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【Chapter/2 ペイン・バック】その3

「よかった……無事だった」


 ショウは自分のマンションの前に立って大きく背伸びをした。ダブリス級の艦内にいたときの閉塞間から開放されたショウの気分は絶不調から不調に変わっている。少しは楽になった……そんな感じだ。

 マンションは奇跡的に無傷でいつもの《ショウの家》だった。日差しを受けたその姿は実にたくましく見える。

 エレベーターを上がり自分の家に入る。

 そこはいつもとなにも変わっていなかった。なにひとつ……。


 両親もいない。仕事だ。


 兄もいない。死んだ。


 ふとショウは自分の部屋にある写真を見た。そこにはショウとアスカが仲良く二人で映っていた。ショウには何故、自分の部屋にこのようなものが置いてあるのかが分からない。嫌いだったはずなのに。

 ショウはその写真をポケットに入れ自分の家を出た。

 兄がいなくなった途端、ショウは目標を見失った。なので到底勉強する気になれない。




 サユリは父親に差し入れを持って行くこうとダブリスの艦内にいた。

 しかし、ダブリスの中は迷路のように入り組んでおり、中々艦橋にはたどりつけない。やっぱり地図は持っていくべきだとサユリは後悔した。

 足も疲れてきた。両手に持っている二段弁当がやけに重たく感じる。


「やっぱり……ついてナイわ」


 深くため息をし、サユリはダブリス級の艦内をさまよい続けた。





 ショウはマンションを出て近くの公園のベンチで空を眺めていた。昨日の騒動が嘘みたいな程綺麗な空。しかし、周りは瓦礫の山。

 この公園のシンボル的存在の大きな木は下の方を残し無残にも倒れていた。砂場は爆弾が当たったのか砂がほとんど無く、見えるのはヒビの入った底のコンクリートだけ。滑り台は滑る所が丸々無くなっていた。その近くにある鉄の破片はその残骸だろう。


「ショウ、どうしたんだ?」

「シュウスケ?」


 ショウの横に座ったのはシュウスケだった。その顔はいつもと変わらない。


「ここらへんの被害凄かったんだってな。千人以上が死んだんだって。お前の兄貴も死んだんだな」


 ショウは虚ろな目でそう言った。その半分はあの巨人によるものだ。

 自分のせいなのか?


「俺の妹も死んだよ」


 シュウスケの瞳に涙が滲んだ。

 シュウスケには三つ下の妹がいた。名前はリナ。母親はいず、父親が仕事で遅くなることが多かったのでシュウスケは妹の世話をしていた。ご飯を作ったり……洗濯をしたり……。妹からはかなり好かれていたとか。

 言うなれば自他共に認めるシスコンだった。


「空爆が来たとき俺は必死にリナの右手を繋ぎ逃げた。だけどよ……気づいたらリナは右手だけになっていた。途中で……ちぎれたんだよ。後で見たリナの亡骸はもはや人の形じゃなかっ……た。だけど顔だけは美少女だった。俺の知ってるリナだった。俺さぁ、守れなかったよ。自分の妹を……兄貴失格だ」


 ショウは黙って聞いていた。


「だけど……俺、そんな事思っていても仕方がないと思っている。俺、親父のいるダブリス級の中で働こうと思う! まだ、未熟だけど……土下座してでもそこで働かせてもらう。なにか俺にできないかと考えたときに……それしか思いつかなかったからさ」

「……」

「じゃあ、ダブリス級に行ってくる。またな」


 シュウスケはベンチから立ち上がった。


「……で、ダブリスの場所は?」

「あ〜そういうのは確認しておこうよ。まぁ俺が知ってるし、そこまで案内するよ」


 ショウには決断ができていなかった。ダブリスに戻るべきか。自分のせいでこんなにも人が死んでいて……自分が生きていて良いのか?

 殺されるべきではないのか?

 それとも他人から言われた通りに戦うべきなのか?

 どちらも待つのは死だ。




「おいショウ、あれはなんだ?」


 ショウたちがダブリス級のある軍事基地についた時、警報音が鳴り響いた。また、中枢帝国の攻撃なのか? おそらくそうだろう。


「とりあえずここが攻撃される! 遠くに逃げないと!」

「いやだ! 俺はダブリス級に乗る!」


 シュウスケはそう言うと走って格納庫に向かった。


「待てよ!」


 ショウもシュウスケについて行った。しかし、まだショウは決断ができていない。戦うべきか? 殺されるべきか?

 死んだほうがマシな人間なのかも知れない俺は……。

 ただ、ショウはシュウスケの背中を追った。




「お父さん! なんなのこれは?」


 やっとのことで艦橋に着いたサユリは鳴り響く警報音のわけをヘーデに聞いた。


「敵がきた。そんなことで驚いているのか?」

「普通は驚くわよ! 人が死ぬのよ!」

「とりあえず下がってろ。ここに来たわけは後で聞かせてもらう」

「分かったわよ。出て行けば良いんでしょっ!」

「そうだ」


 ヘーデはそう言うと前にあるモニターを見た。敵は三隻、いずれも重力圏仕様。この場合宇宙空間に逃げるのが得策だ。

 目的はこの艦のはず。ならば宇宙空間におびき寄せそこで撃つ。


「敵のミサイルに注意しながら緊急発進! 敵を宇宙空間におびき寄せる! ダブリス級、緊急発進!」


 ヘーデは号令をかけた。格納庫からまだ補給も十分に受けられていないダブリス級の姿が現れる。

ダブリス級は普通の駆逐艦より大きい全長三百五十メートル。各部にミサイルポッド、粒子砲など死角の無い造りになっている。特筆すべきなのが『Aフィールド』だ。展開には五分間の時間制限があるもののその間、遠距離からの砲撃は無効化される。AフィールドのAはイージスの盾からだ。まさに最強の盾と呼ぶにふさわしい鉄壁の盾だ。


「二時の方向にミサイル多数。どうします?」

「ササキ少尉。万が一の為にAフィールドは使わない。ミサイルで打ち落とせ。右舷、ミサイル……撃て!」


 ダブリス級の右舷から数十のミサイルが一斉に放たれる。ミサイルは煙の線を描き敵のミサイルに当たり爆発してゆく。


「後、万が一の為にミナトも用意しては?」


 リョウは言った。


「あの子は兵器ではない。それに『流麗のダブリス』の現時点での運用の必要性がない……」

「オリンストのコアはどうします?」

「彼はこの艦内にいる」

「それを何故、わかるのです? その発想はどこから?」


 リョウは理屈っぽく言うとヘーデは言い返した。


「フロム・マイ・勘だ」




「あ〜あ、お父さんに追い出されっちゃった……」


 サユリは艦橋の近くの廊下で壁にもたれながら携帯をいじってた。今日のニュースはあの巨人の事ばかりだ。


(あれ? なんでこんな所に小さな子供がいるのかな?)


 サユリの目の前には紺色の髪の毛のショートカット、背の高さから見るに十二歳ぐらいだろうか。ワンピースを着た少女がいた。


「きみ、迷子?」


 サユリは優しい声でその少女に喋りかけた。


「……違う」


 少女は無表情な顔でそう答えた。

【次回予告】

 殺される前に殺す。

 生きるために戦う。

 それが少年の戦う理由であった。

 そして、少年は白銀のオリンストの名を叫ぶ……。

 次回【Chapter/3 飛翔とソラ】

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