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【Chapter/2 ペイン・バック】その1

「ショウをボコボコにした奴はお前か!」


 アスカは小学一年の丸坊主の少年を睨みつけた。夕方の公園、あたりは小学生の野次馬でいっぱいだ。丸坊主の少年は目に青いアザができ膝からは血が出ている。

 泣きじゃくり横たわる少年に小学三年のアスカは更に少年の腹を力いっぱい蹴った。とうとう少年は「ごめんなさいごめんなさい……もう……もうしませ……ん。だから許してくだ……うわぁぁぁぁん! かぁちゃぁぁぁぁぁぁん!」と奇声をあげてアスカから走って逃げた。

 時速四十キロの速さで。


「ショウ大丈夫か?」

「うん……」


 気づけば公園には野次馬はいなくなりアスカとショウだけになっていた。


「お兄ちゃん、ありがとう!」

「なぁに、ショウをいじめる奴なら少年院にも入ってでも仕返しをしてやる! だから心配するな!」


 アスカはガッツポーズをした。


「……僕、弱いよね」

「弱いことのなにが悪い?」

「だって……かっこ悪いし……」

「かっこ悪くても俺はショウのお兄ちゃんだ! だから、お兄ちゃんのように立派な人間になるんだ!」

「僕、正義の味方になれるよね!」

「じゃあ、ショウは『ゴウガンナー弐号機のパイロット』だ! 『ゴウガンナー初号機のパイロット』の俺がピンチの時にかけつけてくれて、一緒に力を合わせて『カッシート星人』を倒すんだ!」

「うん!」


 その日の二人は家に帰ると親の説教を喰らった。しかし、二人は笑顔だ。二人の手は離れなかった。その日……。




 ショウは夢から覚めた。懐かしい匂いのする。


 目の前には見知らぬ天井。

 時計は午前十一時ちょうどを指していた。

 体はどこも痛くなく、至って健全な状態であった。しかし、心の奥底にある《なにか》が欠けていた。

 ただ、残っていたのはシミのついた兄との思い出……。

 送風機による風がショウの体をすり抜ける。その風はヤケに冷たかった。

 ショウはしばらくの間、目を閉じることができなかった。閉じようとしても体がそれに答えてくれない。

 だが、しばらくすると目が閉じられるようになった。そして、ショウは見知らぬ天井を見詰めていた。三十分ほど。

 そうすれば気持ちの整理がつくと思っていた。

 昨日、ショウは意志までは無かったもののオリンストに乗って敵を倒していた。覚えているのはそれだけだ。


「どうです、気分は?」


 ショウの目の前にナギサが現れた。右手にはあの不味いと評判の『栄養クン』がある。


「最悪だよ……なにもかも」


 ショウは顔を両手で隠した。

「でも……あなたは生きています。そうでしょう? 良かったじゃないですか……」

「死んでたら良かったんだ、俺なんか! 兄貴が死ぬ必要なんかなかったんだ! 俺が……俺が生きたって!」


 その瞬間、ナギサの右手がショウの頬を強い力でしばいた。女性に平手打ちをされたのは今回が初めてだ。


 ナギサは冷めた目でショウを睨んだ。


「なんすんだよ!」

「命を捨ててまであなたを助けた、お兄さんの気持ち……分からないの?」

「なに偉そうに説教してるんだよ! 元はと言えばお前がこんな所に来たからだろ? お前さえいなければ良かったんだ!」


 ショウがそう言うとナギサは目を逸らした。


「なんとか言えよ!」

「……」

「おい! 謝れよ! 兄貴に謝れよ!」

「死んだ人には謝れないです……」

「なに理屈……ほざいてんだよ!」


 ショウはナギサの右の頬に平手でビンタをした。音は静かな病室に響く。


「ごめんなさい……わたし」


 ナギサは赤く腫れた頬を手で隠しながら早足で病室から出た。瞳にはかすかに涙が滲んでいる。

 ショウはそのまま床に跪き大粒の涙を流した。

 兄が帰ってこないのは分かっている。だけど、その悲しみを……その怒りを……どこにぶつければ良いのショウは分からなかった。


 ただ、他人を傷つけることしかできなかったのだ。今の彼には。




 クラウドは目の前で起こったことが未だに信じられていなかった。


 今からおよそ十五時間前、クラウドの予想通り目標は姿を現した。クラウドは作戦どおり全艦による一斉射撃をおこなった。

 そして、クラウドは煙に包まれた巨人を見て勝利を確信した。

また、クラウドの軍服に白星がつくと……。

 しかし、巨人はかすり傷一つ無い。白銀に輝くその姿。それはまさにファンタジー映画を見ているかのような感覚なってしまいそうだった。

 そして、巨人の胸部が光り始めた。目が痛くなるほどの明るさで。

 他の艦にも退避命令を出した。しかし、もう遅かった。

 粒子砲に似た……いや、それ以上の威力(光の強さで分かる)がある光線が他の二艦を飲み込んだ。間一髪それを避けたクラウドの艦は宇宙空間へ緊急離脱を開始した。

 動く気配のない巨人はただ、空を見ていた。いつしか白銀の輝きも消えている。

 まるで巨人は自我を持った生き物のような……いや、錯覚だ。

 クラウドは巨人を見下ろしながら自問自答をした。


 そして現在。


「補給はまだか?」


 クラウドは乾いた声で近くの乗員に聞いた。昨日から一睡もしていないクラウドの目は真っ赤に染まっていた。

 この艦は重力圏仕様の為、宇宙空間での活動はかなり制限される。艦内の揺れも尋常ではない。船酔いで医務室に運ばれた者もいた。

 いつしか、司令部からくる作戦の内容も変わっていた。『都市の軍事施設にに身を潜めている諸国連合の新型艦の撃破』……それが司令部からきた作戦の概要だ。

 無論、クラウドにはその作戦の目的がなんであるかは分かっていた。目標は《敵の新型艦》だ。しかし、あの巨人は再び現れる。クラウドはそう確信していた。

 巨人との戦いはまだ終わっていない。

 クラウドの率いる艦は一隻のみだ。しかし、援軍に重力圏仕様の駆逐艦が二隻、宇宙空間仕様の駆逐艦『グリムゾン級』が七隻が援軍にきてくれた。

 十分すぎる戦力。

 目標をクラウドの艦隊で宇宙空間までおびき寄せそこで待ち構えている七隻のグリムゾン級で集中砲火をし、撃墜させる。それが今回の作戦だ。あの巨人が出てくる前にあの巨人の母艦と推測される目標を落す。

 敵がどんなものであってもこれにはかなうまい。クラウドは軍服に付いている勲章の数を確認した。三つだ。

 それも今日で四つになる。


「今から七時間後、作戦を開始する!」


 艦内にクラウドの号令が響いた。

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