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【Chapter/17 生きるもの←→眠るもの】その3

「オリンストの調子はどうだったか?」

「動きが単純。それだけだ。所詮、子供の操縦しているおもちゃ……私のマスティマが相手をするようなものではない。しかし、特別な存在だ」


 キョウジはコックピットの中の回線でアルベガスと話していた。彼はエルヴィス財団に雇われた傭兵だ。とは言っても彼はただの傭兵ではない。彼はアテナのコアである。


―――黒金のマスティマ―――


 マスティマの漆黒のボディーには金色のラインが引いてあり、その頭からは紅い鬣が出ている。その背中には大きなリングがついている。その鋭く赤い目は暗黒の宇宙を照らす。


「引き続き、オリンストの動きを監視しておくように……」

「なんでオリンストを守るように指示したのですか?」

「保険だよ。オリンストはいざとなれば我々が奪取し『マナの再生』に使う。万が一、祖が中枢帝国によって潰された場合の話だ」

「左様ですか」

「まぁ、君ももうすぐ中枢帝国の奴らに雇われるだろう。その時は……」

「潰れない程度に戦う」

「頼むぞ……」


 回線は切れた。


「予定通り……か」


 マスティマは紅い鬣を靡かせその場を後にした。




 あの時、俺は人を殺した。今でも手に残るその感触。まるで人の胸にナイフを突き刺す、という感触に俺は……。


 怖い。それに慣れていってしまう俺に。


 ショウは苦悩している。今、彼がいるのは自分の部屋だ。そこが一番落ち着く。誰もいないのがいい。好き勝手に苦悩できる。そんな場所だ。


「俺は……」


 ショウの呟きに天井は答えてくれない。


「ナギサちゃーん!」

「わ、エミルちゃん?」


 部屋に入ってきたのはナギサ、それにくっついて離れないエミルだった。


「ナギサ?」

「このエミルちゃんをなんとかしてください!」

「邪険に扱うのー?」

「エミルちゃん、ごめんね、私仕事があるから!」

「ナギサに仕事なんてあったっけ?」


 痛いところをつくショウにナギサは「ぎっく……ま、まぁいいじゃないですか!」は言うが、ショウは疑い目を細める。エミルは不思議そうにナギサを見つめていた。


「異性にキョーミはありませんよぅ……」

「じゃ、じゃあ、これをミウさんに届けてください!」


 ナギサは手に持っていた弁当箱をショウに渡した。


「え? そ、それは……」

「私が渡す予定だったのですが……お願いします!」

「……でもなぁ」

「これからショウ先輩のことショウ変態って呼びますよ!」

「ぐぅ……分かりまし……った!」

「ありがとうございますー」

「じゃあ、ナギサちゃん! サユリちゃんのところに遊びに行こうねー」

「いいですよ」

「わーい! 可愛い天国だぁ!」


 天国だとッ! 百合かッ!


 ショウが心の中でツッコミを入れている間にナギサたちの影は一瞬にして消えていた。は、早い!


「……またパシられたよ」


 仕方が無いのでショウはミウの元に向かうことにした。面倒くさいがすっぽかしたらまたナギサに『ショウ変態』と呼ばれてしまう。あれは一種の脅迫だ。


「えーっと、ここがミウさんの部屋か……普通だな」


 そして、ドアをショウは開ける。


「んーあ、ショウ君?」


 ミウは普段見せないラフな格好だ。


「これ、ナギサがミウさんに渡しとけって言われたんで……」

「あーケーキね。サンキュッ!」

「ケーキ?」

「ええそうよ。ナギサちゃんて結構、料理上手いんだって。どう一緒に食べる?」

「いえいえ、俺にくれたんじゃないですし……」

「いいじゃないの。それにショウ君に話あるし」

「え? なんですか?」

「オリンストのこと。司令部には秘密にしろって言われてたんだけどね。でも、オリンストに乗っているショウ君が知らないっていうのもおかしいし……」

「じゃ、じゃあ……」


 ショウはミウの部屋にあるイスに腰掛けた。ミウの部屋は整理整頓がきっちりしている。それに真っ白な壁はこの艦が新品であるということを納得させるほど清潔感にあふれていた。


「まず、この艦のことについてね……」


 ミウは一度だけケーキを口に運ぶと本題に入った。


「ヴァルキリー級はオリンストとともに発見されたの、月でね。そのころはまだ戦艦の形をしていなかったんだけど、後に運搬の問題もあって戦艦になったの」

「そうなんですか……」

「で、ナギサの方よ。ナギサは十年前、月でオリンストが発掘された時にコックピットの中で冷凍保存されていたの。しかも、今と同じ姿で」

「つまり……どういうことですか?」

「ナギサは歳をとってないの。発券された時の記憶は自分が五歳であること。それだけ。でも、体つきは今と同じ。少しも変わっていない。だけど、不幸なことに彼女はそれに気づいていないの。何故かは知らないけど……」

「…………」

「オリンストの動力部についてよ。オリンストの動力部は『結晶石』と呼ばれる手のひらサイズの石。そこから電気信号を全身に送って動いている。分かるのはそれだけ。他は科学が証明できない範囲だわ。その石はまるで科学者殺しとまで呼ばれて学会を驚かせたらしいわね。結晶石がこの世の原理に反するものということは確かだけど。ま、それぐらいね」

「なんで俺にそんなことを教えてくれたのですか?」

「んーあなたはオリンストのこと。いいえ、ナギサちゃんのことを知らないといけない義務があるの。今後、ナギサちゃんは苦悩すると思うわ。自分の存在に……。その時に支えになってあげてほしいの。それだけ」

「そう……ですか」

「じゃ、食べましょ!」


 ミウがそう言うとショウもケーキを口に運んだ。それは甘かった、かなり。

【次回予告】

 遂にショウたちはエウロパに到着した。

 そして、戦士たちはそこで羽を休める。

 しかし、それは刹那。

 それは休日……。

 次回【Chapter/18 エウロパの休日】

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