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【Chapter/23 死を重ねて】その1

「敵の数はどのぐらいだ?」

「グリムゾン級が十七隻です。どうやら援軍のようですね……どうします?」

「勿論、撃たなければならないだろう。相手はまだこちらに気づいていない。強襲だな。フルスロットルで敵艦隊に突貫せよ! 右舷弾幕が薄いぞ!」


 現在、ダブリス級は地球圏の近くで中枢帝国の艦隊と交戦中だ。もう少しで地球圏に行ける。しかし、もう地球は攻撃を受けている。皆、焦っていた。

 ダブリス級は敵艦隊のど真ん中に突貫する。ヴァルキリー級はその後方援護をしていた。敵艦隊は予想外の展開に錯乱しているが弾幕も決して薄くはない。ダブリス級は急いでAフィールドを展開。全方向にミサイルを時間差で射出した。ミサイルはグリムゾン三隻に命中し沈む。


「このまま突破する! 敵の足止めを頼んだぞ!」

「分かりました! ヴァルキリー級、全砲門開け!」


 ヴァルキリー級の全身からミサイルの発射口と砲台が開く。


「ってぇぇ!」


 ヴァルキリー級からミサイルが放たれて、巨砲が火を噴く。それはハリネズミという異名にふさわしい数の弾薬であった。その全部が敵艦に命中して四隻が沈み、七隻が航行不能に陥る。


「敵が逃げてくよー。やったねー」

「こら! エミルやめなさい!」

「いいじゃないですかー」

「アリューンも何とか言って!」

「何とか」

「…………」


 ヴァルキリー級の艦内は妙に和んでいる。


「後、地球までどのぐらいだ?」

「五分で敵の本隊が見えてきますね。心してください」

「そうか、司令部に連絡をしろ。「ただいまダブリス級とヴァルキリー級は地球圏に帰還いたしました」とな」

「分かりました」


 後、五分……果たして敵がクリーナーを放つまでに間に合うのだろうか? 一抹の不安をダブリス級とヴァルキリー級は抱えて、フルスロットルで地球圏まで向かうことにした。


「シュウスケ! なんでいるのよ!」


 突然、艦橋に入ってきたシュウスケにサユリが怒鳴った。


「いや……ショウが生きているかって早く知りたくてな」

「そんな! 戦闘中よ!」

「頼むよ! このとおり!」

「まぁいい……ここのオペレートをやってくれ、欠員が出ているからな」

「はい!」

「父さん、いいの?」

「オペレーターが一人急病でな」

「ったく……」




「後、どのぐらいだ?」

「三十分はかかりますね……」


 オリンストは地球圏に向かって宇宙を駆けている。


「ダブリス級のみんなは生きているかな?」

「……生きてますよ、絶対」


 あれからダブリス級と通信が取れない状況にある中、ダブリス級が地球圏に向かっているかどうか、ということが不安要素ではなく、ダブリス級がまだけんざいであるかどうか、が一番の不安要素であったのだ。


「暇……ですね」


 オリンストの操縦はオートパイロット(ナギサがオリンストにアップロードした航路を自動的に航行する機能)を使っているので二人は暇だ。といって、沈黙を守れば逆にプレッシャーがかかってしまい、動きが堅くなる。そんな時の暇つぶしは……。


「しりとりでもしよっか?」

「いいですね! では……ラッパ」

「……パイナップル!」

「むぅぅぅ……ルビー」

「ビール!」

「むぅぅぅぅぅ……涙腺! あッ! 負けましたー」

「今度は俺の勝ちだな。コツが分かってきたんだよ」


 ショウは得意げにそう言った。


「前やったときは勝ったんですけどね……。ショウ先輩、変わった気がします。初めて会ったときと比べて」

「……俺さ、いつまでも兄貴を意識しちゃいけないんだって思ったんだ。確かに兄貴は優しくて頭も良くてカッコいい。でも、俺がいくら兄貴のようになりたいと思ってもなれやしないんだ。だけど、俺は兄貴のようになろうとカッコつけてばっかだった……。そのせいでつまらないことでも悩んだりした。そうだろ?」

「でも、変わってないところもあります。ショウ先輩は他人のことばかり考えていて自分の事をあんまり考えていません……。ショウ先輩はこの戦いが終わったら何になりたいと思っているんですか?」

「んー単位が取れてないだろうし……もう一回、高校一年生をやって……卒業して医者にでもなりたいな。それがたくさんの命を奪ってきた俺の罪滅ぼしだよ」

「じゃあ、私と同級生になれるかもしれませんね!」


 ホント……つい一ヶ月前はこんなこと考えもしてなかったのにな。ただ、兄貴を目指してただけだった。逆にそれは明確な目標があって、良かったのかもしれない。今はこの戦争が終わることが前提の話であって正直、この戦争がいつ終わるかも分からない。もしかすれば俺が生きている間には終わらないのかもしれない。だったらどうなるのだろうか? 一生、オリンストに乗り続けて……幾人もの亡骸の上で力尽きるのだろか? 俺たちはどのぐらい先にゴールがあるのか分からないところで綱渡りをさせられているんだ……多分。


「先輩……いつ終わるのでしょうね、この戦争」

「分からないよ。そんなのが分かったら誰も苦労をしないよ」


 そうだ。先の見えない綱渡りでも俺たちは常に前を向いて歩かなければならない。下を向けば足が竦む。本当は生き残るだけでも難しいのではないのだろうか? それなら俺たちがやっている《大切なものを守る行為》は不可能に近いことなのかもしれない……。でも、やってやるさ。俺たちは歩いてはダメだ。そうさ……。


 走るんだ、全力で……。

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