【Chapter/16 決意=破滅】その1
あれは現実だったのだろうか?
ソウスケは自室で一人、机を前に頭を抱えていた。未だに信じられない。この時代にもなっ
てあのような死の兵器を造り出すなんて……。試作量産型アテナ。それは不完全なアテナだ。 性能にはなんら問題はない。不完全な部分はそこではない。それは……。
不安定な遺伝子が搭乗者の遺伝子に介入してくることだ。つまり遺伝子の崩壊が起こるということ。浸食現象だ。問題はその進行の速さ。
通常のアテナなら徐々に進行してくるものだ。しかし、試作量産型アテナは人間との遺伝子の違いが激しく乗った時点でもうアテナと一体化している。その繋がりを無理矢理断ち切った場合、搭乗者の遺伝子はその負荷に耐え切れずに内側から膨張、破裂する。
とはいえ、そのままアテナに乗せておくとアテナの方が使い物にならなくなる。綺麗な形をした鉄屑に変わってしまうのだ。
「ソウスケ……?」
ソウスケのベッドに気を失って眠っていたアスナが目を覚ました。あの惨事の後、半日間ずっと眠っていたのだ。よほどショックが大きかったのだろう。
僕か? 勿論、あの時はびっくりした。だけど僕は軍人だ。そのようなものは軍事学校のときに散々、見させられたから。
「ん、ごめん。いつも助けられてばかりで……奴隷に」
「いいんだよ。誰でもあんなもの見させられたら気でも失う。心臓麻痺で死ななかったよりはマシさ」
「ソウスケって強いよ」
「へ?」
「だって、あんなもの見ても冷静に私のことを守ってくれるなんて」
「…………ああいうなものはたくさん見れば慣れるんだよ。感覚が麻痺する。死んだ人間の血を見てもそれを無機的なものにしかとらえられない。そんなことになれる人間なんて強くない。本当に強いのはアスナだ」
「そんなこと……」
「クラウドさんも言ってたよ」
アスナがそう言うとソウスケはアスナに近づき、両肩を持った。
「アスナは強いよ。僕なんかよりも」
「ありがと……て、奴隷なんかに言われても嬉しくなんかないわよ!」
「ふふふ……」
「なにがおかしいのよ!」
「いやぁ、素直じゃないなぁって」
「うがぁぁぁぁ!」
アスナはソウスケを両手でどつきまわす。いつものように暴れまわる元気なアスナに戻った。ソウスケは少し元気が出た。少しだけではない大分だ。
「じゃっ、仕事あるから!」
そう言うとソウスケはターミナス級の艦橋の方に向かった。どうしてもここの艦長に聞きたいことがあったのだ。
廊下を出て船内にあるリニア(船内が大きすぎる為、これで移動する)で艦橋のある場所に向かう。リニアといっても三つしか駅がない。さほど時間はかからなかった。そして、艦橋に入り、奥にいる艦長らしき人物に話しかける。
「あなたがルーベリッヒ・クロウズ大佐ですか?」
「君は?」
そのルーベリッヒはまだ三十代ほどの男性だった。
「一番艦のサヴァイヴ級の艦長、ソウスケ・クサカ中尉であります」
「おお、君が若干、十八歳で一隻の艦長を任されたってやつか。君の戦果は聞いている。敵の新型アテナに負けっぱなしらしいな」
「は、はぁ」
皮肉を言いやがった!
「で、要件はなんだ?」
「試作量産型アテナの運用に関してなんですが」
「なんだ言ってみろ」
「はい。現在、三機の試作量産型アテナが配備されております。しかし、どれも運用には多大なリスクが伴います。使用を控えたほうが……」
「リスクとは?」
「搭乗者が死ぬことです」
「なるほど、それに関しては大丈夫だ。搭乗者は現在、二十一人のパイロット候補がいる。心配は要らんよ」
「そういう問題ではなく!」
ソウスケは声を荒げた。周りで仕事をしているオペレーターたちもびっくりしこちらに顔を向ける。
「ソウスケ中尉、君は期待はずれだよ。軍学校の頃に天才的な才能を発揮し、そこから拾われた。少しは期待していたというのに……。君は軍人ではない。君は甘ったれた考えを持つ愚者だ」
「しかし! パイロット候補は全員、僕より歳が下なんですよ!」
「搭乗者に人権はない。皆、貧しい地域の孤児院から持ってきた物だ。その時からあれらの存在は物だ。いくら人格があろうと試作量産型アテナの一パーツにしか過ぎないのだよ。さぁ、出て行ってくれ」
それを聞いたソウスケは無言でその場を後にしようとした。右手に力を入れながら。
「ソウスケ中尉!」
「はい?」
「出て行くときに上司に言う言葉は?」
「…………失礼します」
ソウスケは更に右手に力を入れた。