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【Chapter/20 ファースト・コンタクト】その3

「くそっ! あまり敵の言うことは聞くな!」

「は、はい……でも! 頭に入ってくるの!」


 沈黙するオリンストにマキナヴは両手のビームで攻撃する。オリンストはそれをAフィールドで防御するが次にマキナヴは接近してきて両腕にビーム刃を発生させてオリンストに切りかかる。


「大したことないわね! ナギサ・グレーデン!」

「操縦しているのはショウ・テンナなんだよ!」


 オリンストはマキナヴのビーム刃を両手に発生させた光の剣で対抗する。二機のアテナは激しい鍔迫り合いを繰り広げている。


「あんた誰よ!」

「俺はただの名門高校の生徒! それ以外なんでもないんだって!」

「こんなヤツに……こんなヤツにィィィィィィィィィィィィ!」


 マキナヴは鍔迫り合いをしている両腕に力を込めてオリンストを吹っ飛ばした。距離を取った二機は刹那の間、睨み合う。そして再びぶつかり合う。


「こいつ!」

「甘い! チョコレートみたいに甘いッ!」


 二機がぶつかり合おうとする瞬間マキナヴは両腕を分離し本体の姿勢を低くしてオリンストの突貫を避ける。隙のできたオリンストは分離したマキナヴの両腕から放たれるビームの直撃を受けた。このままだとやられる! ショウはそう確信する。しかし、この状況をどう打開するか。それは思いつかない。


「と・ど・めッ!」

「ぐっ!」


 マキナヴはオリンストに向かって右腕に発生したビーム刃を振りかざす。しかし、次の瞬間オリンストは左腕にAフィールドを発生させてマキナヴのビーム刃を上方に受け流す。受け流されたマキナヴの右腕。そして、オリンストは懇親の力でマキナヴの鳩尾みぞおちに蹴りを入れた。光の剣を発生させる暇がなかった故の攻撃手段。ダメージこそ少ないものの、これは一種の合図でもあった。反撃開始の合図だ。


「面白い! 面白いよ、ショウ・テンナ!」

「反撃開始だ! ナギサ、大丈夫か?」

「ダメ! 入ってこないで!」


 ナギサの泣き声がショウの耳に届く。


「あなたが気持ち悪い」

「いや、やめて……なんなの! なんで私が二人いるの!」


 オリンストはマキナヴに接近し光の剣で切りかかる。それをマキナヴはビーム刃で対抗。再び鍔迫り合いが起こる。


「もうやめろよ! ナギサが嫌がっているだろ!」

「嫌よ! ナギサが記憶していることを全て知らなきゃ……私が気持ち悪いの! ナギサの感じたこと、触れたこと、見たこと! 同じ存在であっても知らないことがあるってことは罪なのよ!」

「ワケが分からない! お前はただの自己満足でそうしているんだろ!」

「そうよ、そう! だって受け入れられないもの! ナギサを……私自身を! すべて!」

「だけど苦しんでいるんだよ! ナギサはッ!」

「私も苦しい……。宇宙のハザマの影響で生まれたイレギュラーな存在! 私だって苦しんで、苦しんで、苦しんで! でも、気持ちよくなりたいのよ! 私の中に入ってくるナギサを消したときに感じる快感を! だって、敏感だもの、私って!」

「そんな勝手な理由でナギサを苦しめるな!」


 その時、オリンストは白銀のオーラに包まれた。そのオーラはショウの中の何かを覚醒させる。


「ラグナ・ブレード!」


 オリンストはショウの怒りとともにラグナブレードを右腕に発生させてマキナヴに向かって振りかざす。一寸ずれたその刃だったがマキナヴの胸部にかする。手ごたえはないものの徐々にペースを掴めてきたようだ。


「グラディウス・アロー!」


 次にオリンストの左腕にグラディウスアローを発生させ、再び分離したマキナヴの右腕を射抜く。何故か敵の分離した腕の位置がショウの頭の中で見えるのだ。そして反対側にある分離したマキナヴの左腕も右腕のラグナブレードの振りかざした衝撃波で真っ二つに切り裂いた。


「はぁはぁはぁ……も、もう撤退していくのか」


 両腕を失ったマキナヴは撤退してゆく。


「ショウ先輩……」

「安心して、もうアイツは撤退させたから」

「ありがとうございます……敵?」

「マジかよ!」

「あの紅いヤツです!」


 オリンストの目の前にイフリートが向かってきた。しかし、イフリートはオリンストを目視で確認したのに攻撃はしなかった。もう撤退命令が出たのだろうか?


「行きましたね……ふぅ」

「ああ、そうだな。でも……」

「なんですか?」

「あのパイロット、苦しんでいるみたいだった」

「苦しむ? 無傷のはずでしたよ」

「……ま、気がしただけだしな。帰ろう。新しい敵の話もしなきゃいけないし」


 ショウが「新しい敵」と言うとナギサの手は震えだした。


「大丈夫だ。あのパイロットが錯乱していただけだ。気にすんな」

「そうですね……」

「俺はあんなこと信じていない。ナギサがこの世界に二人いるなんて。ありえないよ」

「宇宙のハザマってなんでしょうか?」

「……場所かな? まぁ、そんなこと今は考えるな」


 この果てしなき戦いの終わりはまだ見えない。いったい俺たちは何回戦わなきゃいけないのだろうか? この戦いの結末。そして、俺とナギサがオリンストに乗らずに平和に暮らす時代は本当に訪れるのだろうか? 俺はゴールの見えないマラソンをただひたすら走っているのだろう……。いや、弱音を吐くな、ショウ・テンナ! 俺の知らない所でナギサは苦しんでいるんだ。俺にできることは無いかもしれない。だけど、できることを探すことはできる。見つけなきゃ、俺がナギサにできること……人殺し以外で。


「ナギサ?」


 オリンストは消え、いつものように宇宙の中でダブリス級に回収されるのを待つショウとナギサ。突然、ナギサが涙の粒を流し始めた。


「私……分かりません。自分と同じ存在がこの宇宙にいる理由が。なんで二人いるの? 私、普通の人間だと思ってた。たまたま、オリンストのパイロットに選ばれて、初陣で暴走を起こしたオリンストがたまたま私の中に入って、たまたまアスカさんが死んでそれを継ぐかたちでショウ先輩が私と一緒にオリンストのコアとなったって、思っていました。全てたまたま、なんだと思っていました。この戦いが終わったなら普通の生活に戻れるんだって。でも、違いました。私はこの世界で特別な存在だった。私は世界の中でイレギュラーな存在。そんな人が普通に暮らせるわけがない。一生、私は同じ存在から狙われるでしょう。同じ存在を受け入れられないもう一人の自分に。正直、私も受け入れられません。同じ存在でも肌身に感じたことは同じじゃありませんから……」

「そうだ。でも、ナギサはナギサだ。この世界に一人しかいない。君はナギサ・グレーデン……。例え科学的、道徳的に君と同じ存在がいたとしても、俺の中のナギサは一人だ。優しいナギサだけだ」

「…………」


 ナギサはショウの胸に顔をうずめて号泣した。宇宙の中はとても冷たかった。しかし、暖かい所もある。


 それは私が生きている証拠。手が暖かい、胸が温かい。

【次回予告】

 少女は苦しむ。

 アテナが私の体を蝕んでくる……。

 同じ存在、怖い。怖いよ!

 それは宇宙に潜む痛み。

 次回【Chapter/21 蠢く漆黒の虚空】 

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