【Chapter/19 消滅都市】その2
「くるッ!」
ガレスは再び突貫してきた。オリンストはそれを避けようとするが大きな翼によって押出されて地に手をつく。そして、ガレスの機影は完全に消える。四方をビルで囲まれた地形はオリンストにとって不利であった。十字路の交差点。普段は自動車や人々で溢れかえっている場所も今はオリンストという巨体がただ一つあるのみだ。
「敵は……」
「六時の方向からです!」
オリンストが振り向いたときにはもう時すでに遅し。ガレスは両翼にビーム刃を発生させこちらに向かってくる。その両翼でガレスが通った後のビルは崩れ始める。その粉塵で見えなくなった視界からガレスの顔面がオリンストの目の前に現れる。そして、ガレスの口部は粒子砲を放つ。オリンストは姿勢を低くして避ける。再びオリンストが振り向いてもガレスの機影は消えていた。
「敵の位置は?」
「分かりません……ただ、オリンストの周りを高速で移動している模様です」
「それなら!」
オリンストは胸部を開き粒子砲を前方に放つ。そして、オリンストの体は時計回りに回る。それと同時に粒子砲もオリンストを中心に全てを焼き尽くす。そこには非難し遅れた人々や怪我をした人々もいた。しかし、オリンストの粒子砲はそれに構わず焼き尽くす。そして、それは周りを高速で移動しているガレスにも直撃する。ガレスは片翼を溶解され撤退してゆく。
「ショウ先輩! まだ、人が……」
「言っただろ……何かを守るには代償が必要だって!」
オリンストは撤退してゆくガレスを確認したらダブリス級がある場所に向かった。ダブリス級とヴァルキリー級はともに敵の集中砲火を受けている。後方のレウス級も何隻かは落ちていた。オリンストはヴァルキリー級をAフィールドで守りながら回線を開いた。
「ミウさん! ドッキングしてください!」
「ええ、分かったわ! ヴァルキリー級、ドッキングモードの移行!」
「はいさ! 全ソリッドプログラムをドッキングモードに移行。ソリッドYМ―0028―79異常なし! オッケーだよぅー」
「艦内重力正常! ポイント・チャーリ―H―57368に本艦を固定。オリンスト、信号受け付けました!」
オリンストの凸の部分とヴァルキリー級の凹の部分が結合しドッキングは成功した。
「ドッキング完了だよー」
オリンストはグリムゾン級が放ってくるミサイル郡をホーミングレーザーで全て補足し、そして相殺させる。ダブリス級とオリンストの周りには目視でも三十隻の敵艦がいた。しかし、オリンストの性能の前では無意味だ。
「ミウちゃん! ちゅもく!」
「なに? エミル」
ミウの目の前のモニターにあるデーターが映し出される。それは……。
「ヤバいわ! ダブリス級に回線を開いて! 大きいのがくるわ!」
予想通りではあった。しかし、ルーベリッヒとっては少々、物足りないものだ。ルーベリッヒは艦長席で腕を組みながらその様子を見守っていた。オリンストを都市部にまでおびき寄せたのは成功した。しかし、予想外に早くガレスを追い払われてしまう。それが物足りない理由だ。オリンストが高性能だからか?
否。ガレスのパイロットが無能だからだ。
「艦長、ガレスの高圧装填形圧縮粒子砲の発射準備が完了しました!」
「今すぐ撃て! 敵はこちらに向かっている」
現在、ルーベリッヒのいるグリムゾン級を中心とする艦隊はエウロパの大気圏外にいる。ざっと七隻ほどであろうか。全ての艦がガレスにエネルギーを送っている。絡まりそうなガレスとグリムゾン級を結ぶコードの長さは果てしない。
「発射まであと5、4、3」
ルーベリッヒの顔が少しにやける。
「2、1……発射!」
ガレスの胸部から凄まじい威力の粒子砲がダブリス級に向けて放たれる。
勝った……。これで司令部に合わす顔ができる!
「Aフィールドを展開! 後方のレウス級もヴァルキリー級の後方に隠れて!」
ミウはそう叫んだ。オリンストは巨大なAフィールドを展開する。前方のダブリス級の同じくAフィールドを展開した。そして、ガヘリスの粒子砲が放たれる。しかし、Aフィールドを展開していたダブリス級とオリンスト、それにヴァルキリー級の後方にいたレウス級五隻は無事であった。
「次が来るわ!」
「ミウさん! 俺が直接あの粒子砲の主を倒しに行きます!」
ショウはそう言うと返事も聞かずにガヘリスのいる大気圏外を目指してバーニアを吹かした。オリンストとガヘリスの距離が後、一キロメートルほどとなったときガヘリスの胸部が再び開く。
「無理です先輩!」
「グラディウス・アロー!」
オリンストは左手に発生したグラディウスアローをガヘリスに向けて構える。狙いは胸部だ。そして、矢を放つ。矢はガヘリスの胸部を見事、貫きそこから火が噴き出る。
「ラグナ・ブレード!」
オリンストは右手のラグナブレードでガヘリスを顔面から脚部までにかけて真っ二つにした。ガヘリスは爆発。周りにいたグリムゾン級も撤退してゆく。
「逃がすかよ!」
オリンストは撤退するグリムゾン級をホーミングレーザーを放ち二隻落とす。次に五百メートル先の敵艦をラグナブレードで横から真っ二つに切り裂く。そして、執拗にミサイルを撃ち込んでくる後方の敵艦にはグラディウスアローで貫く。内部から膨張し爆発。
「はぁはぁはぁ……」
ショウは興奮状態から通常の心理状態に戻ったのか息が荒い。
「ショウ先輩! 逃げる敵を倒すことないじゃないですか!」
「俺が落とした五隻で中枢帝国の戦力は少なからず削れた」
「でも、あそこには何十人もの人が……」
「あの五隻を残していただけで何人の諸国連合の軍人の命が助かったと思っているんだよ。もっと物事を冷静に考えてくれ。俺だって人を殺したくなんかないさ。戦争はいけないことだって学校でいつも言われてた……だけど、いけないことをしないと俺たちを大切なものを守れないんだ。今はそういう時代だ。戦争をすることは生き残るためにするんだ」
「でも、なにか方法があったはずです!」
「その方法が見つかるまで……俺は戦争をする。大切なものを守るために」
ショウとナギサは宇宙空間の無重力に流されるがままだ。