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【Chapter/22 白銀と紅蓮】その1

 現在、ダブリス級が航行しているところはちょうど火星と地球の中間地点に位置する場所だ。ここには廃棄コロニーがたくさんある。どれも第七次星間戦争時にクリーナーが投下されて住めない状態になっていた。


「これが……」


 ショウは廃棄コロニーを見てそっと呟いた。ショウはまだ艦橋にいる。いつ敵が来てもよいようにナギサと一緒に艦橋にて寝泊りをしているのだ。をれを見てヘーデは言った。


「そうだ、廃棄コロニーが見えてきたということは地球が近いということだな。もうすぐ地球にいける。さて、中枢帝国のほうが早いか。ダブリス級のほうが早いか……」


「……どちらにしても敵はもうすぐ来るわ」


 ミナトは言った。


「そうだな、ミナト……」

「……いざとなったら私を使って。私が死んでも誰も悲しまないもの」


 ヘーデは無言。確かに戦略的にはミナトの利用価値はある。ただ、この非人道的な兵器に蝕まれていく十二歳の少女の姿を見ているとヘーデは胸が苦しくなる。前回の戦いでもミナトは戦いが終わると衰弱して倒れた。後、何回戦えば死ぬだろう? ヘーデには分からなかった。


「そんな悲しいこと言うなよ!」


 ショウはミナトに対し声を荒げた。


「…………」

「悲しむやつがここにいる……」


 その時、敵が来た。艦内に警報音が鳴り響く。


「敵だな……総員、戦闘用意! 敵はグリムゾン級、五十七隻だ」

「いくよ、ナギサ!」

「はい……」

「こい! 白銀のオリンスト!」


 そして、現れた灰色の巨人。その姿は前衛のグリムゾン級の兵士たちを驚愕させる。ショウは操縦桿を握りなおし一息吐いて戦闘体勢に移行した。


「赤いヤツがきます!」

「くそッ! いい加減、ストーカーはやめろよな!」


 イフリートはオリンストに向かって突貫してくる。押されたオリンストは廃棄コロニーの外壁部にぶつかった。そして、イフリートの圧力に外壁は耐えられずに二機は廃棄コロニーの中に入ってしまう。廃棄コロニーの中にはクリーナーによって宇宙の藻屑となった人々の亡骸が今も残っている。それはショウの視界に最低でも二十体、映るほどの量であった。ビルなどの建物は廃墟になっていたがまだ原型をとどめているものが多い。


「こいつッ!」

「今日こそ……今日こそあんたを倒すの! そうしたら私は……私はッ!」


 声が聞こえる。ハスキーな声はイフリートのパイロットで間違いない。


「やめろよ! もう戦うのは!」

「やめたくない……そんなことしたらソウスケが死んじゃうのよ! あんただったら分かるでしょ! 大切なものを守りたい人の気持ちが!」

「分かるさ! でも、俺にだって守りたいものがあるんだよ! だから……俺はお前を殺す!」

「そうね、やっぱりそうなるのね……ま、今日限りの命、ソウスケのために使わせてもらうわ! 私の紅蓮のイフリートで!」


 イフリートはオリンストに体当たりして廃墟ビルに押し倒す。廃墟ビルは音を立てて崩壊する。オリンストはイフリートの両腕を掴み、その手に力を入れた。しかし、イフリートの胸部が光りだすとオリンストはそれを離し、離脱することを優先した。


「くらぇぇぇぇぇ!」

「やられてたまるかッ!」


 オリンストはイフリートの粒子砲を回避するとくるりと縦に回り、イフリートに両手に発生させた光の剣でイフリートに切りかかる。イフリートは両手の刀でそれを受け止めた。そして起こる鍔迫り合い。

 それを跳ね除けたイフリートは地面から立ち上がり飛翔した。オリンストもバーニアを吹かしてイフリートに再び切りかかる。イフリートはそれを姿勢を低くすることで回避。しかし、オリンストの攻撃は止まない。同時にイフリートは反撃を開始する。

 廃棄コロニーでは二機のアテナが互いに螺旋状に交わり、そしてぶつかり合っては引き離されるといった光景が見られた。その二機の機影のあとに発生する弾道。それは螺旋状に交わっている。二機同士、互いに一歩も譲らず接戦を繰り広げている。ぶつかり合うたびに飛び散る火花がそれを証明していた。


「はぁはぁはぁ…………」

「なんで! なんで倒れないのよ、オリンストッ!」

「負けるわけにはいかないんだよ!」

「私だって……今回がラストチャンスなのよ! あんたを八つ裂きにするね! そうしないと、そうしないとソウスケが死んじゃうのよ! 私の……大切な……大切な人なの! だから、私が守らなきゃいけないの!」


 少女の声には涙が混ざっていた。


 大切な人……。俺も守っている。守りたいと思っている。相手もそうなのか? 俺と同じように大切なものを守りながら戦っているのか? 生き延びることは簡単だ。だが、大切なものを守ることは難しい。そんな難しいことをする覚悟が俺にはあるのか?


 螺旋状に交わりぶつかり合う中でショウは一人、葛藤した。


「いぐっ! ふぐぅっ! うがぁぁぁッ! 負けるわけには……負けるわけにはいかないのよォォォォォォォォォォォ!!!」


 少女が苦しむ声。吐血している。


 そこまでして守りたいものが俺にはあるのだろうか? こんなになっても守りたい大切な人って……。俺には……俺には!


「ショウ先輩……」

「大丈夫だ。この一撃で終わらせる。もう何も言うな。戦いの中に私情を入れたら、俺たちは大切なものを失う。必ず……。だから……だからぁぁぁぁぁぁッ! ラグナブレードォォォォォォォォ!」

「ソウスケ……さよなら。私はオリンストを!」


 オリンストは右腕に発生させたラグナブレードでイフリートに突貫する。同時にイフリートも両手の刀を構えてそれをオリンストに突き立てた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

「ソウスケ……さよなら。楽しかったよ」

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