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【Chapter/26 僕たちの行方】 その1

「で……ユーラリア基地を二機のアテナで強襲か。随分と大胆だな」


 キョウジは作戦の内容を見て言った。目の前には作戦の詳しい詳細を書いた書類が山のように積んでいる。少し、キョウジはため息をしてポケットに入っているタバコを吸い始めた。


「ま、あなたのマスティマの力があれば楽勝なんだけどね」


 イリヤは笑って見せた。


「そうだな……。早いうちにオリンストを叩いておいたほうが楽だからな」

「オリンストって弱いんでしょ?」

「オリンストは強い。しかし、パイロットが弱い」

「そういうことね」


 イリヤは少し不機嫌そうに言った。


「ま、私たちはこ作戦が終わったら中枢帝国の方に戻らないといけないんだけどね」

「ああ、遂にエルヴィス財団の悲願が達成される時……だな」

「嬉しくないの?」

「いや、嬉しいさ。これで醜い争いの連鎖が断ち切られるのなら」

「……私のような人間をもう出さないためにも……ね」




 ショウは一日中、ナギサの着せ替え人形にされてヘトヘトだ。そして現在、ダブリス級の自室にて睡眠中。一日の疲れが取れていく……。しかし、途中で目が覚めてしまった。ショウは寝付けないので外の広場に出ることにした。

 外の空気が新鮮に感じられる。とはいってもここは軍事施設の中。あまり良い空気ではなかった。しかし、ショウにとってダブリス級の中の閉塞感から抜けられたという気持ちで心地よい。夜なので機械音もあまりしない。広場の地面は芝生で青々としている。それと幾つかのベンチ以外は何にもないただの平地だ。いつもなら青臭いと嫌う匂いも、今のショウはその青々とした匂いに癒されていた。ショウは近くにあったベンチに腰をかけた。


「こんな所で何やってる?」

「シュウスケ?」


 どうやらシュウスケも寝付けないようだ。


「ああ、ちょっち寝られなくてね。お前もか?」

「そうだよ……。どーも寝られなくて」


 シュウスケはショウの隣に座った。


「そういえば久しぶりだな。こんなことして話すの……」

「戦争で忙しかったから」

「俺さ、親父にオペレータやれって言われた。ダチの戦っているところぐらい見てやれってな。デスクワークには慣れていないんだけどなぁ」

「高校ではいつも居眠りしてたしな」

「あの時は「こんな学校、入らなきゃ良かった」てな。元々、まぐれで合格したんだ。なんとなく入ったら勉強ばっかし。部活もみんな真面目なやつばっかだった」

「どんな部活が良かったんだ?」

「そーだな……軽音楽部とかな? へービーメタルとかそんなの」

「そっか……みんな夢を持ってたんだな」


 シュウスケは空を見上げた。空には月が浮かんでいる。


「お前はどんな部活に入りたかった?」

「当時だと……勉強部かな? でも、今はお前と同じ軽音楽部だよ」

「この戦争が終わったら二人でやるか?」

「お、それいいな! じゃあ、俺はギターをやるよ」

「それは俺だ。お前はカスタネットでもしてろ」

「ひでーな……」

「ま、センコーが許してくれるかどうかだな」

「あいつか? 生徒指導で厳しいハゲ頭?」

「え? あいつってハゲなの?」

「あれは明らかカツラだろ」

「弱みを握ってやったぜ! 見てろよ……あのハゲ頭」


 シュウスケはハゲ頭によく服装を注意されていた。その時はショウが弁護をしていた。「洗濯ができてなかった」だとか「白いシャツを妹に奪われた」など、エトセトラ……。


「じゃあ、俺はドラムだな。ドラムのショウ・テンナ! カッコいーいッ!」

「ボーカルは……」

「私でいい?」


 二人の後ろにはサユリがいた。


「わっ! びっくりさせるなって……」とシュウスケ。

「いいじゃない!」

「お前も寝付けないのか?」


 ショウは聞いた。


「うんん、私はオペレーターの事務で手一杯。今、終わったところなの」

「大変だな……」

「同情してくれる?」

「ああ、すっごく同情してあげるよ」

「何それ……。わざとらしい!」


 サユリはショウに笑いかけた。


「というかお前がボーカルか……無理あるな」

「何よ、シュウスケ! こう見えても中学の頃は歌手目指して毎日ボイストレーニングしてたのよ! だから人並みには歌えるわ!」

「うわッ! 意外……」

「うるさい!」


 サユリはシュウスケを殴り飛ばした。それを見て微笑するショウ。


「やめやめ! 暴力反対!」

「デリカシー、ゼロね」

「ショウ! なんとか言ってくれ!」

「弁護料取るよ?」

「エロ本三冊!」

「却下……」


 こんなこと……つい一ヶ月前にはこんなこと当たり前だったのにな。どうしてこう、懐かしく感じられるのだろうか? これが普通だったのに。どうやら俺の感覚はおかしくなってしまったようだ。それはいつも死と隣り合わせだったからだろうか? それならば、このような時間がいとおしく感じてしまう。あたり前を……。


「なぁ……芝生に寝転がってみろよ月が綺麗だぞ」


 シュウスケは芝生に寝転がった。それに続いて二人も寝転がって月を眺めた。満月だ。自分で光ってもいないのに光っている。それがショウにとっては羨ましい限りだった。


「綺麗……ね」

「そうだろ? あそこにウサギがいるんだぜ。ポンポンと餅を突いて」

「昔の話?」

「俺の中では昔ではなく今もいると信じてる!」

「相変わらずオカルト好きだな……」

「そうね……」


 月にウサギがいるのなら戦争は起きない。平和な世界じゃないと月にウサギが住もうとしないのだ。今は……いるのだろうか? ウサギさんは?

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