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【Chapter/21 蠢く漆黒の虚空】その1

 アスナは衰弱していた。先の戦いでアスナは原因不明の頭痛に襲われ倒れこんでしまったのだ。自動操縦システムで何とかターミナス級まで帰れたものの現在、アスナの意識は戻っていない。病室でただアスナの手を握っているソウスケ。そこに軍医のスガモが来た。


「少し……いいかな?」

「は、はい」


 スガモはそう言うとソウスケをイスの上に座らせ話し始めた。


「遂に浸食現象が始まったよ……」

「へ?」

「いや、もう始まっていたのかもしれない。アスナはそれを我慢していただけなのかもしれない。いや、そうだろう。多分、ソウスケに心配をかけさせないようにしたかったのだろう……」

「そんな……何とかして進行を止める薬は無いのですか!」


 ソウスケは声を荒げる。


「……止めることはできない。ただ、緩めることができるものはある。『クシュード』と呼ばれる薬だ。ただし、この薬には強い依存症がある。これは本来、ガン治療の為に作られた薬。ガン細胞によって破壊された細胞組織を一時的に再生させる。それがアテナによる細胞異常にも効くということが証明された。まぁ、ガン治療には殆ど使われなかったんだけど」

「それで大丈夫なんですか?」

「ああ、このままだとアテナに乗らずともそのうち死んでしまう。ただし、この薬物も多量に摂取すれば死に至る。しかも、依存症がある。そんじょそこらの麻薬より強い依存性だ。そんな依存症に苦しむアスナを助けられるか? 支えてあげられるか?」

「……それでアスナが死なないので済むのですか?」

「ああ、もうイフリートなんかに乗せなければ助かる見込みはある」

「じゃあ……お願いします」


 ソウスケがそう言うとスガモは無言で奥の部屋に行った。


 助けられるのならば……僕は!




「で、敵は君と同じ存在だったのか?」

「そうよ、キョウジ」


 キョウジはハンガーで寝転がっている渚を見下ろし言った。


「マキナヴをここまで苦戦させるとはな」


 ハンガーではマキナヴの修復作業が続いている。


「ま、月のアレを手に入れれば話は違うんだけどね」

「しかし、こいつらも必死だな。マキナヴだけが最後の望みだと勘違いしていると見える」

「そうね。でも、なんでわざわざ最後の希望をオリンストにぶつけたりしたの? ま、私はそっちのほうが楽しいからいいんだけど」

「オリンストに勝つと思ってた。世間知らずの元老院の老いぼれたちが言った理由。実の所、ただ単にオリンストのコアが君と同じ存在だということを証明したかったんじゃないのか?」

「ふーん」

「そしてオリンストのコアが君と同じ存在だった以上、元老院は全力でオリンストを潰そうとしてくるな」

「マナの再生を邪魔する存在だもんね」


 渚はそう言うと天井の照明から目を離しキョウジに近寄った。


「マナの再生なんてどうでもいいのよ、実際。私はあの時に別れた神奈翔に会えればそれでいいの……でも、翔はマナの再生を望んでいる。だったら私は……」

「作戦に私情をあまり入れるな」

「はいはい、お堅いねぇ」




 アスナは目が覚めた。医務室のベットの上? 違うソウスケの部屋のベットの上だ。目の前には当たり前のようにソウスケがいた。


「よかった……大丈夫か?」

「う、うん」


 アスナの返事は虚ろだ。


「スガモさんから薬がきている。どうやらアスナは病気らしい」

「え? ガン? そんな……」

「早まるなって。ちゃんと治る病気だ。ほら……」


 ソウスケは薬袋の中に入っていたカプセル状に入っているクシュートをアスナに渡した。アスナはそれを手に取りじーっと眺める。


「薬、苦手なんだよね……」

「大丈夫だって。ほら、アスナももう大人だろ?」

「ぐぬぅ……分かったわよ! 飲めばいいんでしょ!」

「おりこうさん」


 そう言うとアスナはそれを飲み込んだ。


「…………気持ちいい」

「へ?」

「もう一個いい?」

「ダメだ!」


 ソウスケは声を荒げた。


「……ごめん、言い過ぎた。でも、ダメなんだ」

「知ってるわよ。私の体がアテナに侵されていることぐらい。私、聞いたんだ、全て。もうすぐ死ぬんでしょ? アテナに乗りすぎると病気になるって知っている。ソウスケみたいにバカじゃないもん、私。不安になっていた」


 アスナはソウスケの胸に顔を沈める。そして流れる涙。


「でもね、でもね……あの薬飲むと嫌なこと全て忘れるんだよね。気持ちいいの。ソウスケが私のことを慰めてくれるようで。その気持ちよさが頂点に達したときに感じる快楽は刹那。だから、もっともっと欲しくなるの。頭がイっちゃうの。気持ちよすぎて……。ははははははは……おかしいよね、おかしいよね、おかしいよね、私」

「……アスナは死なない! 僕が守るよ……」

「あんたに何ができるっていうのよ!」

「アスナを慰めることは……できる!」


 そう言うとソウスケはアスナの顔を自分の前に持っていき、徐々に近かずける。高まる両者の心臓の鼓動。


「……そうす……け」


 二人の唇は重なる。それからしばらく両者は動こうとせずにずっと互いを見つめていた。そして……。


「うんぐッ!」


 アスナはソウスケの舌を噛んだ。ソウスケに激痛が走る。思わずソウスケはアスナの唇を離す。


「っでぇ……」

「なに、他人の口の中に舌入れてんのよ! エッチ、バカ、変態!」

「…………ごめん」


 しゅんとなるソウスケを見てアスナは笑いかける。


「ま、まぁあんたのおかげで気が紛れたわ! 一応、感謝する! ありがちょんまげ!」

「…………」

「うがぁッ! 笑いなさいよぉ!」

「可愛いなぁ」

「むきぃーーーーーーー!」


 アスナは獣化してソウスケに襲い掛かる。


「ででででで! 分かったからもう放せって!」


 そうだ、希望はある。なにも可能性が0%ってことは無いんだ! 勿論、可能性は低いかもしれない。でも、少しでも可能性があるのなら僕はアスナを助けたい。だって、彼女は僕にとって……。


 大切な人だから。

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