【Chapter/15 風と焔と雷、そして……】その1
「海王星での試作量産型アテナ三機の戦闘力評価実戦は終わった。これら三機はいずれも基準値に合格した。この三機とイフリートを使い、敵の新型艦と灰色のアテナを殲滅せよ。尚、以後の指揮権は援軍としてこちらに来る、ルーベリッヒ・クロウス大佐が持つこととする。以上だ。なにか質問は無いかね、ソウスケ・クサカ中尉?」
「なにも……ありません」
司令部の言うことを聞いていればいいのだ。そうなのか? 本当にそうしていればアスナを助けられるのか?
ソウスケはデジタルで作戦会議が行われているパソコンの前に立ちそう思った。そこには司令部の軍人が立っている。彼らは命令を出すだけで戦場にはいない。そんな奴らの言うことを聞いている自分。恥ずかしくなってくる。
無論、司令部の命令は絶対だ。しかし、その命令でアスナが死んでしまうことがあるかもしれない。そうなったときは……。
無駄なことを考えるな! 一軍人の僕が考えても仕方の無いことだろうに。
しかし、ソウスケは考えることを止められなかった。気分転換にと自室を後にし、艦橋に戻ることにした。そこにはまだ誰もいない。それもそのはず、時刻は六時三十分。皆、まだ寝ている。しかし、ソウスケだけは違った。徹夜をするほど仕事があったので眠ってなどいられなかったのだ。
その殆どはクシャトリアを鹵獲されてしまったことに関する始末書だ。司令部は抗議ばかりしていつも、ソウスケを困らせる。
そういえば、クロノさんは無事だろうか? あの人なら大丈夫だろう……。あの人は世間の生き方を知っている。あの人なら……。
しかし、ソウスケは不安になる。殺されていたならば、自分の責任だろう。どうか生きていて欲しい。それだけがソウスケの願いだった。
「ソーウスケ!」
「わっ、なんだアスナか……早起きか?」
ソウスケに声をかけてきたのはアスナだった。朝早いのでまだ髪もくくっておらず、さらりとその金髪は腰に降りている。
「早起きは美容にいいらしいからね!」
「そう……」
「なに? 元気ないわね」
「んん、なんでもないよ。ただ、自分はこの艦の艦長でいいにかなぁーって思ってただけ」
「言いに決まっているでしょ! ソウスケのおかげで何人の人が助かったのと思っているのよ! ほら元気出……」
その時、ソウスケはアスナを抱き寄せた。
「守るから……絶対に守るから!」
「へ……? ま、まぁそのー私もソウスケを守るから!」
「ありがとう……僕って、みっともないよな」
「いいわよ! 今日だけ泣くことを許してあげるわ!」
アスナがそう言うとソウスケは大声で泣き始めた。こんなに泣いたのは中学生の頃に喧嘩で負けて以来だ。
守るんだ! なにがあっても……。
ここはどこ?
気がつくと私は草原にいた。そこは限りない緑で埋め尽くされている。綺麗な湖もある。だけど、綺麗とは思わなかった。
「あなたは?」
私は近くにいた少女に聞いた。その少女の後姿はどことなく私に似てるようにも見える。腰まであるその黒髪。それはまるで……。
「私は渚よ。広陵中学三……」
「嘘よ!」
「嘘なのはあなた。私がホンモノ」
その少女は私だ。
だけど、私も私。
「私はナギサ・グレーデン! あなたなんかじゃなナイ!」
「それは自分自身の存在を否定することにもなるわ。でも、あながち間違ってはいないの。私は『宇宙のハザマ』に選ばれたもの。所謂、監視者ってところ。で、あなたが私から偶然生まれた紛い物……」
「そんなことない! 私はナギサ・グレーデン! あなたは渚! それで十分でしょ!」
「私たちは本来一つ。でも、イレギュラーな存在。だから二人いる」
「消えて! 私の目の前から消えて!」
「嫌」
その少女の一言で私の中の何かが切れた。そして少女の首筋にそっと手を伸ばし、次の瞬間両手に力を入れる。少女は終始、無言で私を見つめた。でも、しばらくすると両目を飛び出すほど開き口を大きく開きそっと呟いた。
「私は死なない」
次の瞬間、ナギサが目を開けた所は医務室だった。目の前は真っ白な天井。ナギサはホッと息をつき横にうつぶせになり泣き始める。怖い夢を見た。自分が自分を殺した夢……。不気味だった。気持ちが悪い。
「あ、ナギサ! よかったー目が覚めたんだな」
「ショ……ウ先輩?」
ドアから入ってきたのはショウだった。
「はい、牛乳。これでも飲んで元気出して!」
「私が倒れた理由はなんですか?」
「あーストレスによる過呼吸で倒れたんだと……」
「ストレスなんてたまってないのに」
「まぁ自分のメンタルは自分には分からないものだって」
「そうかもしれないですけど……」
それでもナギサの顔は不安に包まれていた。ストレスが原因ではなくて他に原因がある。ナギサはそう思う。しかし、それ以外にどういう風な理由があるのか?
分からない……だけど
ナギサの中には夢の中で感じた《気持ち悪さ》がまだ少しだけ残っていた。