【Chapter/25 蒼い星にて……】 その1
その星は青かった。ダブリス級は遂に目的地である地球に到着したのだ。今、ゆっくりとユーラシア大陸にある諸国連合本部、ユーラリア基地へと降下中。艦橋から見える一望できるその基地の広さに皆、度肝を抜かれた。半径九十七キロは軍の私有地である。ここには整備中の戦艦が二十七隻あり、戦闘機が二百二十七機も格納されていた。
そして、基地のハンガーへとダブリス級とヴァルキリー級を格納したところでヘーデを含むクルー全員は外に出た。その前にはこの基地でもトップの軍人たちが敬礼をして待っていてくれた。皆、胸に一つ、二つの勲章をつけている。その光景に少し怯むショウ。ナギサも慣れていないようだ。
「ようこそ、ユーラリア基地へ。軍司令部のヴァイン・ケントだ」
ヴァインと名乗る男はまだ若く三十代にも見えた。
「ダブリス級艦長、ヘーデ・グラムスです」
「ヴァルキリー級艦長、ミウ・エレクトロです」
二人は敬礼をした。
「で、隣の三人は?」
ヴァインはミナトとナギサとショウを指差して言った。
「オリンストのパイロットのショウ・テンナです」
「同じく、オリンストのパイロットのナギサ・グレーデンです」
「……ミナト・アリアよ。……ブイ」
ショウとナギサは敬礼をした。とはいえ二人とも敬礼の仕方をあまり知らないのでぎこちない。ミナトはいつものVサインをする。
「なるほど、君たちがアテナのコアか……。ま、ここにいる間は好きにしてくれていい。一週間の休暇を与えよう」
「「あ、ありがとうございます……」」
二人の声は重なった。
「ソースケ! どこ行く?」
「そーだな……ま、街でもブラブラするか?」
ソウスケの乗るターミナス級は地球にて極秘裏に補修作業を行っていた。勿論、地球にも中枢帝国の味方をしてくれるレジスタンスはいる。そんな中、アテナのパイロットには心に余裕を持つようにクラウドが特別にアスナの外出を許可したのだ。それもこれもクラウドが艦隊の隊長になったおかげだ。ルーベリッヒのときだとこんなこと考えられない。
そして、ソウスケはアスナの付き添いだ。アスナ直々のご使命なんだとか。そのおかげでソウスケも休暇ができた。あの忙しいデスクワークとは刹那の間、おさらばできる。ソウスケは浮いていた。
「そうね! 書いたい服もあるからね!」
そして今、ソウスケとアスナはユーラリア基地の郊外にある都心の駅前にいる。ここはデートスポットとしても有名だとか。(クラウドが教えてくれた。何で知っているのかは不明だが)確かにカップルもたくさんいる。戦争状態が嘘と感じられるぐらい平和なところだった。
本当に戦争状態じゃなかったらいいのにな……。
「じゃあ……服でも買いに行きましょ! 言っとくけどソウスケは荷物持ちのためだけに付き合ってもらってるんだからね! だから、ちゃんと仕事しなさいよ……」
アスナはぷくっと膨れた顔でソウスケをじっと見つめた。
「分かってますって」
「本当に?」
「ああ、分かってる。分かってるとも……」
ソウスケとアスナが最初に行ったのはデパートの下着売り場だ。とはいえ下着売り場は男子禁制のような風が吹いているのでソウスケは入れやしない。だが、アスナは無理やり中へと入らせてしまう。
「わわわ! ダメだって!」
「いいの、いいの! 下着選んでもらうから!」
選ぶ? 野蛮な生き物の男(自分を除く)が選ぶのなんて大概はスケベなものだって……。というかやめてほしい。周りの客(女性)の目が痛々しい。わッ! こっち向いて物凄い嫌な顔された。今、目を逸らされたしッ!
「どれにしようかな……」
「何でもいいから次、行こうよ……」
「分かったわよ! このピンクのやつでいいのよね!」
「ああ、そうしてくれ……」
ソウスケはやっとのことで、下着売り場という名の地獄から抜け出した。次に行ったのは普通の洋服店だ。
「これ、どう?」
「あー着てみれば? 似合うと思うけど」
「そうねッ!」
アスナは走って試着室に向かった。ソウスケもそれについていく。
「……どう?」
「似合うよ」
「どう?」
「似合うよ」
「もーすこし、コメントのバリエーションを増やしてよ!」
「分かった分かった……」
「じゃあ……これは?」
アスナが着たのはさっき下着売り場で買ったピンクの下着だった。ソウスケは少し怯む。そして呆れる。
「おいおい……服じゃなくて下着だろ?」
「セクシーでしょ? ほら胸とか?」
アスナは胸を突き出し、下着の胸の所についているフリフリを強調して見せた。しかし、無反応なソウスケ……。アスナは「むぅッ!」と膨れる。
「うん……セクシーだよ」
「もうちょっと大きな反応をしなさいよ! 例えばこう……「わッ! そんなもの見せるな!」って恥らったりとか「…………可愛い」とか見とれなさいよ! 鼻血出すのもオッケーなのよ!」
「わ、そ、そんなもの見せられたら、僕……」
ソウスケは自分なりの迫真の演技で言った。しかし、それはバレバレ。
「わざとらしいッ!」
「やめッ! 蹴るな! 殴るな!」
誰も獣化したアスナを止めることはできない……。