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【Chapter/29 アスナ】その2

 オリンストは右腕を振り上げてイフリートに突貫する。イフリートはそれを受け止めて弾き返す。イフリートが胸部の粒子砲を光らせると、オリンストはその射線上から離れた。そして、放たれた粒子砲。粒子砲はオリンストには当たらなかった。しかし、反対側にあるシールドに当たり、反射する。反射した粒子砲は後方からオリンストに向かってきた。


「こういう使い方もあるのよ!」

「あぁッ!」


 それはオリンストの背中に直撃。オリンストの背中の装甲板は溶解し、内部が見え隠れしている。そして、イフリートは怯んだオリンストを蹴り飛ばす。オリンストは雪山を滑り落ちて、凍った湖の上に倒れこむ。凍った湖はオリンストの重量によって崩れる。オリンストはバーニアを吹かして落ちるのを防ぐが、そこにイフリートが突貫してくる。


 俺は戦うって決めたんだ! でも……俺に十四、五歳の少女を殺すことができるのか? 言葉では言えても体が満足に動かない。殺せない……俺には殺せない! 何も彼女は悪いことをしていない。ただ、俺と同じように大切なものを守るために戦っている。俺には殺す権限があるはずだ。しかし、理屈では分かっていても、俺は……。


 オリンストは突然、動きを止めて受身の体勢に入った。


「ショウ先輩! どうしたのですか!」

「俺には……俺にはできない!」

「……ショウ先輩」

「俺は……そんなに賢い人間ではないんだ。口でそんなことを言っても、人殺しなんかできない。まして、顔を知って、話をして、戦う理由も知っているやつを……俺は殺せない!」


 オリンストに向かってイフリートは刀を振りかざした。オリンストはそれをAフィールドで弾き返す。


「がぁぁぁぁッ! はぁがぁぁぁぁぁッ! ぐぶぇぇぉえぇぇぇぇ!」


 アスナはコックピット内で大量の血を吐いた。コップ何杯分だろうか? これは臓器が溶けて口から出ているものだ。左腕からは血が上ってくるような感覚がした。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……ソウスケ……ソウスケッ!」


 イフリートはオリンストに向かって、両手を広げてバーニアをフルスロットルになるよう、全開させて突貫する。オリンストはそれをラグナブレードで受け止めた。二機のアテナは鍔迫り合いのまま、睨み合う。


「あんたが……あんたがいるから、ソウスケは苦しんでいるのよ! あんたがいるからみんな死んだのよ! クラウドさんも……クロノもッ! あんたが……あんたがみんな殺したの!」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 じゃあ、俺がみんな殺したっていうのか? じゃあ、兄貴や母さんはなんで死んだ? お前のせいだ……。お前がみんな殺したんだ! お前がいなければ、死ななかったかもしれない……。兄貴はあいつらに殺されたんだ。




―――お前は空を翔けろ……このでっかい宇宙を……―――




「お前が……お前さえいなければぁぁぁぁぁぁッ!」


 その時、ショウの中で何かが弾けた。怒りに任せて、彼は戦う。誰のせいでもない事を他人に押し付けなければ、戦うことができなかったのだ。


「こいつッ!」


 オリンストとイフリートは互いに距離を取り、再び突貫した。そしてぶつかり合う二機のアテナ。そして、離れる。そして、突貫。その繰り返しが延々と、続く。空には二機がぶつかった時の閃光と、二機の残像のみが浮かんでいる。螺旋状にぶつかり合う二機はやがて、一つの光になった。


「ちくしょぉぉぉぉッ!」

「こいつ! こいつ! こいつッ!」


 オリンストはラグナブレードを振りかざしてイフリートの左腕を吹き飛ばした。宙を舞う左腕。そこから緑色の粒子が漏れ出す。それと同時に、アスナは左腕に激痛を覚えた。段々、膨らんでいく。そして、左腕は弾け飛ぶ。


「あぁぁぁぁぁぁッ! よくも……よくもオッ!」


 コックピットにはアスナの弾け飛んだ左腕が転がっている。骨はその衝撃で粉々に砕け散っている。そして、アスナはもう一度、吐血をした後に目の前のオリンストを睨んだ。

 直後、オリンストの右手首はイフリートの刀によって切り落とされる。そして、もう一方の刀でオリンストの左足をぶっ飛ばす。


「はぁはぁはぁはぁ……お前が……お前がいるからッ!」

「あんたがいるからぁぁぁぁッ!」


 アスナの右目は弾けた。そして、左目も弾けた。しかし、敵がどこにいるかは分かる。イフリートが教えてくれるのだ。アスナは髪をくくっていたバンドを両方とも取り、右手の操縦桿を握りなおした。おろされた金髪は腰まである。


「俺は……殺したくなんかないのにぃぃぃぃぃぃッ!」

「ソウスケ……見てくれているよね? ソウスケ……言えなかったけど大好きだよ。だから……私はオリンストをッ!」


 オリンストは右手の白銀に輝くラグナブレードを構えて……。


 イフリートは右腕の紅蓮の刀を構えて……。


 そして、二機のアテナはぶつかり合った。オリンストのラグナブレードとイフリートの刀は共に、互いのコックピットを貫いた。


「ソウスケ……ごめんね。でも、嬉しかったよ……」


そして、アスナの体は……四散した。

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