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【Chapter/1 白銀のオリンスト】その3

「大丈夫?」


 ショウはベットに横たわる黒髪の少女に話しかけた。

 少女が目覚めた所は仮設ベットの上だ。寝心地は最悪だがそれでも少女の体の痛みはマシになっている。周りには少女より重症の患者が時折、うめき声を出したり泣き叫んでいる。

 どうやらここは間に合わせの救急医療センターになっているらしい。


「だれ……ですか?」

「ショウ・テンナ。学生さ」


 ショウは少女を安心させる為、少し大げさな笑顔を作った。


「私はなんでこんな所に……?」

「それは知らないけど……君が倒れていたところを俺と兄貴が助けたんだ。傷……痛む?」

「んん、大丈夫です」


 少女は弱々しくも笑顔で答えた。あらためて少女の顔を見たショウは少しの時間、少女に見入った。着ている服はどこかの制服だろうか? 青いラインの入った白色のブレザーにミニスカート。軍服にも見えないではなかったがこんな派手な軍服は無い・・・・・・はず。

 少女は少し背が低く、素肌は蝋人形のように白く、腰ぐらいまである流れるような黒髪……しかし、あまり幼さは残しておらず大人の匂いを体中から出している。ショウは匂いに弱いタイプなのでそう感じた。少なくとも中学生にはとても見えなかった。高校生だろうか?


「すみません、こんなに迷惑かけてしまって……」

「いいですよ。人助けは好きな方ですし……」


 しかし、ショウはけっして老人に席を譲ったりするような好青年ではない。


「あなたの名前は?」

「ナギサ……ナギサ・グレーデンです」

「ナギサかぁ……いい名前ですね」


 ショウがそう言うとナギサはショウとは逆方向に顔を向けた。ウザがられているのか? それとも照れ隠しなのか? おそらくは後者だろう。勿論、ショウも後者だと思っていた。


「ショウ、食べ物持ってきたぞ」


 遠くでアスカが叫んでいる。


「ありがとう……ナギサさん、ちょっと待っててね」


 そうショウは言うと人混みを掻き分け、アスカのいる方向に走っていった。


「こういうの映画の中だけだと思っていたよ。この調子だと怪獣も出てくるね。間違いない……」


 ナギサのおかげで少し余裕を持てたショウは軽いジョークをアスカに言った。アスカはくすくすと笑う。


「ほら飲んでおけ、これはあの少女の……」

「ナギサさんに?」

「なんだ、目を覚ましたのか……」

「じゃあ、持って行くよ」


 食べ物と言っても味気の無いゼリー状のものだ。飲み物のように吸って食べる。体に必要な栄養分は補えるが不味い。それにつきる。『栄養クン』それがその飲み物の名称(蔑称)だ。


「ナギサさん、飲んでください」

「ありがとう……ございます」


 ナギサはそう言うとショウから手渡された『栄養クン』を口に運んだ。


「おいしいです!」

「……」


 これをおいしいと感じるナギサの味覚が正常でないと判断したショウであったが、間が三秒ほど続いた後「そうですか……」と一言だけ返すことにした。

 その時、大きな爆発音とともに遠くの方の仮設テントが爆風で吹き飛んだ。なにが起こったのかショウには分からなかったが人々は口を揃えて「空爆だ!」と叫んでいる。それだけはショウにも分かった。




「ショウ、早くしろ!」

「ごめん」


 ショウたちは瓦礫を踏みながら必死に走って逃げていた。今度は空爆から。もうなにが敵でなにが味方なのかが分からない。

もうすぐすれば味方の軍隊が来るであろう。それまでの辛抱だ。

 アスカが背負っているナギサも恐怖の為か目をつぶっている。


「地下に逃げるぞ。あそこなら空爆から逃れられるかもしれ……いや、逃れられる!」


 アスカは地下鉄への階段を降りていった。ショウもそれについて行く。階段には瓦礫があり、砂埃のせいで前がよく見えなかった。しかし、それを危険とは誰も思わなかった。すでに《空爆》という危険に晒されているからだ。


「たく……巨人がここにきてからロクなことが起こらないな……」


 完全に機能停止した改札の上に腰掛けたアスカは深いため息をした。ここまでで一番苦労したのはアスカだ。足に怪我を負いながらもナギサを抱えて必死に走っていた。ショウは兄のことを見直し……いや、尊敬できる兄だと再確認をしたのだ。

 もとから兄が優しいのは分かっていた。ショウから売った喧嘩を買ったガキ大将にショウはコテンパンにされた事があった。小学校一年の頃だ。そんな時、兄はそのガキ大将(小学校一年)に怪我を負わせた。弟の仕返しだ。その頃から兄の事を尊敬してきた。しかし、次第に大きくなってゆく兄との差、それが嫌だっただけなのだ。


「巨人……?」


 ナギサがそういった瞬間、ショウの目の前の天井が抜け落ちた。爆発音とともに。そのせいで地下からの脱出は不可能となった。このままだと三人揃ってコンクリートの下敷きだ。


「アスカさん!」

「なんだ?」

「私と契約してください! そして……あの巨人に乗って奴らを倒してください! それしか方法はありません!」


 契約……? 一瞬、ナギサの言っていることが分からなかったアスカだが、すぐに事態を飲み込み「ああ」と答えた。

 あんな巨人がこの世に存在していること自体がありえないのだ。つい一時間前までは……。ありえなかった事がありえたのだ。こんな展開もアリだろう。今はナギサの言っていることを信じなければならない。


 バカと罵られようとも信じるしかない!

 二人ともそう思ったのだ。


「なら私の左手とあなたの右手を重ねてください!」

「それでいいんだな……ショウすぐに助けにいく。それまでここで待ってろ!」


 ショウは内心、アスカを羨ましくも思っていた。こんな展開の主人公になれる兄が。


(結局、俺は兄貴の二番手なのか……)


 その時、また天井が抜け落ちてきた。そこはショウの真上だ。死を確信したショウだったが間一髪アスカに助けられた。今日で二回目だ。


「大丈夫?」


 ショウはアスカの方に振り向き、乾いた声でアスカに話しかけた。しかし、アスカの胸からは鮮血の液体が流れていた。前とは比べ物にならないぐらいの量の血が吹き出るように地面に向かって落ちている。背中から胸にかけて鉄骨が刺さっていたのだ。


「すまない……な。めん……ど……うかけてしま……て」


 閉じそうな虚ろな目を必死に開けアスカは言った。


「お前、昔ロボットアニメに憧れてい……ただろ。あんな風に戦えば良いんだよ。多分……。心配……するな……どうやら……俺は主人公じゃなかったようだな。だけどこういう役も悪くは……。《主人公を庇って死ぬ》ってカッコいいじゃん」


「兄貴! 死なないでよ! 俺まだ兄貴に謝れてないんだよ……だから、だからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「お前は空を翔けろ……このでっかい宇宙を……」


 横たわったアスカをただ必死に抱いてうつむくショウ。瞳からは涙の一滴もありはしない。ただ、憎しみの深い闇。それだけが映っていた。


「ナギサ……契約するよ」

「はい……わかりました。手を……」


 ショウは顔を両手で覆い隠し、その後ナギサの手に自分の手を重ね……いや、握った。爪が食い込むぐらい。ショウの血で染まった顔を見たナギサは戦慄を覚えた。それは鬼神の顔だ。憎しみで満たされた鬼神……。


―――白銀のオリンスト―――


それがショウの頭に浮かんだ。そして叫んだ。


「オリンストォォォォォォォォォ!」


 それは憎しみをも凌駕した叫び。その叫びは目覚めさせた。

 彼の中にある鬼神を……。

【次回予告】

 少年は目覚めた。

 夢だったのか? いや、違う。

 兄の死はやがて少年を苦しめる要となるのであった。

 少年の苦悩はやがて一つの《戦う訳》となる……。

 次回【Chapter/2 ペイン・バック】

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