表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/146

【Chapter/15 風と焔と雷、そして……】その3

「くそっ!」


 ショウは舌打ちをした。現在、オリンストは三対一という劣勢である。中々、攻撃に戻れずにいた。このような状況でもナギサは冷静にサポートしてくれている。ショウにとっては有難いことだ。


「先輩、後ろ!」

「分かった!」


 オリンストの背後からガレスが突貫してくる。その大きな翼から発生している赤い光の剣はオリンストの腰を切り裂く。続いてアグラヴァイの大剣がオリンストに襲い掛かってくる。しかし、同じ敵であるはずのガへリスの粒子砲が二体の間を通り抜け、その勢いはなくなりアグラヴァイはオリンストと距離を取らなければならなくなった。


「こいつら……まるでチームワークがとれてない」

「こちららにとっては好都合ですね」


 オリンストはホーミングレーザーをガヘリスに向かって発射し、その砲撃を一時的に止めた。そして、再び突貫してくるガレスを右手に発生させた光の剣で切り払い足の先端にある爪を切り裂いた。


「こいつっ!」


 オリンストに襲い掛かるアグラヴァイの大剣。それをオリンストは左手に発生させた光の剣で受け止める。


「あぁぁっぁぁっぁぁぁっぁ!」


 一瞬、ショウの頭の中に叫び声が入ってきた。その叫び声は狂気と恐怖の紅色あかいろに染まっている。アグラヴァイの方からその声は聞こえた。その声はショウと同い年ぐらいの少女の声だ。


「殺してやる殺してやる殺してやる!」

「やめろよ! もういい加減にしろよ!」


 しかし、アグラヴァイはショウの呼びかけには答えずにオリンストを大剣で吹っ飛ばす。そして、ガヘリスの粒子砲が飛んでくる。間一髪、避けたオリンストはガヘリスに向かって胸部から粒子砲を放った。


「くるなぁ! 俺は死にたくないんだぁぁぁぁぁぁ! 怖い……死ぬのが! でも、どうなろうと死ぬのは同じなんだ!」


 またもや声が聞こえてきた。今度は十四歳ぐらいの少年の声。ガヘリスの方からだ。


「だから……道連れなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 ガヘリスの砲身がオリンストに伸びる。そこから放たれた巨大ミサイル。その巨大ミサイルの側面から無数の小型のミサイルがオリンストを襲う。一方のガヘリスだが、オリンストの放った粒子砲をもろに受け装甲は焼け爛れた。しかし、まだ十分動ける。


「くそっ! こいつまだッ!」


 ガヘリスの背中に装備されているミサイルがオリンストに向かって放たれた。それをオリンストはAフィールドで防ぐ。次に突貫してきたガレスを避ける。


「ショウ君! ヴァルキリー級とドッキングして!」


 通信機からミウの声がショウに聞こえる。オリンストの後方に現れたのはヴァルキリー級だ。


「ドッキング?」

「そうよ! 実はこの艦はオリンストの強化パーツを装備しているの。説明は後よ! さぁ早く!」

「でもどうすれば……」

「このままの位置にいて! それだけでいいわ!」


 しかし、オリンストはガヘリスの砲撃を受けて徐々に後退している。ヴァルキリー級はミサイルで弾幕を張り、敵のアテナを寄せ付けていない。


「ドッキング用意! いいわね!」

「はいさ! 全ソリッドプログラムをドッキングモードに移行。ソリッドYМ―0028―79異常なし! オッケーだよー」


 エミルは暢気にそう言った。


「艦内重力正常! ポイントα―G―5712に本艦を固定。オリンスト、信号受け付けました!」


 アリューンはエミルと違い真面目だ。


「ドッキング!」


 ヴァルキリー級の先端部分は二つに割れ、そこにオリンストが吸い込まれていく。割れた二つの先端部分に格納されていた持ち手が現れ、そこにオリンストは両手をかける。そして、オリンストの背中に凸の接続口が露出し、ヴァルキリー級の凹の接続口にはまった。その瞬間、オリンストの全身に青色のラインが入り、そして消える。


「ドッキングかんりょーだよ!」


 エミルの緊張感のない声でオリンストとヴァルキリー級のドッキングは成功した。


「気分はどうですか?」

「背中が重いよ、ナギサ。でもこれなら!」


 ヴァルキリー級の各部が展開しそこからホーミングレーザーの発射口が現れた。そして放たれる。ホーミングレーザーはガレスの翼の各部に当たりガレスは本来あるはずの《速さ》を失ってしまった。同様にアグラヴァイの各部に当たり、ガヘリスの砲台にも当たりそれを使えないようにしてしまう。


「やった……のか?」

「やった……のですね」


 敵のアテナは三機とも一瞬、動きが止まりそして撤退してゆく。あの執拗な攻撃の割にはあっさりとしている。疑問を覚えるショウだが、今は戦いの終わった戦場をただ見つめることしかできない。


 その見つめる先にはダブリス級があった。




「ソウスケ……ごめん。また目標を倒せなくって」

「いいんだよ。生きてさえいれば」


 そう言うとソウスケはアスナの頭を撫でた。アスナはそれをされると俯き、カァーっと顔を真っ赤にしてソウスケに蹴りを入れる。彼女のパイロットスーツは汗でびっしょり濡れていた。


「ソウスケ! せっかく新しい艦に行ったんだから冒険しようよ!」

「ん……シャワー浴びてからでも遅くはないでしょ?」

「嫌!」


 アスナは頬を膨らませて言った。ここは試作量産型アテナを収納するために建造された巨大戦艦だ。名前はターミナス級。全長二千メートルもの大きさ。そこの横っ腹にサヴァイヴ級二隻とグリムゾン級三隻がぴったりついているという感じだ。


 まるでチョウチンアンコウみたいだな……。


「分かったよ。じゃあ、少しだけだぞ」

「ありがとっ!」


 そう言うとアスナはアグラヴァイとガヘリスが格納されているハンガーに向かった。そこはかなり広い。敵の攻撃を受けたのか各部に整備班が取り付いて修理を行っている。


「向こうのパイロットも大変のようね……。ちょっと挨拶しに行ってくる!」

「走るなよ……整備班の人たちに怒られるぞ」

「いいのいいの!」

「ったく。ん? あれはなんだ?」


 ソウスケが見たのはガヘリスの方からこちらに来るタンカーだった。そこには人が乗っていた。嫌な予感のしたソウスケだがそれを直視しようとする。空調の風で顔にかかっていた布がひらりと捲れる。

 十四歳ぐらいの幼さの残る少年の顔だった。だが、しかし……。


「すみませーん。このアテナのパイロットは……」


 アスナはアグラヴァイのコックピットの近くに行ってそう言った。そこには白衣を着た医者が二人、軍服を着た男性が三人、そして誰も乗っていないタンカーが一台。その奥にはコックピットの蹲る少女の姿があった。少女は十六歳ぐらいで男の子のようなショートカットが特徴のごく普通の体育会系の女の子。


「嫌! プラグを外さないで! 外したら私の体が!」


 少女は背中に刺さっている接続プラグを外すのを拒んでいる。接続プラグはアテナとコアを結ぶ役割のもの。のはず。


「やめなさい! もう君の役目は終わった。安らかに眠りなさい!」

「嫌、イヤ、いやァァァァァ!」


 それを聞いたアスナはオリンストに殺されそうになった時のことを思い出し、いやな感じになった。

 男性の差し伸べる手を少女は振り払う。見かねた男性たちは少女の両腕を掴み、身動きの取れなくなったところで接続プラグを外した。

 その瞬間、少女の胸が段々、膨れ上がってきた。現実ではありえないほどに。パイロットスーツも耐え切れずビリビリと破れる。胸だけではない。目の下や頬、腕、足も膨れ上がった。


「……ありがとう」


 少女は何かを悟ったかのよう笑顔を造った。


「見るなッ!」


 ソウスケはアスナに駆け寄よろうと走っている。しかし、間に合いそうもない。アスナはただ、その光景を見つめていた。

 少女の端正な顔立ちは跡形もなく崩れていっていた。そして、弾けた。少女の体が。胸や、顔や腕や足が……。飛び散る鮮血。近くにいた男性たちの軍服は血に染まる。コックピットの中には少女の血、血、血、血、血、血、血。そして、かろうじて原型をとどめている少女の体のカタチと顔。


 しかし、顔の右半分だけは笑っていた。何かに満足しているかのように。


「あ……」


 アスナは腰が抜けて動けない。ここまで凄惨な現場を十四歳のアスナが見たことがあるだろうか? ただただ、アスナはその光景から目を背けたかった。しかし、彼女の顔は動こうとしない。恐怖のせいで。

 ソウスケは急いでアスナの両目を両手で隠した。

 なにが起こったのか分からない。原理も不明。プロセスも不明。ただ、これだけは言える。

 これは夢ではない。現実だと。

【次回予告】

 死ぬのは誰でも嫌だ。

 しかし、遅かれ早かれ訪れるモノ。

 若き船長は苦悩する。

 この紅に燃える命をどう守るか……。

 次回【Chapter/16 決意=破滅】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ