【Chapter/32 変革する世界の中で】その1
世界は何を望んでいるのか? 変革か? この争いが連鎖するこの世界に皆、うんざりしているのだろう。だったら、世界を変えてやる。それが俺の目指す道だ……。そう信じているから。
「シベリア基地からの入電です! ここからおよそ百キロ先に敵艦隊が確認されました」
リョウは言った。一週間、航行を行っていないダブリス級の艦橋内は騒然とした。ヘーデは舌を打ち、ダブリス級を戦闘体勢にする。
「朝っぱらから敵……か」
ヘーデはうんざりしている。それを見たサユリは隣で寝ているシュウスケをハリセンで叩き起こした。何のことか分からないシュウスケの目は点になっている。
「敵よ! 起きなさい!」
「はにゃ……! 敵? マジかよッ!」
戦闘体勢に移行するようだ。忙しそうに動き回る兵士たちを見て、ショウはそう悟った。ナギサも不安げにそれを見つめている。ダブリス級の艦内には警報音が鳴り響いている。普段はここでオリンストを出すはずだ。
「ショウ! オリンストを出してください!」
「……もう呼べない。この結晶石がそれを物語っている」
ショウはポケットに入っていた結晶石をナギサに見せてそう言った。
「これは……?」
「オリンストの結晶石だよ。こいつが教えてくれるんだ……これをナギサが触れたら、もうナギサはオリンストのコアであることをやめられないって」
「そ……そんなこと!」
「俺はナギサの傷つくところを、もう見たくないんだ! あの時だって、俺がこの結晶石を取り出さなかったら、ナギサは死んでいた! でも、これをナギサが触れれば、完全にオリンストはナギサの体の溶け込んでしまう。もう取り出せなくなっちゃうんだよ!」
それを聞いたナギサは少し、うつむいて口を閉じる。
もう、戦いたくない。これがラストチャンスだ。ここで戦うことを選んでしまったならば、ナギサは一生、戦い続けることになるだろう。世界を変える? バカいうなよ。俺はナギサが傷ついてまで……。
「私……覚悟はあります! 戦います! もう、逃げられないのは分かっています。でも、私は人が傷つくところを見過ごせるほど、頭の良い女の子ではありません!」
「……もう、後戻りはできない」
「だけど、私は決めたんです! もう一人の私に会って、決着をつけるって。多分、もう一人の私のほうも苦しんでいるんだと思います。だから……今、ここで逃げ出したら、私は一生後悔するでしょう」
「後悔……か。分かった、ナギサ。ナギサがもう逃げないって言うなら俺ももう逃げない! 覚悟はある。一生、ついて行ってやるよ」
「ありがとうございます……」
そう言うとナギサは手のひらをショウの方へ向けた。ショウも手のひらをナギサの方へ向けた。そして、重なり合う二人の手。
「こい! 白銀のオリンストォォォォォォッ!」
ショウは思いっきり叫んだ。
もう、逃げられないのは分かっている。だから、俺はナギサを守る。それが俺の目指す道だ! ユウさん……ッ!
「久々だな……オリンストのコックピット……」
「少し変わりましたね、オリンストの形が」
ダブリス級の目の前に現れたオリンスト。灰色のボディーに黒いラインがはいっており、手と足は細い。頭部にある二つの瞳は緑色に輝いている。肩は少し広くなっており、背中には鋭い重殻で覆われた大きなバーニアが二つ、追加されていた。頭部のシルエットもより鋭くなっており、脚部の付け根にもバーニアが二つ追加。両腕には甲殻類を髣髴とさせるような、盾が装備されていた。
「強くなった……のか? でも……」
「まだ不完全であって、左右のバーニアの出力が違いすぎます! こんなんで戦えっていうのですか!」
「そんなこと……気にしてたら落とされるよ!」
「そう……ですね。敵、来ます!」
オリンストの前方に三つの機影が見えた。それは量産型アテナのアヌヴィスだ。そのボディーカラーは青を基調としており、赤いラインが引かれている。右手には39ミリマシンガンを装備し、左手には直径三十メートルの円形の盾を装備していた。
「これって、量産型かよ!」
「ダブリス級とヴァルキリー級がこちらを離脱するまで、敵を引き付けてください!」
「ま、三対一は経験済みだけどッ!」
アヌヴィスは一斉にマシンガンをオリンストに向けて撃ち鳴らした。しかし、オリンストはそれを全て回避。一機のアヌヴィスの後方に回り込んで、光の剣を発生させる。
「コックピットは……胸部だろ!」
オリンストの右手にある光の剣がアヌヴィスの持っているマシンガンを真っ二つに切り裂く。それと同時にアヌヴィスの頭部をオリンストは左手で押さえる。そして、そこから光の剣を発生させて頭部を貫く。
刹那、真下に気配を感じる。オリンストは中破したアヌヴィスを蹴り飛ばして、真下にいるアヌヴィスにバーニアを吹かして、切りかかる。
「出てこなければ……こんなことには!」
オリンストはアヌヴィスを頭部から一刀両断した。バーニアの出力の調整が難しく、コックピットを外し狙えば、外れる可能性があったからだ。それを見た、残りの一機がオリンストに向かって突貫してくる。そして、アヌヴィスは右手の平からビームブレイドを発生させる。
「無駄なことはするなよッ! 死ぬだけってことが何故分からないんだ!」
オリンストは体勢を低くすることで、アヌヴィスのビームブレイドをかわし、光の剣で両足を切り裂く。次にこちらを向いてきたアヌヴィスに対し、オリンストは右手で頭部を掴み、引きちぎった。そして、オリンストは向かってくる左手をキックで跳ね飛ばして、縦に一回転する。最期に、オリンストは真下から光の剣でアヌヴィスの右手に切りつける。宙に舞う、アヌヴィスの右手。
これで三機とも戦闘不能だ……。
「ふぅ……」
「敵、増援です! 数は……さっきのが十五機! 戦艦が二隻です!」
二隻の戦艦はベリクス級だ。結晶石を埋め込んでおり、アヌヴィスの輸送用の戦艦だ。しかし、武装のちゃんとしており両サイドには巨大な粒子砲が一基ずつある。その大きさはダブリス級の約三倍だ。
「まだ、いるのかよ! しかも! ラグナ・ブレード!」
オリンストは眼前に広がる大隊に向けてラグナブレードを構える。