【Chapter/14 第十七独立機動艦隊結成】その2
少女は久々にシャワーを浴び、服を着てロビーに向かった。そこには金髪の男がいた。何年ぶりだろう、自分が自由になったのは。三年間、地下に監禁されていた少女の瞳は青空を待ち遠しく思っていた。
「そろそろ行くぞ、渚」
「わかっています、いきましょー。キョウジさんー」
渚はそう言うとキョウジについていった。彼女の言葉はぎこちない。しばらくすると渚はドアの前に立った。その向こうには青空があるだろう。きっと、そうだ。
少女は一歩、また一歩と体を前に進める。
そして、見えた。青い空が見えた。しかし、その青色も結局は人間の手で作られた紛い物。人工的な青。渚が前に見た空はホンモノだった。何一つ人間の手が加えられていない蒼い空。
だけど、風は感じられるの。やさしくてきもちいい。
だけど、きもちわるい。
それはこのせかいに私が二人いるからかなー? そうだ。それ。だからきもちわるいんだー。
だったらもう一人のわたしをけしてしまえばいいのかな?
けしたときはどんなにきもちいいんだろ?
渚はただ、青い空を延々と眺めていた。その先にいる、もう一人の自分を見つめているかのように……。そして、ケラケラと笑い出した。
「オイッこれはなんだ! 俺たちがこれを着るのか? 嫌だ!」
ショウは目の前にある服を見て叫んだ。あの後、ミウから手渡されたのは真っ黒のフリルのついた可愛い服。メイド服だ。
「そんなー似合うと思うんですが……」ナギサはため息をついた。
「冥土を見たい?」
「でも、似合いますよ、絶対! 一回着てみてください!」
ミウが企画したのは『女装・男装パーティー』だ。そして、ショウが持っているのはメイド服。どうやらハズレを引いてしまったようだ。シュウスケやリョウはもっとマシな服だろう。
ナギサのは普通の学ラン。ショウのよりは百倍マシだ。
しぶしぶ、ショウは部屋に入り着替えることにした。着慣れない服に悪戦苦闘するショウ。 しかし、サイズはぴったりだ。
「着替えられましたか?」
「ちょっと待って!」
そして、ショウの着替えは終わり部屋から出てきた。
「わ……」
ナギサの口はポカーンと開いたままだ。
シュウスケは会場(とはいえ例の二十畳ほどの部屋のことだが)に入った。そこにはナギサやサユリにリョウがいる。
学ランを着たナギサだがどう見ても女の子にしか見えない。サユリは神事服だ。だが、これも似合っているとは言えない。リョウはセーラー服。その姿はまさに委員長! クラスで一人はいる超真面目少女がここにいた。
「あれー。サユリ、ショウはどこに?」
「さぁ、知らないわ……」
シュウスケが周りを見回すと一人の少女に目がいった。その少女はさらさらとした黒髪のショートカットだ。彼女の着ているメイド服。それは見事なまでに似合っていた。少女のその瞳はシュウスケの視線を釘付けにする。そしてその視線は彼女の胸のほうに向いた。大きい。その一言に限る。それはメイド服の上からでも分かるほどの大きさ……。
あれ……メイド服て……?
しかし、その少女は少女ではない。少女という殻を被った少年だった。だが、少年だと分かっていても、彼女が可愛いと思う心にシュウスケは嘘をつけない。
「ショウ……か?」
「あ、ああ。そうだけど? やっぱ似合っていないかなぁ」
「似合って……いるぞ」
「あれ? シュウスケ、顔が赤いぞ」
「ねぇー。この胸どうしたの?」
サユリは聞いた。
「あ、これね。これは食堂のおばちゃんに頼んで貸してもらったサラダボールを……あれ、シュウスケは?」
「さぁ……さっきまでここにいたのに。サユリ先輩は知りませんか?」
「知らないわね……」
その頃、シュウスケは部屋の隅っこで泣いていた。理由は分かるだろう。
「二ヤァ!」
その時、エミルがナギサに抱きついてきた。
「やめなさい、エミル」
「アリューンさん、そんなに言わなくてもいいですよーエミルちゃん可愛いし」
「そんな事言ってくれるなんて……嬉しいよー」
エミルは瞳をうるうるさせてナギサを見つめる。
「あ、そうだった、ショウ君?」
「なんですか、アリューンさん?」
「ミウさんが呼んでるわよ」
「ミウさんが?」
「うん……何故かは知らないけど」
「分かりました。行ってきます」
そう言うとショウはミウのところに向かっていった。
「なんですかミウさん?」
「んーショウ君……やっぱり似合うわね」
ミウはショウの女装姿をじっと見つめる。
「よし! 私とカラオケを歌いましょ!」
「え?」
「やぁ……実はね、私も男装が似合っているって言われたのよー。そこで私ともう一人男装か女装が似合っている人を探していたの。で、見つけたのが君よ」
よく見ればミウの男装姿も似合っている。そのきっちりと絞まったネクタイに緑色のブレザー。それは一瞬、彼女が女であることを忘れるぐらいだ。
「じゃっ歌いましょ!」
「は、はぁ……」