいことになっていた。


 一週間、冷静に考えてみた。しかし、答えは見えない。アスナが願っていたことは、何なのだろうかと……。分からない。考えれば考えるほどオリンストへの憎しみが増してゆく。だけど、オリンストに復讐したって意味は無い。新たな憎しみを生み出すだけだ。


「僕はどうすればいいのだろう? アスナ……君がいなくなった時から僕の目の前にある道は崩れたよ」




「アルベガスはそのマナを自分たちの為に使わず、人類のために使う! 地球にマナを全て集結させて、それによる統一国家を作るんだよ! すなわち……『シャングリラ計画』! マナは使い方が正しければ、枯渇せずに人類の為にだって使える! マナと呼ばれる強大な力を持てば、誰も争いを始めまい! そして、人は決められた運命をたどって、世界の一部分として生きてゆくのだよ!」

「いつまで、そんなこと考えているのですか! 俺は……アルベガスっていうやつの言うことが信じられない! 自分の為じゃない? そんなの口先だけだ!」

「しかし! そうだとしても、お前は今の世界が本当に良いと思っているのか? こんな薄汚れた世界のままで!」


 誰だってそんな世界を望んでいるはずだ……だけど、俺にはそれが夢物語にしか聞こえない。大体、マナと呼ばれるものの存在すら、俺は知らないかった。いや、ユウが言った嘘かもしれない。だが、ユウの言っていることには妙なリアリティーを感じられずにはいられない。

ユウの言っていることが本当ならば俺の目指していた世界なのかもしれない。もう、ナギサが傷つかなくて済む世界。俺はそんな世界を求めてたはずだ。


「確かにそんなままじゃ嫌だ! だけど、あんたの言うことが本当に正しいのか分からない!」

「正しいさ! 争いの無い世界……それはお前の望んでいた世界じゃないのか? 統一国家、人々は世界の一部分となって生き続ける!」

「そんなこと……そんなことを押しつけるのはエゴイストの言うことだ!」

「なら、お前は押しつけることなく争いの無い世界を創り出すことができるのか? いい加減、甘ちゃんから大人になれよ!」


 鍔迫り合いをしていた二機が再び距離を置き、睨み合う。そんな中、オリンストに向かって行く、一機のアヌヴィスがいたが、クシャトリアのユウに制止された。


「手出しはいらない。これは俺とショウの話し合いだ……。ショウ、お前も来ないか? 俺たちと世界を変えよう。そしたら、もう戦争で傷つく者もいなくなる」

「だけど……俺は……」

「ショウ……私」

「大丈夫だよ。だけど、もう少しだけ待っていてくれ」

「は、はい……」

「答えは!?」


 ユウは叫んだ。


「それって、裏切るってことですよね? 俺はそんなに冷たい人間じゃない」

「未来まで壊す気か、お前は!」

「だからって……だからって!」

「今の世界を見ろ! それが正しい物の見方だ! こんなにも薄汚れた世界を変えるためには、大切なものを失わなければいけない!」


 ショウの精神状態は限界まで達していた。ショウの目指す世界とユウの目指す世界は限りなく同じだ。しかし、それを実現するためには大切なもの、即ち今まで戦ってきた戦友の想いを裏切ることとなる。誓ったはずだ、みんなを守ると……。


「あんたが……あんたが裏切るからぁッ!」


 ショウは絶叫した。オリンストはクシャトリアに向かって突貫する。

「お前は世界を裏切るのか! ふざけるなッ!」

「あんたこそ……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 クシャトリアはそれを回避して、オリンストに向かってアンカーを一基放った。しかし、それはオリンストの右腕に掴まれて、握りつぶされた。つぶされたアンカーの残骸は虚空に散ってゆく。


「うあぁぁぁぁぁぁぁッ! あんたがいけないんだ! 死んでも知らないぞ! それはあんたの責任だ! 俺は……俺は悪くなんかない!」

「お前は俺の言っていることが聞けないのかよ! この世界のままじゃいけない! 戦争でお前みたいな子供が傷つくような世界のままじゃいけない!」

「でも……俺は……。あぁぁぁっぁッ!」


 オリンストはラグナブレードを発生させて構えた。クシャトリアは背中に装備しているミサイルランチャーをの蓋を開き、そこから無数のミサイルを放った。オリンストはそれを見切り、バーニアを吹かして美しき弾道を描くクシャトリアのミサイルを巧みに回避する。そして、オリンストは再び、クシャトリアに向かって突貫した。


「やめろっぉぉぉぉぉッ!」

「俺の前から消えろ、俺を惑わすな、苦しませるなぁぁぁぁぁぁ!」

「俺は……世界を変えるんだ! 俺の邪魔をするな、ショウ・テンナッ!」

「あんたがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! 殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる……殺してやる、殺してやる、殺してやらぁぁぁぁぁぁぁッ! もうやめろよ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 オリンストはラグナブレードをクシャトリアに突き立てる。そのまま突貫してきたオリンストに対し、クシャトリアは満足な回避行動を取れない。そして、ラグナブレードの銀色はクシャトリアのコックピットを貫く。その刻に響く、雷鳴に似たその轟音と輝きは辺りに拡大する。


「バカな……俺は世界を変えるために生まれてきたんだ。なのに……これが俺か? あぁぁ、血が……血が止まらない。俺は世界を……世界を変えてやるんだよぉぉぉッ!」


 ユウの腹にはラグナブレードの刃先が斜めに入っており、そこから鮮血が流れ出している。その光景は到底、ユウの受け入れられるものではなかった。ただ、自分の妄想に逃げていた、彼は。そして、横半分に切り裂かれた自らの体を見て、自らの死を確信する。

 彼が恐怖のあまり絶叫した途端、彼を横半分に分けていたラグナブレードが抜けて、そこから鮮血が勢いよく噴出した。ユウはそれを視覚ではなく、嗅覚で感じ取った。目は白目を向いているからだ。鉄分の匂いを感じ取った時には既に彼の意識は消えていた。


「あぁぁ……ひぎぃッ! ひくひく……」


 意識が無くなったユウは鮮血に塗れたシートに崩れる。指先がまだ、切って間もない頃のトカゲの尻尾のようにフリフリと怪しく踊っていた。

 結局、彼は世界を変えることなどできはしなかったのだ。


「はははははは……ざまぁみろ、ざまぁみろ、ざまぁみろぉぉぉッ! ひひひ、ひひひ、ひひひひひ……」


 正気を失ったショウは虚空に向かい、ケラケラ笑う。パイロットが死んでしまったクシャトリアは雪山に堕ちる。周りのアヌヴィスも撤退していったようだ。そこには鮮血に染まったラグナブレードを持ったオリンストが、首を落として力無く、そこにいる。


 俺は……さっきまで笑って話していた人を殺してしまった。裏切ったのかな? でも、裏切れない……のか?

【次回予告】

 コロスシカミチハナカッタ、のか?

 ソウシナケレバシンデイタ、のか?

 ナギサヲマモルタメダッタ、のか?

 迷う少年・惑う少女……。

 次回【Chapter/33 ロスト・アゲイン】

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