【Chapter/24 宇宙に降る雪】
その雪は『アフターウォー・スノウ』と軍人たちに呼ばれている。大規模な戦闘が終わった後にその戦場で降る、粒子の結晶のことだ。粒子砲に含まれている極小の粒子が空気に触れて結晶化するというプロセスで、このような純白の雪が降っているように見えるのだ。見えるだけであってこれは雪ではない。軍人たちはこの雪を見た時、生き残ったということを確信する。そして歓喜する。皆、元いた場所に帰れると……。帰るべき場所がある者は。
「生き残ったのか……俺は」
「はい……残りのクリーナーもミナトちゃんが片付けてくれました」
「そうか……」
ショウとナギサは戦闘の終わった宇宙空間に浮いている。コロニーレーザーを破壊した後、ショウは気を失った。よほど集中していたのだろう。操縦桿を握っていた手は平手にすることができないぐらい固まっている。
「これ……は?」
「アフターウォー・スノウっていって、粒子の結晶の粒が雪のように見えるらしいですよ。前にエミルちゃんから聞きました」
「綺麗だな。本当に……人がたくさん死んでいるのに」
この光景を嬉しく見るのが普通なのか? ショウはフクザツな気分だった。たしかに守るものは守った。だが……。
「手……握ってみてください」
「こう……か?」
ショウはナギサの手を握った。暖かい。
「暖かいでしょ。これが生きている証拠です。ショウ先輩のも暖かいですよ」
「これから……どうなるんだろうな、俺たち?」
「分かりません……」
「分かったら怖いさ。誰も未来のことは分かりやしない。そんなに人間が便利になるわけないじゃんか。でも、分かるヤツがいるならばそいつは不幸だな。その通りに生きなきゃならないし」
「じゃあ、私たちって幸せですね」
「そうだな……」
「ソウスケ!」
アスナはソウスケを見つけたと同時に抱きついた。ソウスケはそれを受け入れた。廃墟のスタジアムでアスナは発見されたのだ。関係者も驚いていたが一番驚いていたのはソウスケだった。
「アスナ……よかった……よかった」
「うぐぅっ! 苦しいって!」
ソウスケはアスナを強く抱きしめすぎたのかアスナは息ができない。
「ご、ごめん……」
「まぁいいわ、許してあげる! さ、帰りましょ」
「あ、ああ」
ソウスケとアスナはサヴァイヴ級に戻った。イフリートの回収作業も終わったらしく艦は地球へ向かっている。現在、ソウスケとアスナは展望デッキにいた。この頃はルーベリッヒが上官じゃないのでソウスケも楽だ。ターミナス級の艦長もクラウドに変わった。
「ねぇ……私が死んだと思ってたの?」
「んー心配はしてた。もし、お前が死んだらどうしようかなーってさ。考えられなかった。考えたところで僕にできることはないけどね……」
「ふーん、いかにもソウスケが考えてそうなことよねぇ」
さて、安心はできたけど……まだ、アスナの浸食現象が止まったわけではないんだ。油断はできない。でも、何で大丈夫だったんだ? オリンストの背中から出た白銀の翼が原因なのだろうか。それなら早くオリンストを鹵獲してあの翼の成分を解析してもらえば……アスナの浸食か現象は止まるかもしれない。
「オリンストのパイロットに出会ったわ」
「え?」
「あの後、私が気絶していたところを助けてくれた。熱が出てたらしいわ。パイロットは二人いたわ。一人は頼りなさげな少年。あんたにそっくりだったわ。ヘタレってヤツね。で、もう一人は容姿耽美の黒髪の女の子だった。どちらも私と同い年ぐらい……」
「……悲しいな」
「それだけ?」
「その後に何を言えば良いのか分からないから……」
「ふーん、単純ね」
今後の作戦はこうだ。まず、ターミナス級は地球にある諸国連合本部を攻撃する。二機のアテナ(イフリートは今回の件で整備が必要なためにお休み。ソウスケにとっては嬉しいことだ)で攻略できるのかは分からないが……。そして、オリンストを追撃して破壊する。
「今回の戦い、中枢帝国負けたって」
「聞いたよ。地球圏での戦いだろ? もうすぐで中枢帝国は倒れるかもな。そうしたら戦争は終わる。正直のところ早く決着が着いてほしいんだよ……こんな戦争」
「そうね。でも、そうなったらソウスケはどうなるの?」
「俺はただ司令部の命令に従ってただけだし……ま、大丈夫だろ」
「そっか……そうなったらソウスケとも会えなくなるね」
「住所、渡しておくよ」
「うんん……多分、私は戦争が終わっても戦い続けないといけないと思う。イフリートを扱えるのは私だけだもの」
「そんなことさせない。俺がなんとかしてやるから安心しろって」
「そうね……期待しとく」
その時、遠くの方に雪が見えた。いや、アフターウォー・スノウだ。ソウスケはその純白の結晶が宇宙空間を舞っているその姿にしばし見とれる。
「ソウスケ! あれって何? 凄い綺麗なんだけど!」
「アフターウォー・スノウっていうやつだよ。大規模な戦闘が終わったときに発生する粒子の結晶。昔の軍人はあの雪を見て戦争が終わったと思ってたんだ」
「でも、今は違うわ。まだ戦争は終わっていない……」
「昔と違って兵士も増えた。兵器も増えた。こんな大規模な戦闘で負けても降伏する国はそうそう無いさ」
「昔のほうが良かったのかもしれないね」
「そうだな。アスナも幸せに生きてたかもしれない」
「でも、私は今のほうがいい。ソウスケと出会えたから……」
「ありがとうな……」
ソウスケは少し顔を赤らめて言った。二人の前には優しい雪が降り続いていた。しかし、それも五分で消えていく。
【次回予告】
長い旅は終わった。
ショウたちは地球に着いた。
戦争は終わっていない。
始まったのだ、本物の戦争が……。
次回【Chapter/25 蒼い星にて……】