【Chapter/23 死を重ねて】その3
オリンストは胸部の主砲を開いてホーミングレーザーを放ちクリーナーを破壊してゆく。しかし、ホーミングレーザーの届かない場所にもクリーナは落とされており、全て打ち落とせる状況ではなかった。
「この数では……」
「オリンスト! ヴァルキリー級とドッキングして!」
「ミウさん! 分かりました!」
オリンストとヴァルキリー級はドッキングして各部にあるホーミングレーザーの発射口を開き、無数の青い光を放った。それはクリーナの弾頭を焼き尽くし地球に落ちぬまま、膨張し爆発。クリーナー全、二十一発は全て破壊した。
「九時の方向に熱源確認! 大きいです!」
アリューンは叫んだ。彼女の見ているモニターには巨大な円柱状に輝くレーザーが現れていた。かなり大きい。
「何なの!」
「コロニーレーザーと思われます……まさかこんなものまで」
「なんで今まで確認できなかったのよ!」
「こちらのレーダーから感知できないようにする粒子が付近に散布されていたからです!」
「全艦、コロニーレーザーの射線上から退避!」
しかし、遅かった。コロニーレーザーから放たれた光は射線上のレウス級に五十二隻を完全に焼き尽くした。そこに鉄片さえも残さず。しかも、航行不能になった艦も十七隻あった。そこにはダブリス級も含まれている。
「こっちはエンジンをやられた! コロニーレーザーを破壊しろ!」
ヘーデの鈍い声がヴァルキリー級の艦内に響く。既にコロニーレーザーは砲身の冷却を始めている。このままだと後、二分後には再発射されてしまう。そうなれば諸国連合側の艦は壊滅状態になりクリーナーが投下されてしまう。
「……流麗のダブリス起動」
「ミナト……ッ!」
「……大丈夫、まだいけるわ」
ミナトは独断で流麗のダブリスを起動させた。そして、ダブリス級は巨人に変形する。その単眼の見つめる先にはコロニーレーザーがあった。
「ショウ君! ここから狙わないとクリーナーが投下されてしまうわ……だから!」
「分かっています、ミウさん! ここから狙って貫けばいいんでしょ! テンペストの発射用意お願いします!」
「はい! エミル!」
「らじゃッ! 砲身、冷却完了! テンペストの発射権限をオリンストに移行、目標はポイントαの32―Ζ! ショウちん、大まかな調整はこっちでやるけど細部までは調整できないよ。だから、そこらへんはショウちん自身でやってねー」
「分かった。ナギサ、送られてきたデーターをこっちに転送してくれ。細部の調整をしたいんだ」
「分かりました、転送します!」
ショウの頭の中にロックオンサイトが現れた。それを少しずつ調整していく。そして、オリンストは胸部の主砲を突き出した。ヴァルキリー級からオリンストへエネルギーが送られてくる。オリンストの全身が発熱の影響で真っ赤に染まった。表面の温度は千度を超えている。
「貫けッ!」
オリンストの胸部から巨大な粒子砲が発射される。しかし、それはコロニーレーザーをかすっただけで大したダメージは与えられなかった。
「くそッ! 装填お願いします!」
「待って! 冷却までもう少し時間がかかるわ!」
「どのぐらいですか!」
「冷却装置をフル稼働させても百十秒よ……それまで持ちこたえて! それにこれがラストチャンスよ。これ以上、冷却することができないの!」
「……分かりました」
しばらく、経った。砲身が完全に冷却されるまで後十四秒だ。ショウは細部を調整している。さっきみたいに失敗しないように……。
「来ます!」
オリンストの目の前に現れた巨大な光。ショウは死を覚悟した。しかし、ダブリスがAフィールドで防いでくれたおかげで助かった……? いや、コロニーレーザーの威力が大きすぎる為、ダブリスのAフィールドは空間を歪めて溶け始めていた。このままだとダブリスとともにオリンストは溶ける。そして、クリーナーが地球に落とされ……地球は死の星に。
「……っぐ!」
ミナトは必死に痛みを堪えている。焦るショウ。そしてコロニーレーザーは止まった。何とか防ぎきったのだ。
「……ふぅ……」
「大丈夫か?」
「……ダイジョーブよ。……ブイ」
ダブリスはオリンストに向かってVサインをする。
「コロニーレーザーの砲身が光りました。まさか……冷却しないで撃つつもり?」
冷却をせずに撃つということはコロニーレーザーを破壊するということだ。おそらく敵は
「そんな……ショウ君、コロニーレーザーを撃って! 敵は再充填を開始したわ! 冷却をせずにね……。撃って!」
「こんなことしても何にもならないというのに……」
ショウは再びコロニーレーザーに照準を合わせる。
これを外せばみんな死んでしまう。それどころか地球の人々も死に至る。こんなにも重い使命を俺は背負える権利があるのだろうか? こんな俺にたくさんの人々を守ることができるのだろうか?
「クリーナー、投下されました!」
「ショウ君、急いで!」
俺は……こんなことできやしない……。俺は変わったと思ってた。だけど、違った。俺は臆病でこんなに大きな使命を背負える器じゃなかったんだ。結局、俺には無理ってことだ。でも、それを誰に分かってもらえる? 俺がこんなこと、できないってことを。
トウオウ高校の入学試験の時も同じだ。俺はあの時、緊張のあまりぶっ倒れてしまった。そのせいで兄貴とは違う普通科での入学を余儀なくされてしまったんだ。だけど、俺の父親は「集中力があれば倒れなかった」だとか「それぐらい我慢しろ」と言って俺のことを分かってくれなかった。プレッシャーがあったことを知らずに……。兄貴と同じ存在にならなければいけないと言う、周囲の圧力が俺の頭をぶっ潰していた。
成功すれば周囲は褒めて、失敗すれば周囲は貶す。
「俺はどっちでもいいさ」
アスカの声が聞こえてきた。何故だかは知らないが……。
「俺はショウが頑張っていたことを知っている。今まで見てきた。オリンストに乗って苦悩しているところや必死に戦っているところも。だから分かる、ショウが死に物狂いで大切なものを守ろうとしたことを。だから、なにも考えるな。ただ、一点を狙え。結果は……気にするな」
「……アドバイスありがとう、兄貴。でもさ、気にせずにはいられないんだよ。わりぃ……」
「そうだな、お前の近くに大切なものがあるからな」
「そうだっての。いつまでも俺を弟呼ばわりすんなって」
ショウは操縦桿を握りなおして照準を定めた。その瞳に迷いは無かった。そして、トリガーを引いた。放たれる粒子砲。虚空をきって目標に向かう。そして、貫く。コロニーレーザーを。崩れた砲台は宇宙の藻屑に消えた。
【次回予告】
その雪は泣いていた。
綺麗なはずだった。
それを笑いながら見る者もいれば、
何も言わず見つめる亡骸もいた。
次回【Chapter/24 宇宙に降る雪】