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【Chapter/29 アスナ】その3

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


◆親愛なる奴隷、ソウスケへ


 まず最初にこの手紙を読んでいる時、私は死んでいるでしょう。まぁ、死んでいないほうが不思議でしょうけど……。この手紙では丁寧語で書いていますがソウスケを前にしてしまうと緊張して、タメ口で話してしまいます。あなたを前にすると、私の頭の何処かがおかしくなる。


 今日、ソウスケは優しくキスをしてくれました。二回も……そして、優しく抱いてくれました。正直、そういうのにはなれていないんです。だから、初めてがソウスケでよかった。別にサービスなんかではなくて、素直にソウスケと一つになりたかった。ほんの十分間の出来事でしたけど……私には一分に感じられました。


 私は両親に売られました。だから、大人は信用してません。汚い物だと思っています。みんな汚いやつらばかり……吐き気がする。始めはソウスケも汚い大人なんだろうなぁーと思っていました。だから、見下したような態度であなたに接してたのです。


 でも、あなたは私に優しかった。戦って傷つく私を必死に支えてくれました。どんな時も……。でも、私は態度を変えませんでした。それは急に態度を変えてしまえば、私があなたのことを好きだって気づかれてしまうからです。勿論、あなたに……。だから、いつまでも奴隷扱いしてたのです。


 だけど、あなたは私があなたのことを奴隷だって言ったら、笑って了承してくれました。ですから、この戦争で生き残ったらいつまでも、私の奴隷でいてほしかったです。まぁ、死んでいるから別なんですけど。


 私が死んでいるということは、もうあなたに想いを伝えられないということです。ですから、ここで想いを告げたいと思います。直接じゃあ、言えませんから。多分、「べ、別になんでもないわよ!」とか言って、あいまいに濁すだけです……。だから、ここで言わせてください。






 あなたが大好きです。






 伝えたいことはこれだけ。さ、早く閉じてください。恥ずかしくなっちゃいます……。でも、私のことは忘れないでください。絶対に……。


P・S もし生き残ったら、この髪型、変えたいと思いました。ツインテールより、何も付けずにロングヘアーのままでいたほうが、ソウスケに喜ばれるかなーって妄想しちゃってマス。その時は私を思いっきり褒めてくださいね。いつか……おねがい♪


◆あなたのご主人様、アスナより


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○




「敵艦隊、こちらに向かってきます……」


 サヴァイヴ級のオペレーターの一人が不安げにそう言った。ソウスケは涙を拭き、目の前を見た。私情で悲しんでいてはダメだと思ったのだ。しかし、悲しみは尚もソウスケを襲ってくる。親しかったもの、いや愛していたものの死はソウスケの胸に刺さっているのだ。


「イフリート、信号、途絶えました。敵は……」

「投降……しろ。僕たちに勝ち目は無い……すまない」


 ソウスケがそう呟いた時、艦橋は安堵の空気に包まれた。これまで生死の境をさまよっているのと、たいして変わらない状況であった皆にとっては《投降》という二文字はある種の痛み止めである。それも痛み止めであって、不安が含まれたものであった。


「分かり……ました」

「僕は……艦長失格だ……アスナ……僕はどうすればいい?」


 ソウスケはもう存在しないものに対して疑問を問いかけた。しかし、返事は返ってこない。彼女はもうどこにもいないのだ。


 もう何も残っていない。




「どうやら……敵も諦めたようだな。長い戦いだった」


 ヘーデは一息つくと飲みさしの缶コーヒーを飲んだ。ブラックなので苦さしか残らない。まるで今回の戦いのように……。


「オリンストは?」

「ポイントα―12―67にて反応が消えました。おそらく……」


 リョウは申し訳なさそうにサユリの方を見た。


「そんなッ! ショウは? ナギサちゃんは?」

「……この寒さだと……もう……」

「ねぇ! 生きてる可能性は? 死んでいない可能性は? あるの!」

「ほぼ……ゼロです」


 リョウがそう言うとシュウスケは立ち上がり、サユリに近寄った。


「生きているかもしれない。ショウのトランシーバーが繋がるって事は生きている可能性はある」

「そ、そんな……でも!」

「気を失っているだけかもしれない。断定はできない……がな」


 その可能性も数学的にはけっして高いとは言い切れなかったのだが。




「ナギサちゃん……大丈夫かな」


 ミウは戦闘が終わり、緊張が解けたのか顔を俯ける。


「大丈夫だよッ! ナギサちゃんは生きてるよー。可愛いから!」

「ミウさん……私もエミルと同じです。二人は生きていますよ。絶対に」

「ありがとう……みんな」




 いったいどのぐらい気を失っていたのかな?


 吹雪は止み、曇り空は段々開けていった。氷の上はひんやりするが凍死するというほどではない。これもまた、オリンストの力であろうか? ショウは目が覚めると隣を見た。


「ナギサッ!」


 ショウは走った。隣に倒れているナギサに向かって。右脇腹からは大量の出血をしている。ナギサの服は鮮血に染まり、その周辺の氷も鮮血に染まりきっていた。ショウが駆け寄るとナギサは静かに口を開いた。


「ショウ……先輩、私、大丈夫ですか?」

「待ってろ! すぐに手当てを!」

「分かっています……私がもう死ぬって事は。だから、無理しないでくださいよ、ショウ先輩。こんなに血が出ていてはもう助かりませんよ」

「そんな……ナギサッ!」

「私……色々なことで苦しんでいました……だから、もう……楽にさせてください。たとえイレギュラーな存在であっても死ぬときは普通ですしね」


 ナギサは必死に手当てをしようとするショウに優しく笑いかけた。あの時、イフリートの突貫が原因であろう。出血は止まらず、遂に血管が切れたのであろうか鮮血が噴出した。ショウは尚も血だらけの腕でナギサを助けようとした。


「私……なんやかんや言ってショウ先輩のこと、信頼してました。でも、一つ、心残りがあります。それはこの世界でまだ泣いている人たちがいることです。戦争に巻き込まれて死んでいく人たち……だから約束して……」




―――世界を……変えて―――




 そう言うとナギサの腕はショウから離れ、地に落ちた。徐々に薄れていく意識。ナギサの顔は笑っていた。


 これで……何もかも楽になる。もう苦しまなくてすむ。




「でもあなたは死なせない、私が死ぬからネ」

「へ?」




―――Tо Be Next Seasоn―――

【次回予告】

 そして、動き始める黒い覇道。

 壊れ始める世界。

 世界はマナに導かれるのか?

 それとも……。

 次回【Chapter/30 黒い覇道≠破滅のシ者】

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