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【Chapter/3 飛翔とソラ】その1

 ショウはダブリス級の艦内の廊下で一人壁にもたれている。シュウスケは見失った。この近くにいるのはショウだけだ。人の気配も無い。

 爆発音がしていたが、もう止んだ。

 ショウは自分の手のひらにはよく分からない《模様》があることに気がついた。しかし、その模様は半分に切れていた。ショウにはもう一方の模様が何処にあるのかが分かる。艦橋だ。

 おそらくそこにナギサがいる。しかし、ショウは迷っていた。


 戦うのが怖いのだろうか? 結局はそうだ。


 勇気が無いのか? それはノーだ。


 なにが怖いのか? 人を殺すのが……なわけない。死ぬのが。


 何故、アスカは怖くなかったのだろう。自分を助けた時にはもう死を覚悟していたのだろうか? そうだとしたら、死んでまで自分を助けたのだろう? 

簡単に死ぬと言ってた。だけど、いざ死のうと思っても死に切れない。何故、怖いのだろう? そう考えると命を捨ててまで弟を助けるアスカの気持ちがますます分からなくなっていく。

分からない事だらけだ。


 でも、これでいいのかもしれない。死ぬのが怖くていいのかもしれない。


 ショウは決めた。ダブリス級に乗って戦うことを。

死ぬのが怖いから戦う。今はこれでいいのかもしれない。

 まだ、アスカの気持ちは分からないけれど……そのうち分かる。その日まで生きて生きて生きてやろうと。

ショウは拳を握り締め、艦橋に向かい走った。




「とりあえず敵からは逃げられましたね。後は宇宙空間に出るだけですね」


 新米のオペレーターがそう言うがヘーデの顔つきはまだ硬い。いや、さっきより、増して硬くなっている。


「ハメられた……敵の罠にひっかかったようだ」

「へ?」


 ヘーデの言葉に新米のオペレーターは気の抜けた声で叫んだ。


「敵、上空に七隻。いずれもグリムゾン級と思われます」

 リョウはいつも通りの声で言った。しかし、内心は焦っている。

「っ!」


 ヘーデは舌打ちをした後、飲みさしのブラックコーヒーを置き、立ち上がった。


「Aフィールド展開用意! 進路はそのまま、敵の追撃に備えよ!」


 ヘーデの首筋から一筋の汗が流れた。

 ダブリス級は一旦、宇宙空間に出た後、敵のグリムゾン級の真下を通常の二倍の速さで通る。ダブリス級の近くのグリムゾン級、三隻は砲門を開き射撃体勢に入る。そして、ダブリス級が三隻の射程に入ったところで一斉射撃をしてきた。目分量で二十発ほどのミサイルの《大群》だ。

 ミサイルのほとんどはダブリス級の緊急旋回で外れたものの二発ほどがダブリス級の右舷に炸裂し爆発。被害こそ小さいものの、もう一発そこに当たれば致命傷になりかねない所だった。


「Aフィールド展開! 船の速度をできるだけ速く! 右舷には弾幕を張れ! 整備班、船の損傷状況を!」


 ダブリス級の周りを緑色の半透明の球体が覆う。Aフィールドだ。

 しかし、敵からの攻撃は止まない。逃げるダブリス級を追い続けている。それはまるでハンターと獲物の関係であった。


「私が……私がいけなかったんです! 私があんな所でオリンストと融合しなければ良かったんです!」


 ナギサはうつむき、叫んだ。それを見たヘーデは言った。


「そうかもしれないな……いや、そうだ。だが、君がここでなにを言おうとも過去は変えられない。現在進行形を見ろ!」

「……」

「鍵穴だけではどうしょうもない。だが……」

「俺、戦います!」


 艦橋に入ってきたのはショウだ。ショウの瞳にはまだ中途半端な決意しかなかった。しかし、生きるという決意は強い。


 死ぬのが怖い。だから戦う。


「鍵があれば話は別だ。行ってやれ、ショウのところへ」


 ヘーデはナギサに微笑みかけた。

 ナギサはショウの前に向かっていった。


「俺……まだ、兄貴がなんで俺のことを助けたのかが分からないんだ。だから、探そうと思う。戦っていく中で分かるかもしれない」

「すみません……私がいなければこんな事には……」

「ナギサさんのせいじゃない。あいつらが……あいつらのせいで兄貴は死んだんです! だから、今はあいつらをぶっ飛ばす事しか頭にありません。さぁ、手を出して……」

「はい!」


 ナギサの曇っていた表情が晴れ、左手を前に出した。その手の平には模様の半分がある。

 それにショウも右手を重ねた。今度は優しく。

 そして叫ぶ。


「こい! 白銀のオリンストォォォォォ!」


 ショウが叫ぶと二人の姿は艦橋から消えた。




 突然、眩い光を浴びて灰色の巨人がダブリス級の前に姿を現した。巨人は灰色のボディーに黒いラインがはいっており、手と足は細い。頭部にある二つの瞳は緑色に輝いている。

 ショウはオリンストコックピットらしき所にいた。ナギサが最初に乗っていた時とは違い、全方面のモニターがあり操縦桿は右左に一本ずつあるだけだ。機械の操縦に必要な機械類は一切無い。

 操縦桿を持った途端、ショウの頭の中には不思議なものが思い浮かんだ。一つの白い光から見える一人の少女。衣を纏わず黒髪をなびかせ立っている。しかし、その光は徐々に強くなりショウの体を包み込んでゆく。

 その時、ショウはその黒髪の少女はショウを見た。そして少女の手はするりとショウの胸に入り込む。しかし、違和感は無い。


 その少女はナギサだった。


 ナギサはショウの顔を見て微笑んだ。


「一緒にいこ……」


 ショウが気がついた時には敵の前衛のグリムゾン級三隻は一斉にミサイルを撃ってくる。ミサイルたちは煙の糸を引いてオリンストに向かっていく。

ナギサが話しかけてきた。


「ホーミングレーザーを使って!」


 ショウは頭の中で「ホーミングレーザー……ホーミングレーザー」と復唱した。そして、ショウの意識はオリンストの方にいった。

体中が冷たい。これがオリンスト……。


「これでも……」


 オリンストの胸部が開き青色の無数のレーザーが放たれる。レーザーはミサイルに次々と当たり膨張し爆発する。


「くらぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 ショウは張り裂けるような叫んだ。オリンストの胸部がまた開き大きな光を放った。その大きさは粒子砲の約二倍の大きさだ。

 その光に飲み込まれた一隻のグリムゾン級の船体が内部から膨張していき灰色の煙を出し爆発した。

 その煙がオリンストの姿を覆い隠す。煙が消えた途端、一隻のグリムゾン級の艦橋の前にオリンストの頭部が見えた。

 オリンストの鋭い眼孔にそのグリムゾン級のクルーたちは恐怖し、口が開かない。戦場で今までこのような光景があったであろうか?


「お前たちがぁ……お前たちがこんなことしなければ、死ぬことは無かったのにぃ!」

 ショウが叫ぶとオリンストの左手が光り出し、長いビームの剣となる。その剣をオリンストは前方のグリムゾン級に向かって振りかざした。

 前後ろに真っ二つにされたグリムゾン級は鈍い音を出し爆発。


「残り五隻……ッ!」

「ショウさん! 前!」


 ショウの意識の中に再びナギサが現れた。その時、後衛の四隻のグリムゾン級が一斉に粒子砲を撃ってくる。


「Aフィールドを展開して!」

「え、ああ。Aフィールド展開!」


 オリンストは右手を前にもっていき、その周りに円形のAフィールドを張り四隻分の粒子砲を弾いた。


「後方からミサイル多数きます!」

「わかった!」


 前衛のグリムゾン級から数十本のミサイルが上方のオリンストに向かって発射される。オリンストは煙の糸を引くミサイルに突っ込んでいく。


「見える!」


 オリンストはそのミサイルをすべてAフィールドで防ぎ、グリムゾン級に向かい、光の剣で切りかかる。


「死んだって……死んだって知らないんだからなぁッ!」


 そうだ、こいつらは自分たちを殺そうとしているんだ。だから、殺しても構わないんだ。生き残るには……。


 艦橋から真っ二つにされたグリムゾン級は爆発。乗員の命は散った。

 残りの後衛の四隻は敗北を確信したのか、徐々に後退していく。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 興奮したショウの目は真っ赤になっている。


「勝った……」


 ショウは呟いた。気がつけばナギサの手が入っている感覚も無い。

 ただ、戦場にはオリンストとダブリス級、そして……。


 三隻のグリムゾン級の残骸が残っていた。

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