【Chapter/26 僕たちの行方】その2
「ねぇ、ナギサちゃんってショウ君のことどう思ってるの?」
「前に……話した通りですよ?」
「ふーん……そうは見えないけどねー」
「前よりは丸くなったと思うってことは確かですけど」
早朝、ナギサはとミウは散歩がてらにハンガーを歩いていた。ナギサはミウがショウの話をすると少し恥らう様子で答えていた。好きというほどではないのだが……。
「そっか……」
「ミウさんは前のショウ先輩のことを知らないからですよ」
「聞いたわ。でもね、あの時のショウ君はオリンストとシンクロするのに違和感を感じていたの。それによってストレスが……」
「どちらにしても最低でした」
「かわいそうね、ショウ君」
「そうですか?」
「ショウ君はナギサちゃんのことを必死で守ってあげているのよ? たとえ苦しくとも……ね?」
「ナギサちんをつっかまえた!」
エミルがナギサを強襲した。ナギサはいつものように頭を撫でてあげてエミルを可愛がる。幸せそうな顔をするエミル。
「よしよし……」
「かわいいーよー、ナギサちん」
「おーい、ナギサ!」
ショウの声を聞いて一瞬、ドキッとするナギサ。その時、警報音が鳴った。「え? なんでこんなところに敵が来たの?」
ミウは信じられなかった。しかし、少し経つと信じた。ここは諸国連合の本部のあるところだ。軍事力は底知れない。レーダーで見つかれば一瞬で焼かれる。そんな基地を攻撃するなど……。しかし、アテナなら考えられないでもない。あんなに大きな戦いの後で使える戦力はアテナしかないのだ。
「分かりません……でも!」
「おそらく、アテナを使ってきたわね。私はヴァルキリー級の戻るわ!」
「分かりました! ナギサ!」
「はい!」
「こい! 白銀のオリンスト!」
「しっかし、諸国連合の本部があるところにしては普通ね。レーダーも甘すぎよ。ま、マスティマのおかげなんだけどね」
イリヤはアグラヴァイのコックピットの中でぼやいた。すぐそばにいるマスティマの背中の輪はアグラヴァイを覆っている。そこから赤色の半透明の球体が発生していた。
「黒金のマスティマ……『ジャマーフィールド』解除。これより戦闘体勢に移行。黒金のマスティマ、目標に飛翔する」
ジャマーフィールドとはマスティマの背中から発生する赤色の半透明の球体のことだ。これは本体と覆われた味方の熱源を消す(実際には消しておらず、空間の歪みを発生させることで消えたように見せかける)ことのできる能力。これを応用すればレーダー網も掻い潜ることができる。
マスティマは背中の輪を通常の形態に移行させユーラリア基地の中枢部に飛翔した。そして、付近を飛んでいる戦闘機を両手の刀で一掃する。
「やるわね……。じゃあ、私も! 雷のアグラヴァイ、目標の殲滅を開始するわ! キョウジ、遅れないでね!」
「承知……」
アグラヴァイは敵の戦闘機を見事な立ち回りで殲滅。マスティマは基地のど真ん中に飛翔して設備を破壊して回る。瞬く間に基地は炎に包まれた。まさかユーラリア基地が二機のアテナによってこれほどまで押されるなど、誰も予想し得なかったであろう。
「オリンストはどこだ……」
「後ろッ!」
その時、マスティマの後方にオリンストが現れてラグナブレードでマスティマの切りかかる。間一髪で回避したマスティマはオリンストと少し距離を置き、両手の刀を構えなおす。
「奇襲戦法か……卑怯だな」
「こーでもしなきゃ大切なものは守れないからな」
ショウは笑ってみせた。
「そうか……なら来い!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……ッ!」
オリンストはラグナブレードをマスティマに向けて振りかざした。しかし、それもマスティマの白刃取りに対しては無力であった。だが次の瞬間、ラグナブレードは粒子分解して消え去り代わりにオリンストは左手に光の剣を発生させてマスティマに切りつけた。マスティマは脚部のバーニアを最大限に吹かして距離を取ろうとしたものの完全には回避できずに胸部に切り傷を負ってしまう。
「オリンストならこういう戦い方もできる!」
「やるな……面白いッ! こい、不知火!」
マスティマは両手に持った刀を重ねた。その瞬間、二刀は粒子分解し一つの大剣へと姿を変える。名刀、不知火。
「あいつ……武器を粒子分解できるのはオリンストだけじゃなかったのかよ!」
マスティマはオリンストに向かって不知火を振りかざす。それをオリンストはラグナブレードで受け止めた。刹那、マスティマの蹴りがオリンストに炸裂。次の瞬間、不知火がオリンストの左腕を切断した。力なく宙を舞うオリンストの左腕。
「ぐっ……ッ!」
「この程度か?」
「そんなんじゃ……ッ! くる!」
マスティマの両腕がオリンストを襲う。オリンストはラグナブレードで防ぐ。しかし、持ちそうにない。オリンストの右腕は軋み始める。オリンストはしばらくするとマスティマの攻撃を受け流してラグナブレードをマスティマの本体にめがけて振り上げた。しかし、オリンストの攻撃は外れ、隙ができた。
「やられるッ!」
ショウはオリンストを受身の体勢にした。しかし、マスティマはその間、攻撃せずに立ったままだった。そして、逃げていく。
「あいつ……何で?」
「助かった……のでしょうか?」
気がつくとアグラヴァイの姿も消えていた。