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【Chapter/31 永久の平和は何処にある?】その2

 私は……死んでなかったのですね。あの時……私は?


 目が覚めた時、ナギサの目の前には医務室の真っ白な天井が見えた。右脇腹にナギサは痛みを感じた。手探りでそこを触ってみると激痛する。そして、包帯の感触がナギサに伝わった。


 あんなにも痛かったのに今は大分、マシになっている……。何で私は死ななかったの? もう死んでも良かったのに。もし、このまま私が死んでいたら、もう一人の私は喜ぶだろうか? 多分、喜ぶでしょう。死んだ方がマシってこういうことなのですね。


 ナギサは窓の外を眺めた。北方の吹雪で雪山の風景が全く見えないのが残念ではあったものの、ナギサは安心する。手も普通に動く、足も感覚がある。目はちゃんと光を感じ取れる。しかし、ナギサは違和感を感じていた。


 あるはずの《何か》が今は無い……。


 ナギサが窓の外を眺めている時、艦内に「本艦はまもなくシベリア基地に到着します。多少の揺れが……」とアナウンスが聞こえた。いったい、何日間眠っていたのだろうかと、ナギサは自分自身に呆れてしまう。


「暖かい……私の手ってこんなに暖かかったんだ」


 ナギサは自分の右手を見て、そっと呟く。暖かみがあるってことは生きている証拠だ。逆に言えば死んでいないということでもあるが。しかし、素直に喜べない自分がナギサの中にはいた。


 まだ……苦しまないといけないの?


 これは一種の拷問ではないだろうか? そうナギサには感じられもしたが、やはり生きていたほうが良いと五秒後、感じた。死ぬということは自分自身の意識が無くなることだ。それがどれほど怖いことか、ナギサは分かっていた。自分自身の意識が消えてしまうことだ、永遠に。


「爪……伸びました。切らないと……」


 ナギサは自分の伸びた爪を見ながら、そう悟った。




「シベリア基地か……寒そうだな」


 ショウはシベリア基地を目の前にしてそう言った。そこは一面真っ白な雪に覆われており、とても基地とは思えないような所であった。地面に足がめり込みそうなぐらい雪が積もっている。廃墟と言われても疑うことはまず、無いであろう。隣のサユリもそれに共感して「うん……寒いわね」とだけ言った。


「しかし……クシャトリアのパイロット、かなりの切れ者らしいですが……」

「リョウさんも心配することあるんですねー」


 サユリはリョウに皮肉を言った。あの時から二人は犬猿の仲となっているのだ。まぁ、ショウにとっては何ら関わりを持たないということにしているが……。サユリの口喧嘩に介入すると火傷をするっということを知っているからだ。


「ヘーデさん……俺、なんだかナギサのことが心配になってきました」


 ショウは右隣にいるヘーデに話しかけた。ショウはナギサが目覚めたことをまだ知らない。なので、心配するのも無理がない。しかし、今は仕事中(名義上)なのでサボるわけにもいかない。


「これが終わればな……来たようだな」


 遠くの方に一人の青年が見えた。金髪のオールバックの髪型で、自信ありげにショウに話しかけてきた。少し、怯むショウ。


「お前がオリンストのコアか? 間抜けなツラだな……」

「な、なんだと……」

「気も弱そうだし、もしかして童貞かよ?」

「わ、悪いか!」

「いいえ、いいえ。ま、資料で大体のことは知っているがな。今日から俺がお前の先輩だ」

「先輩って……」

「一歳年上だ。俺の名前はユウ・ヴェリスンだ。よろしく、童貞クン」

「あんたは……どうなんだよ?」

「言えないさ……」


 その答えにショウはホッ(?)とする。ムッとするサユリ。しらけるリョウ。三人称で眺めるヘーデ。


「俺はショウ・テンナ、白銀のオリンストのコア……専属パイロットだ」

「分かっているさ。お前の戦い方を見ていたが……イエスだね」

「どう致しまして……チェリー先輩」

「ま、それが無ければ、ただの馬鹿だがな」

「なんだよ……先輩だからって」


 ショウはそう呟いた。ユウに聞こえないように……。


「聞こえているぞ。そういうことは、はっきり言ってくれたほうがいいんだがな」

「あ、あ……いえ……」

「さて、こっちはクシャトリアを見てくるからな。また……語り合おうか」


 そう言うとユウはハンガーの方へ去っていった。




 私……行かなくちゃ。


 ナギサはベットから立ち上がり医務室を出た。右脇腹を手で押さえているナギサ。しかし、止まろうとはしない。その額から汗が流れても気にせず、その瞳の見つめる先に向かって壁にもたれながら、一歩一歩足を前に出している。早くショウに会わないと、という感情があったからだ。


「ナ……ギサ? おい!」

「ショウ……先輩」


 それを見たショウがナギサに駆け寄ると同時に、ナギサは立っていた足を崩して床に倒れこんだ。それは辛くなったからではなく、安心して力が入らなくなったからである。ショウはナギサの体を抱き起こして言った。


「無理……するなよ。でも、よかったよナギサが目覚めてくれてさ」

「ショウ先輩、心配しているかなーって思いまして」

「ありがとう……。で、大丈夫か?」

「ちょっと、キツイです」

「……戻るよ。ほら、背中に乗って」

「はい……すみません」


 ショウはナギサをおんぶして、医務室まで戻った。心配だったのだろう……。ショウを早く安心させたかった故の行動だ。それもショウは分かっていた。ナギサはショウに抱きかかえられて医務室のベットの上に寝かせられた。そっと、優しく。ナギサは一息つくと俯いてだんまりとした。


「ナギサ?」

「私……生きていて良かったです」


 ナギサは瞳から大粒の涙を流し始める。その涙はベットの布団を濡らす。ナギサは涙を堪えようと、ギュッと布団の端を両手で握り締める。しかし、止まりそうもない、更に量が増すだけだ。


「……私、いったいどんな存在なのでしょう? 怖いです……」

「言ったろ? ナギサはここにしかいない。だけど、怖いのも分かる。だから、泣けばいいさ。泣けば……さ」

「声、聞いたときに感じたのです……もう、私はマトモじゃないって」

「俺が守って……やれるかどうかは分からない。俺はそんなことを言えるような人間じゃない。だけど、できる限り、ナギサを守る。それが死ぬことだったら、俺が死んでやるさ」

「え……!?」


 ショウはナギサを抱き寄せた。突然のことに戸惑うナギサだが、嫌ではなかった。もう、そんなこと、思っていないからだ。ショウはギュッとは抱きしめられないから、できる限り優しく包み込むように抱いた。ナギサも自然と両手がショウの背中に伸びていく。そして、向かい合う二人の瞳。


 支えてくれるんですか、ショウ先輩? 嫌い……なはずなのに、なんでだろう? 不思議と優しく包みこめれているような感じがする。オリンストに振り回されていた時のショウ先輩じゃない。


「ショウ先輩……って呼んでもいいですか?」

「ああ、いいさ。先輩って呼ばれても、あんまりピンとこないから」

「ありがとう……ショウ」


 ナギサは優しく微笑みかけた。ショウもそれを返す。窓の外の空は灰色が薄くなり、所々にある隙間から光が射していた。その光は確かに暖かい。

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