【Chapter/26 僕たちの行方】その3
「どうなってるの? 敵が逃げていくなんて……」
「分からないな……しかし、助かったのには違いない」
ダブリス級の艦橋内の緊張感はすっかり消えていた。敵のアテナ二機が急に撤退を始めたのだ。
「それにしても二機のアテナだけでこんなにも……」とリョウは驚きながらそう言った。彼の口はまだ開いたままだ。現実主義者のリョウにとってはたった二機の兵器で本部を制圧する力があるとは到底、考えられなかった。
「あっっちの狙いは本部ではなく、オリンストだろう。本部に回線を繋げろ。今後の航路について話し合う」
「は、はい」
ダブリス級は本部のヴァインに回線を繋げた。
「こちらダブリス級の艦長、ヘーデ・グラムス」
「ヘーデか。こちらはヴァインだ。私も今回の一件について君と話し合いたかったところだよ」
「私もそのつもりでした……」
「さて。今回は助かったものの……あの二機のアテナでこの基地が制圧される可能性もあった。今後の航路だが、シベリア方面に行ってはくれないか? あそこには流麗のダブリスの外装を完成させた軍事工場がある。あそこでダブリス級が回収しているクシャトリアというアテナの修理をしてもらってくれ。こちらが運べば確実にあのアテナたちの強奪にあう。頼んだぞ……」
「クシャトリアのパイロットは?」
「こちらで用意している。シベリア方面にて合流する予定だ」
「前のパイロットの処遇はどうなのですか?」
「彼は中枢帝国の軍人のようだな。彼は死んだよ。あの二機のアテナの攻撃で……。まぁ、すぐに降りてもらう予定だったが」
「死んだ……のですか」
命とははかないものだなとヘーデは毎度のことながら思う。
「一時間後、ダブリス級はここを出発してもらう。いいな?」
「はい(結局、私たちは疫病神……ということか)」
「へっくしッ! くそー誰か俺の噂でもしてたか?」
クロノは真っ暗な部屋の中で天井を見つめていた。勿論、生きている。ここはアリューンの部屋の中だ。隣にはアリューンが面白そうにこちらを見つめている。いつものクロノならここでアリューンに『夜のお誘い』をするのだが……。彼女の性格から中々、分かってれそうもないのでやめている。それに今、クロノは死んだことになっている。アリューンに大きな声で嘆かれたら周りに気づかれて、本当に死んでしまう。
銃で頭をドォンッだ。まったく……。
「私の偽装書類、大丈夫でした?」
「ああ、完璧!」
「よかった……私、失敗しやすいから……」
クロノは先の騒動に乗じて自分を死んだことと偽装した。実際に死んだのは見知らぬ兵士。その死体の名前をクロノ・アージュに変えておけば(名義上)自分は死んだことになる。しかし、これをやるには最低でもデータ管理ができる人間が必要になる。そこで助けを求めたのがアリューンだ。彼女は本部にいる間、データ管理を任されていた。それをアリューンは喜んで引き受け、見事クロノは死ぬこと(偽装)に成功したのだ。
とはいえ、これから見つからずに生きていける自信がない。戦争が終わるのを待つべきなのか? クロノは少しだけ苦悩していた。
「それにしてもホント、アリューンにお世話になってばかりだな……俺」
「いえいえ、私も友達ができて嬉しいです。エミルにも紹介したいです。まぁ、当分無理だとは思いますけど。なにはともあれこれで処刑されることはなくなりましたね」
「本当だよ……このままだと多分、電気椅子でビリビリか首吊りでバタンと逝ってた。それか一生、地下で幽閉されて味気の無いもんばかり食ってた(そして一生、夜のお誘いができなくなる。や、笑い事じゃなくて!)」
「これからどうなるのでしょうね?」
「さぁな……戦争は激化するだろうな。絶対に」
どこへいくのだろうか?
ショウは考えていた。今度はシベリアにクシャトリアを修理しに行く。わらしべイベントもいいところだ。その次はどこへ行く? その次の次はどこへ行くのだろうか? 戦争はいつ終わるのだろうか? 終わったとして、俺の生きる場所はあるのだろうか? 俺は戦争が終わると抹殺されてしまう……と思っている。オリンストという強大な兵器を扱える者だ。国家にとっては危険人物だろう。勿論、ナギサも……。
「ショウ先輩?」
ショウの部屋にナギサが入ってきた。照明がパッとつく。ショウは体を起こした。
「ナギサ……。どうしたんだよ?」
「なんでも……ちょっと来たくなってしまって」
「暇なの?」
「あ、はい! そうなんですよー。みんな仕事中ですし」
「俺と同じだな。俺も暇だった」
そう言うとナギサはショウの隣に座った。
「今日の事は忘れてください。あのアテナ……強いですけどどこかに弱点があるはずですから! だから勝ちましょうね!」
「空元気が見え見え……。なぁ、他に言いたいことがあるんだろ?」
「……はい、すみません……。もう一人の私のことです。最近、夢にいつも出てくる。笑いながら私の首を絞めてくるのです……」
「気にしているからじゃないのか? 所詮、あんなものそっくりさんかなにかだろう。要は気持ちの持ちようだよ。まぁ、もし酷くなるようだったら軍医の人に相談しろよ。ストレスを溜めたら健康に悪いからな」
「…………」
ナギサは無言。ショウは少し申し訳なさそうに目を逸らした。
ナギサが悩んでいることは分かっている。でも、俺にはどうしょうも無いことだ。ナギサのメンタルのことに関しては支えようがない。それどころか、無理に支えようとしたら逆に傷ついてしまうかもしれない。
ショウはやりきれない思いから、手に力を込めた。
いったい俺たちは何処に行くのだろうか? 破滅か? 救済か? どちらにしても俺たちの居場所は見当たらない。
【次回予告】
シベリア方面に向けてダブリス級は飛ぶ。
ソウスケはアスナを守ろうとする……。
結局、無駄なことなのだろうか?
答えはもう見えていた。
次回【Chapter/27 それでも君は】




