【Chapter/28 血戦】その2
「六時の方向からミサイルが来ます!」
「ホーミングレーザでッ!」
オリンストは胸部を開き向かってくるミサイル群をホーミングレーザーで撃ち落した。しかし、敵の砲撃は止まず、今度は前方から無数のミサイルがオリンストに向かって放たれる。
オリンストもホーミングレーザーで撃ち落そうとするものの、ミサイルは既にオリンストの懐に入っており、その半数はオリンストに命中した。よろめくオリンストに向けて雪山の向こうのサヴァイヴ級は狙いを定める。
「熱源……ッ! 粒子砲です!」
「どこから!」
「雪山の向こうです!」
「避けてみせるッ!」
そして、雪山を貫き放たれた粒子砲。それはオリンストの胸部を焼き焦がすが致命傷にはならなかった。
「ここかぁッ!」
雪山にぽっかりと開いた穴の向こうには一隻のサヴァイヴ級があった。オリンストは胸部をサヴァイヴ級に向けて粒子砲を放った。その光はサヴァイヴ級を艦橋からエンジン部まで貫く。
「もう一隻!」
オリンストは後方にいたグリムゾン級に突貫してくる。ミサイルを放ってくるグリムゾン級だが、ミサイルもオリンストのスピードにはついていけずに途中で爆発。その煙の中からオリンストの機影は見えた。
「こんなことするからッ!」
オリンストの両腕から光の件が発生してグリムゾン級の船体を切り刻む。グリムゾン級は爆音と共に吹雪の向こうに消えた。残骸となって……。
「グリムゾン級、沈みます!」
「くそッ! クラウド艦長のところ戻る! 一旦、体勢を整えないといけない」
ソウスケは焦っていた。しかし、後戻りはできない。作戦は失敗したかに見えた。だが、ソウスケには奥の手があった。そう、イフリートだ。これを使えば……勝てるかもしれない。
しかし……ッ!
「クラウド艦長!」
近くには敵艦隊と交戦中のクラウドのターミナス級があった。それを見たソウスケは急いで回線を開く。
「作戦は……失敗です」
「そうか、ならば逃げろ。逃げるんだ! お前だけでも生き残れ!」
「ですが、後方にも敵艦隊が! それにクラウド艦長はどうするのですか! 軍人だから死ぬのは怖くないって言うのですか!」
「そうだ……。突破口は私が開……」
その時、クラウドのターミナス級のエンジン部に敵の粒子砲が直撃した。回線からは爆発音が聞こえた。そして次の瞬間には回線から「航行不能! 予備電源も動きません! 艦長!」という声が聞こえるようになる。
「どうやら、私はここまでのようだ。ソウスケ、お前は生きろ。生きてこの戦争を止めろ……。私はこれまでいくつもの命を奪ってきた。何千もの命を……。これはその報いだ。私をこうさせたのも全てこの戦争のせいだ。だから、この戦争を止めさせろ。どんな手を使っても!」
「ですが……ッ! クラウド艦長! 応答してください! クラウド艦長! 航行不能になったとしても、まだ何か方法はあります! そうです、予備電源が使えないのならそれを……」
「無駄なあがきはせんよ……」
クラウドのターミナス級はダブリス級に特攻。ダブリス級はAフィールドを張るが、それをものともせずにターミナス級はダブリス級の横っ腹に突っ込み……。
「生きろ、ソウスケ。生きて、この憎しみの連鎖を断ち切れ」
「クラウド艦長! まだ……まだッ!」
自爆した。
ダブリス級はエンジン部と右側の砲門を全てやられた。しかし、まだ動ける。状況は……あまり変わらない。しかも、オリンストが戻ってくる。状況は最悪だ。
生き残れるのか……僕は。
「ソウスケ! 私、行くわ……。行ってソウスケを守るの」
ハンガーのモニターから聞こえてくる、その声はアスナだった。
「やめろ! お前は!」
「ソウスケを守りたいの! 分かってる! 私が死ぬのは! でも……私には守りたい人がいる! その人のためだったら死んでもいい! だから!」
ソウスケは選択を迫られていた。この艦の乗員を守るためにはアテナを出さなければならない。しかし、アテナを出せば大切な人が……。
死ぬ。
「もう遅いわ……。プラグ、つけちゃったから。外せば私、死んじゃうよ?」
「ぐ……紅蓮のイフリートを出せ! 出せよ! 早く!」
「は、はい! カタパルト、正常。イフリートとコアの同調率、九十七%を維持。ソリッド異常、百七。ギリギリ出せます!」と焦るオペレーターが言う。
「ありがと……ソウスケ。これでまた戦える。最後に……ソウスケのこと……大嫌いだから!」
「…………僕は好きだよ。大……好きだ!」
「奴隷のクセに……生意気なんだから」
アスナは笑ってみせた。そして、イフリートはカタパルトを滑り、発進する。ソウスケはその場で泣き崩れた。
こんなにも生き残ることって苦しいことなのですね……クラウド艦長。大切なものを失い続ける僕が死ぬことはあるのでしょうか? もしあるのでしたら、できるだけ早いほうがいいです。
そして吹雪の中、紅蓮が舞う。
【次回予告】
私はいつも笑っていた。幸せな日常。
それが普通だと思ってた。
だけど……私の思っていたように大人は綺麗ではなかったの。
でも、ソウスケは……。
次回【Chapter/29 アスナ】




