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【Chapter/22 白銀と紅蓮】その3

「……ん……ここは?」


 ショウが目覚めた所は廃棄コロニーの中の球場だった。ここは選手控え室のようであったが当然ながら今は使われていない。シーズンオフだったのかここには死体が殆どなかった。ショウはベンチから立ち上がりあたりを見回した。そこにはナギサがいる。安堵するショウだがそのすぐ隣には見慣れない少女の姿があった。まだ寝ているようだ。


「あ、ショウ先輩」

「こ、この子は?」

「イフリートのパイロットの子です。弱っていたので手当てしておきました」

「…………」


 ショウは少女を見た。ナギサと同い年ぐらいのツインテールの女の子。こんなのと自分は戦ってきたのかと思うと恥ずかしくなってくる。と、同時に一抹の不安を覚えた。


 今ここでナギサを振り切り、殺すべきなのか? いや、俺はそんなことができるほど冷酷ではない。だったらどうするべきなのか? 分からない。


「大丈夫ですよ。一回起きて事情を話しましたし……」

「なんて言ってた?」

「ありがとう……とだけ」

「そうか……こんな子がイフリートのパイロットだっただなんてな」


 薄々、感ずいてはいたもののそれを実際に見てしまった時の驚きは決して小さなものではなかった。ナギサは通信機を取り出してダブリス級との交信を試みた。しかし、無線機は完全に壊れており聞こえるのはノイズだけだった。ショウも携帯電話を取り出してみたが電源がつかない。


「くそっ! ダブリス級がどこにいるかさえ分からないだなんて……」

「ここは……ってあんた誰?」


 少女は目が覚めてベンチから立ち上がった。


「ショウ・テンナだよ。一応、オリンストのコアだ」


 ショウは淡々と答える。その答えに少女は驚いていない。おそらく予期していたことなのだろう。何回も戦ってきた相手だ。声は嫌でも覚えてしまうはず……。ましてや目の敵だ。


「……イフリートのパイロット、アスナ・マリよ。一応、お礼は言っておくわね」

「いや、手当てしたのはナギサだけだよ。俺はさっきまで寝てた」

「そ……で、どうするの?」

「分からないな……君にとっては中枢帝国の人に助けてもらうのが一番だと思うけど……俺たちにとってはベストではない」

「……不思議ね。さっきまで殺し合いをしていた相手なのにマトモに話し合える。なんでだろう。殺したくなくなってしまう」

「アテナという名の目隠しをされて戦っているからだよ。俺たちは……。直接刃物を持って殺し合いをすれば相手の血を見てしまう。だけど、アテナに乗っている人を殺しても血は見れない。多分、アテナに乗っている俺たちの感覚はどこか麻痺しているのかもしれない……」


 ショウはそう言うと黙り込んだ。




「アスナをなんで出撃させたのですか!」


 ソウスケはルーベリッヒの前で声を荒げた。しかし、ルーベリッヒはビクともせずにイスに腰掛けている。偉そうに……。


「あれは戦術的に有効な手段だったと言える。それだけ、さっさっ出ていってよ。あとーこれはアスナ、自ら引き受けたことだ」

「くそっ……」

「君がアスナを特別な存在にしているのは知っている。しかし、戦いにこのようなロマンスは必要ない。君は人形と恋をしていたのだよ」

「ふざけるな!」


 ソウスケは拳に懇親の力を入れてルーベリッヒを殴り飛ばした。ルーベリッヒはイスから転げ落ちる。


「何をするんだ!」

「あんたはなんだ? 人間かよ! アスナは人形なのか、あんたにとっては! じゃあ、あんたは人形じゃないって言いたいのかよ! 人間は使い捨てじゃないんだよ!」

「……上官を殴るとは、軍事裁判にかけられたいのか!」

「失礼します」


 そんな中、クラウドがドアを開けて入ってきた。


「クラウドよ、君の部下は上官を殴ったのだぞ!」

「もうあなたはソウスケ中尉の上官ではない。あなたは本日、午前十一時より降格処分になった。よって上官を殴ったことにはならない」

「なんだって?」

「あなたは少尉に格下げだ。あなたはここ一週間で中枢帝国の兵士、七百五十人を無駄死にさせた。それ故の罰だ」

「あぁぁ……」


 過去の栄光に酔いしれていたルーベリッヒは自身の墜落を受け入れることができずにその場に倒れて気絶した。


「行くぞ」

「はい……」


 ソウスケとクラウドは部屋を出て廊下を歩いている。


「もしかすればアスナは生きているかもしれない」

「え? 本当ですか?」

「ああ、確定情報ではないがな。イフリートが現在いる位置に微弱ながらも生きて活動している人間の熱源が三個確認された。一時間後、イフリートの回収をする予定だが……もしかすれば生きているかもしれない」

「…………」


 しかし、ソウスケには「〜かもしれない」という言葉が妙に引っかかった。




「……ソウスケ、びっくりするだろうな。私が生きてるなんて」


 アスナとショウとナギサはそれぞれ元いた場所に帰るために試行錯誤している。ショウとナギサに至ってはダブリス級との交信を今も試みていた。


「ソウスケって誰なんですか?」

「私の大切な人。いつもは頼りないけどいざっとなったときにはカッコいいの……。少しだけ憧れてもいるの」

「いいですね……そんな人がいて」

「案外近くにいるかもよ?」

「へっくしゅん!」


 ショウは無線機を修理しているのに忙しく、二人の戯言に付き合っている余裕はない。


「えーそんなのいませんよ。本当にアスナさんって幸せですね」

「うん!」

「また……戦わなくちゃいけないのかな?」

「こんな戦い、早く終わればいいんですけどね……本当に」


 しばらく訪れる沈黙。


「おーい、ナギサ」

「は、はい」

「無線機はもうダメだ。でも、おそらくダブリス級は地球に向かっている。そこで合流すればいいと思うんだ」

「そう……ですね」

「じゃあ、行くぞ」

 ショウはそう言うとスタジアムのほうに向かった。ナギサもそれについていった。しかし、途中でショウは無線機を忘れたことに気がつき戻ってきた。

「あーあったあった」

「ねぇ!」


 アスナがショウに話しかけてきた。


「ナギサを大切にしなさいよ!」

「……お前もな。大切なものを守りきれよ」

「言われなくても」


 そう言うとショウはその場を後にした。その時、二人は「今度会うときは戦場だな」とは決して言わなかった。二人とも分かっていたのだが、そのような現実をあえて言う必要はどこにもなかったのだ。そういうことを忘れたいのだろう、二人とも……。


「ナギサ、行くよ」

「はい……行きましょう、地球へ」


 二人はスタジアムのど真ん中で手を重ねた。そして叫ぶ。


「こい!白銀のオリンスト!」

【次回予告】

 撃たなければ撃たれる。

 人は死を恐れ、他人に死を与える。

 単純な生き物だ、人間とは……。

 ここは全てが繰り返される世界なのか?

 次回【Chapter/23 死を重ねて】

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