【Chapter/28 血戦】その1
現在、ダブリス級とヴァルキリー級はシベリア方面へと向かっている。辺りには吹雪が吹き荒れており、視界は極端に狭くなっている。つまりダブリス級とヴァルキリー級は必然的にレーダーに頼るしかないのだ。まだ、敵の熱源は感知されていないものの、いつ敵が襲ってきてもおかしくない状況だった。それ故に艦橋には緊張感が渦巻いている。皆、寝られるような精神状態ではないのだ。特に艦長のヘーデとミウに関しては……。
「十一時三十七分現在、レーダーに敵機影はありません」
「リョウ、休んでもいいんだぞ……サユリのように」
サユリはリョウの横ですぅすぅと眠っている。高校生には現場の緊張感は分からないようだ。
「彼女は正確には軍人ではありませんので……言うなればボランティアです。私は軍人。立場が違うのでは?」
「体、壊すなよ」
「あなたこそ……」
「確かにな」
ヘーデは少し笑った。艦橋の端っこではショウとナギサが寝ている。最近は二人とも部屋で寝ることは少なくなり、艦橋で寝ることが多くなってきている。
「寝るな! 寝るなシュウスケ・ササムラッ! 俺は男だ!」
シュウスケは必死に睡魔と戦っている。彼だけは意地でも寝ようとしない。そのせいで作業が全然、はかどっていない。
「寝てもいいですよ?」とリョウが甘い囁きを。
「うるせぇ! 俺はお、男なんだよ!」
「理解に苦しみます……一度寝て体力を回復させれば効率も上がるというのに」
「この乙女男が! 俺は……俺は男なんだよ! 俺は男だぁっ……すぅすぅ」
シュウスケは遂に力尽きて寝てしまった。呆れるリョウ。
「ったく……研修生だっていう自覚が彼には足りませんね」
「ま、いいじゃないか。まるで自分の若かった頃を見ているようだよ」
「そうですけど……ん? 敵です! 後方に敵戦艦が七隻!」
「くそッ! やはり来たか……全員! 持ち場につけ! 本艦はこれより戦闘体勢に移行する!」
ダブリス級の艦内に警報音が鳴った。ショウとナギサとサユリは起きてヘーデに戦況を聞いているがシュウスケは眠っている。見かねたショウはシュウスケを起こす。
「おい、敵だぞ!」
「はにゃ? え、敵?」
「そうだよ!」
「オリンストを出してくれ!」
「分かりました、ショウ先輩!」
ナギサはショウに駆け寄った。
「ああ、分かった! こい、白銀のオリンストッ!」
ダブリス級とヴァルキリー級の砲門は全て開いた。そして、二隻の前に現れるオリンスト。吹雪が吹き荒れているため視界が狭い。この場合、ショウはナギサに頼るしかないのだ。
「ナギサ、頼むよ……」
「はい、できる限りですが、頑張ってみます!」
「敵は?」
「前衛に五隻、後衛に大きいのを含む二隻です!」
「分かった!」
「待ってください! ダブリス級の後方に二十七隻! こちらを先に!」
「くそッ! こんなに……」
そう言うとオリンストはダブリス級の後方にたまっている二十七隻の戦艦に向かってバーニアを吹かし、向かっていった。
「クラウド艦長……」
「どうした? 不安か?」
「いえ……本当にあなたが囮になって良かったのかどうかと思いまして」
「気にするな。ターミナス級は私たちの艦隊の旗艦だ。敵もこちらに目がいくだろう。ま、君のわがままだ。私は君のわがままについていけて良かったと思っている」
「本当……ですね」
そう言うとソウスケはターミナス級との回線を切った。そして、前を向いた。ソウスケの乗るサヴァイヴ級の付近には大量のダミーのバルーンが浮いていた。ここのエリアにはサヴァイヴ級二隻とグリムゾン級一隻のみだ。二十七席というのはダミーバルーンの数を合わせたものだ。ダミーバルーンの中には爆弾がセットされており、こちらからの操作で爆発させられる。
「オリンストは?」
「こちらに向かっています。接触まで後三十秒です」
「そうか……これより作戦を開始する!」
ここまでは順調だ。後は視界の無くなったオリンストを三隻の戦艦で袋叩きにするまで。
「敵アテナ接近!」
「場所は?」
「ポイントα―17―9です!」
「十二番の爆弾と二十二番の爆弾を爆破しろ!」
「爆弾は……命中しました。現在、目標はポイントα―13―7を移動中」
「五番と十一番と二十一番と二十三番を爆破しろ!」
オリンストは敵艦隊を探していたが、吹雪のため、その機影は一隻も見えない。しかし、熱源はある。ダミーバルーンの……。
「くそッ! こんな吹雪じゃ前がろくに見えやしないじゃないか!」
「近くに熱源反応があります!」
「でも近くには戦艦なんて一隻も見当たらないぞ!」
「これは……離れてください! 爆弾です!」
「なんだってッ!」
しかし、オリンスト右側にあるダミーバルーンは爆発。続いて後方のダミーバルーンも爆発した。オリンストはこの場から離れようとしたが次の瞬間、またダミーバルーンが爆発した。それはオリンストの胸部の装甲を僅かながら溶解させた。次に顔面の近くのダミーバルーンも爆発。オリンストが体勢を崩した瞬間、真下にあったダミーバルーンが爆発する。推進力を一時的に奪われたオリンストはそのまま雪山に転落した。
「くそッ! このままじゃ……ナギサ、姿勢制御は?」
「さっきのやつで少しふらついていますが少ししたら直せます!」
「目標はポイントβ―36―2にて確認されました!」
「そうか……フェイズ2に入る! グリムゾン級はミサイルにて牽制、こちらのサヴァイヴ級は目標を射程距離内に入れて斉射しろ! ジグナム中尉のサヴァイヴ級は雪山を粒子砲で貫け! いいな?」
サヴァイヴ級は火力こそ無いものの機動力は計り知れない。その機動力を利用し、雪山を粒子砲で貫きその先にいるオリンストに炸裂させる。そうすることで敵のパイロットは動揺して攻撃回数が少なくなると予想される。そこを三隻で袋叩きにするのだ。作戦は完璧……後はパイロットの心理状態にかかっている。全ては運任せ……だ。
ソウスケがそう言うとジグナムのサヴァイヴ級はフルスロットルで雪山の影に向かった。ソウスケのサヴァイヴ級は全砲門を開き斉射の用意をする。
「グリムゾン級が敵を捉えたらしいな……全砲門開け!」
「目標、射程距離内に入りました!」
「よし……ってぇッ!」
そして、サヴァイヴ級の砲門がオリンストに向けて火を噴いた。